「私たちが問われている」「被爆体験、世界の記憶に」「全ての人に、平和な日常を」 後を継ぐ世代やウクライナ避難者が語る、自分たちがやるべきこと【私の視点 ノーベル平和賞】
47NEWS / 2024年11月27日 10時0分
2024年のノーベル平和賞が日本原水爆被害者団体協議会(被団協)に授与される。 さまざまな立場の人に、受賞の意義を聞いた。(共同通信=黒木和磨、兼次亜衣子)
▽「日本の政策も前進を」核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲さん(56)
インタビューに答える川崎哲さん
近年、核兵器が軽々しく語られていると感じる。米議員がパレスチナ自治区ガザに原爆投下を促すような発言をしたり、石破茂首相が就任前に米国の核を日本で運用する「核共有」に言及したりしている。核がどういうものか分かっているのか。被爆者が語ってきた壮絶な体験から気付き直さなければいけない。
長らくノーベル平和賞候補として挙げられていた被団協への授賞は遅すぎたぐらいだが、その意義は、世界で核使用の恐れが高まる現状を止め、核廃絶へ向かうことにある。私たち後を継ぐ世代がどう行動するかが問われている。
受賞決定後、石破首相が、核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約へのオブザーバー参加を「真剣に考える」としたのは前向きなサインだ。市民の声が高まれば、政府がかじを切る可能性はある。受賞を受けても日本の政策が一歩も前進しないようでは恥ずかしい。
▽受賞が追い風、核廃絶が口にされ始めた
インタビューに答える川崎哲さん
核の存在で戦争や核使用を防ぐという抑止論は極めて脆弱(ぜいじゃく)なものだ。核保有国のロシアはウクライナに侵攻して使用を示唆しているし、イスラム組織ハマスは事実上の保有国イスラエルを攻撃した。2001年の米中枢同時テロも防げなかった。政治的理由があれば戦争は起きる。
被団協事務局次長の和田征子(わだ・まさこ)さんが「私たちがやってきたことこそ抑止力だ」と語ったが、名言だ。被爆者はつらい記憶を思い出し、体にむちを打って本当にしんどい思いをして証言を重ねてきた。核が使われたら大変なことになると認識することが人々の理性を働かせる力になる。
受賞が追い風になり、世界の政府高官や社会的に影響力のある方々が被爆者や核廃絶について口にし始めた。12月の授賞式の様子は世界中に伝えられる。被爆80年の来年にかけては、全世界で核の危険性を真剣に考える期間になると思う。
× ×
かわさき・あきら 1968年、東京都生まれ。NGO「ピースボート」共同代表。国際運営委員を務めるICANは2017年にノーベル平和賞受賞。
▽「“被爆展示はグロテスク”にショック」核廃絶を目指す一般社団法人「かたわら」代表理事の高橋悠太さん(24)
インタビューに答える高橋悠太さん
中学の時、被団協の代表委員だった坪井直(つぼい・すなお)さん(2021年に96歳で死去)と出会い、証言の聞き取りをしたことが私の原点だ。結婚差別を受けて自殺を図ったことをぽろぽろと涙を流しながら話す姿に心を打たれた。被爆から長い時間がたっても癒えない傷を負っていることを知った。
受賞決定を知り、坪井さんら被爆者の皆さんの顔が浮かび、胸がいっぱいになった。一方でこの授賞は国際社会への警鐘だ。世界は核戦争の一歩手前にある。私たち新しい世代は、被爆者の体験を世界の記憶にしていくためにできることは何でもやっていかないといけない。
先日、ショックなことがあった。地下鉄車内で、修学旅行で広島に行くという女子高生が「資料館グロいの嫌なんだよね」と話していた。原爆資料館の展示をグロテスクだと言ってしまうのは、被爆が同じ人間に起きたことだと捉えられないほど、時間の経過とともに意識の変化が生じているということだ。
▽被爆者の人生を語り継ぐ重要性
インタビューに答える高橋悠太さん
被爆者とはひ孫ぐらい年齢の離れた私たちの世代にとって、核問題を自分ごとと考えるのはハードルが高い。それを越えるには、被爆者の顔を想像できるようにすることが必要だと思う。そのために、私たちがいかに被爆者の人生を語り継いでいけるかが重要だ。
核廃絶に向けた市民運動に若い世代が参加することも大切。80年先を見据える立場からすれば、核抑止による短期的な対応で世界を核使用の脅威にさらし、「平和」だというのは理解できない。若い世代の関心を広げるには、核を広島と長崎だけの問題に矮小(わいしょう)化させてはいけない。
受賞はゴールではない。坪井さんはかつて「ノーベル賞より核廃絶だ」と語っていた。受賞はもちろん喜ぶと思うが、核戦争が迫る現状を憂うはず。「被爆者の皆さんが頑張ってこられた分、これからは私たちが頑張ります」と伝えたい。
× ×
たかはし・ゆうた 2000年、広島県生まれ。「核政策を知りたい広島若者有権者の会」共同代表も務める。
▽「核の脅威、故郷の日常に」ウクライナから避難するイリーナ・デルガチョワさん(31)
インタビューに答えるイリーナ・デルガチョワさん
故郷のウクライナ東部ハリコフにいた2022年2月、ロシアの侵攻が始まった。爆撃で火に包まれる建物、地震のような地響き―。母と避難を始め、2022年4月からは、以前住んだことがある日本に身を寄せている。
昨年5月、広島の原爆資料館を訪れた。破壊された街の写真や焼け焦げた衣服を見て、悲惨さに言葉を失った。民間人に多大な犠牲が出た母国のマリウポリを思い起こす展示もあった。核兵器は非人道的だ。
ロシアは核威嚇を続けている。核兵器の開発は続いており、今、使われれば広島と長崎よりはるかに大きな被害が出るだろう。北朝鮮がウクライナとの戦闘に参加するなど戦線は拡大している。武力で相手を制圧しようとする以上、応酬はやまないし、いつか核使用につながるかもしれない。武器を捨て、話し合いで解決を目指すべきだ。
故郷の街は今も爆撃され、ウクライナの人は核の脅威におびえている。そんな現実が日常となってしまった。中東でも戦闘が激化し、ニュースを見る度に胸が痛くなる。もう誰も、戦争の犠牲になってほしくない。
▽行動を重ねることで、世界を変える
インタビューに答えるイリーナ・デルガチョワさん
日本に避難した当初「私には何もできない」と無力感にさいなまれていた。だが、平和を願うイベントに参加したり、多くの人と交流したりするうちに「できる範囲で行動を重ねることが、少しでも世界を変えるのでは」と思うようになった。
だから、被団協の受賞決定には勇気をもらった。彼らの活動の結果、多くの人々が核の恐ろしさを知ることができた。大きな成果を得られなかった時期もあっただろう。それでも努力を積み重ね、世界を動かしてきた。
鉄骨をさらした広島の原爆ドームは、この歴史を繰り返してはならないと伝えている。平和賞を希望に「核なき世界」を目指したい。武器をなくし、平和な日常を送る権利を全ての人が取り戻す日が来ると信じている。
× ×
1993年、ウクライナ生まれ。来日後は通訳の他、母国の料理や文化を伝える活動を続ける。
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