「議論すべきは不記載防止」石原伸晃・元自民党幹事長、「『全国民の代表』自覚を」一橋大・江藤祥平教授 政治資金規正法再改正インタビュー(上)
47NEWS / 2024年12月14日 9時0分
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けて6月に改正された政治資金規正法の再改正に向け、与野党が動き出した。自民党の生命線とも言える企業・団体献金は、ブラックボックスとの批判が相次いだ政策活動費は、第三者機関の制度設計は―。「ザル法」の抜け穴をどうふさぐべきなのか、元自民党幹部や憲法の専門家に聞いた。(共同通信=川嶋大介)
▽性急な議論は規制法の理念を損なう―元自民党幹事長の石原伸晃氏
石原伸晃氏
衆院選で大敗し少数与党となったことが、石破茂首相に政治資金規正法の再改正を急がせているように見える。ただ政権の延命のため性急に議論を進めては、規正法の理念を損ないかねない。
規正法は政治資金を国民がチェックできるようにし、ルールの範囲内で活発な政治活動を促すものだ。一方、野党が主張する「企業・団体献金の禁止」は収入減につながり、政治活動の縮小を招く恐れがある。「政治資金を監督する第三者機関」は中立性の確保が課題だ。「このときの会食相手は誰か」などと監視が行き過ぎれば、政治家が萎縮しかねない。
極論を言えば「政治家は何も活動せず、金を使わないことが最善」となってしまう。そういう改革を国民は本当に望んでいるのか。「献金が多く集まる自民党の勢いをそぎたい」という野党の思惑もあり、不記載をいかに防ぐかという本質から議論がそれている。
石原伸晃氏
もちろん、この事態を招いたのは自民だ。政治資金収支報告書に記載していれば問題とならなかった派閥政治資金パーティーの収支を、なぜ正確に書かなかったのか。国民は納得していないし、正直、私も疑問に思う。
各議員が不記載の理由や資金の保管方法、使途を改めて調査し説明してはどうか。仮に誰かの指示があったならばそう言えばいい。記録が残っていないなど限界はあるだろうが、国民の「なぜ」に向き合ってほしい。
その上で、国民が必要と考えれば透明性をさらに向上させればいい。国会には多様化する民意をくみ取るため、政治家に一層仕事をさせるための改革を期待したい。
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いしはら・のぶてる 1957年神奈川県生まれ。自民党政調会長や幹事長を歴任し、現在は党東京都連最高顧問。
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政治資金規正法 政治活動の公正性や透明性を確保する目的で1948年に施行された。自民党派閥裏金事件を受け今年6月に成立した改正法では、政治資金パーティー券購入者名の公開基準を引き下げ、不正が見つかった場合などに政治家の責任も問う「いわゆる連座制」が導入された。再改正に向けた議論では企業・団体献金の規制の在り方が最大焦点となる。
▽「全国民の代表」自覚を―一橋大の江藤祥平教授
インタビューに答える一橋大の江藤祥平教授
自民党は「寄付の自由は最高裁判決で認められている」との理由で、企業・団体献金の禁止に踏み込まないことを正当化している。しかし、判決は献金を無条件に容認してはいない。
岸田文雄前首相が国会で挙げたのが、八幡製鉄(現日本製鉄)から自民への献金について株主が「定款の目的範囲外だ」と当時の取締役を訴えた「八幡製鉄献金訴訟」だ。最高裁は1970年、「会社といえども政治資金の寄付の自由を有する」と判断したが、「公共の福祉に反しない限り」とくぎを刺した。リクルート事件発覚前の判決である点も留意すべきだ。
判決はまた「大企業の巨額寄付は金権政治を生む」という懸念にも応え「立法政策を待つ」と国会にボールを投げた。今回の政治資金規正法の再改正でたとえ企業・団体献金を禁止しても、それは立法政策の枠内であり、憲法違反とはみなされないだろう。
江藤祥平教授
争点は、現行の企業・団体献金に対する規制が公共の福祉を十分実現しているかどうかだ。これだけ政治不信が高まる中、国民の信頼を回復するためには抜本的な対策が求められる。
与党が「献金の有無が政策に影響した事実はない」と主張しても「資金を多く出す組織の言いなりなのではないか」という疑念を国民に抱かせること自体が民主主義には致命的だ。国民に自身の声が平等に反映されているとの実感がなければ、1人1票の投票権に価値を見いだせなくなってしまう。
これは国民主権を左右する問題だ。国会議員は企業・団体の代表ではなく全国民の代表であることを肝に銘じてほしい。
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えとう・しょうへい 1981年兵庫県生まれ。専門は憲法学。弁護士経験もある。
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企業・団体献金 企業や業界団体からの政治献金。政治家個人への献金は2000年に禁止されたが、政治家が代表を務める政党支部は受け取ることができる。平成の政治改革で企業・団体献金を禁止する代わりに政党交付金が導入された経緯があり、野党は現状を「二重取り」と批判。政治資金規正法の再改正では、立憲民主党などが禁止を主張している。
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