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「一緒になりたい」と言われていたのに、気付けば「ストーカー」扱い 相手の言い分を鵜呑み?法律を“悪用”されても取り消せない「警告」、いったいなぜ

47NEWS / 2024年12月18日 9時0分

取材に応じる60代の女性

 「一緒になりたい。妻とは離婚する。定年まで待ってほしい」
 首都圏の金融機関の関連会社に勤める60代の男性からこんな言葉を掛けられ、3年半にわたって不倫関係を続けた60代の女性。本当に妻と別れるつもりがあるのか確かめたくて、ある日男性の自宅を訪れた。すると約半年後に待っていたのは、警察からの「ストーカー扱い」だった―。
 この女性のように、身に覚えがないのに、警察の捜査対象になったり、ストーカー規制法上の「警告」を受けたりする例があるという。女性の代理人の松村大介弁護士は「相手方の一方的な言い分だけで話が進んでしまうことがある」と法律の問題点を指摘。さらに、それが“悪用”だとしても、ひとたび認定を受けてしまうと、警告の取り消しは極めて難しいのだという。どういうことなのだろうか。(共同通信=帯向琢磨)

 ▽しびれを切らして


SNSのアプリなどが並ぶスマートフォンの画面

 女性への取材によると、2人はSNSを通じて知り合った。当初はオンラインでのやりとりだけだったが、2021年に初めて対面。お互いに家庭を持っていたが女性の自宅で関係を持つようになった。
 「12月25日から一緒に暮らさないか。クリスマスプレゼントだよ」。2024年の初めにこう言われたが、その後進展しない状況にしびれを切らし、自宅に行って良いか尋ねた。「好きにすればいい」。4月ごろ実際に訪れると、男性は妻と出てきた。不倫を完全否定し「女性に脅されている」と釈明したという。
 ただ、男性はその後も女性の自宅を訪れ、会社から支給された携帯電話を使って連絡してくるようになった。そんな2人の関係に亀裂が生じ始めたのは夏ごろのことだった。

 ▽青天のへきれき


松村大介弁護士

 7月ごろ、男性の勤務地が変わることになり「今後は来られなくなる」と告げられた。9月には男性の会社の苦情窓口に、2人の関係をばらす情報が寄せられ、男性は女性の仕業だと疑った。
 女性の自宅に3人の警官が訪れたのはこの直後。「メールやラインが来て困っていると、男性から被害届が出ている」。青天のへきれきだった。理解に苦しみしばらく寝込んだ。1カ月もせずに、今度は別の署の警官がやって来た。男性に非通知の電話がかかっているとして、発信履歴の確認を求められ、「相手の電話番号を消すように」と言われた。
 女性にとってはいずれも身に覚えがなかったが、このままいくと、次はストーカー規制法上の警告や禁止命令が出されるかもしれない。ますます不安が募った。

 結果的に、そもそもストーカー行為はしていないことなどを松村弁護士が警察に主張して、それ以上の手続きに進むことはなかった。だが女性は「当事者同士で話すべきところなのに、こんな風に警察を使うのはおかしい」と憤る。もう関係は絶っているが、たまたま遭遇してしまうリスクを負いたくないと、女性は関西地方に転居した。

 ▽恋愛感情があったのはむしろ…


「ストーカー行為を規制する法案」を可決した参議院の委員会=2000年5月

 今回の女性は未然に防げたが、中国出身で奈良県に住んでいる30代の女性は相手方の言い分だけで警告を受けたと訴える。女性側の主張によると、経緯はこうだ。

 大学院に所属している女性は、研究室の指導担当で同世代の男性から「家に行ってみたい」と言われるなどアプローチを受けた。性交渉を要求され当初は断ったが、人間関係が悪化して研究に支障が出てはいけないと応じた。だがその後、妊娠の可能性を伝えたところ男性から急に接触を避けられるようになり「絶対に来ないでください」「研究や仕事以外では構わないでください」とラインで言われた。

 女性は自らラインをブロックし、極力接触を避けていたが、約4カ月後にあった研究室の懇親会が転機となった。自分のほぼ正面に座るなど男性の行動に理解ができなかった女性は、ビジネス専用アプリで「できれば今日話させていただきたいです」「お話しするのが難しかったら、もう今後何もおじゃましないから心配はいりません」などと6回送信した。
 これを受けた男性の申告により、奈良県警は「反復してつきまといをする恐れがある」として警告を出した。女性側は「恋愛感情はなく、面会や交際の要求はしていない。恋愛感情を抱いていたのはむしろ男性の方だ」と訴えているが、事前にそうした弁解の機会は設けられなかったという。

 ▽裁判は「門前払い」


 事実上「ストーカー」とのレッテルを貼られ、大きな不利益がある―。女性は警告の取り消しを求めて2022年12月に提訴した。最高裁まで争ったが、今年12月に敗訴が確定した。
 ただ、一審奈良地裁、二審大阪高裁は、女性の行為をストーカーと認定したわけではなかった。そもそも警告の取り消しという請求内容が「裁判の対象にはならない」と判断したのだ。女性側からすればいわば「門前払い」となり、本題に進むことすらできなかった。最高裁も一、二審の判断を是認した。

 では「裁判の対象にならない」とはどういうことか。
 ストーカー規制法は恋愛感情などの好意やそれが満たされなかったことに対する恨みの感情を満たす目的で、本人や家族らに対し、つきまといや面会・交際の要求、無言電話、位置情報の取得などによって身体の安全や名誉を害するなどしてはならないと定める。そして被害者の申し出により、警察は警告やより厳しい禁止命令を出せるとしている。痛ましいストーカー事件がきっかけで制定された議員立法だ。

 一方、行政事件訴訟法は、取り消しを求めることができるのは「行政処分」が対象だと規定している。つまり争点は、警告が行政処分に該当するかどうかだった。
 女性側は、警告が、違反した場合に刑罰が科せられる禁止命令の前段階であることや、銃刀法には警告を受けた人は所持の許可を得られない「欠格事由」が設けられていることなどから、「警告には法的効果があり、処分性がある」との論理を組み立て、取り消しを求めることができると主張した。
 だが、立法時の国会答弁などによれば、警告は行政処分には至らない「行政指導」と位置付けられると解釈されており、女性側はこれを覆すことができなかった。行政処分でなかったとしても、警告が違法かつ無効であることなどの確認を求める訴えも予備的にしていたが、それも合わせて退けられた。

 ▽法律のあるべき運用


最高裁判所

 ストーカーによる凄惨な事件は後を絶たず、未然に被害を防げるように法律が広く網を掛けていることに異論は多くないはずだ。ただ、それが「悪用」や「ぬれぎぬ」の可能性があったとしても、誤解を解くためには非常に高いハードルが課されている実態が浮き彫りとなった。

 「国民が不利益を受けているのに門前払いされてしまっている。救済手段がないことに憤りを感じる」。最高裁から敗訴確定の知らせを受けた松村弁護士は落胆しつつ、こう提言した。
 「警告や禁止命令は、誤解の場合もあるし、加害者であるという自覚がないまま発せられる場合もある。適切な反論の機会を設けることで、加害者とされる人も納得できるケースもあり、しっかりしたプロセスを踏むことが法律のあるべき運用ではないか」

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