LGBTQ当事者が届ける希望の種、居場所づくり、出張授業 「大丈夫、一人じゃない」【地域再生大賞・受賞団体の今】
47NEWS / 2024年12月26日 9時30分
自分の性の在り方に悩む子どもたちが安心して過ごせる居場所づくりに、広島市在住のLGBTQ当事者2人が取り組んでいる。活動開始から7年近く。本人や保護者、サポーターが交流する会を70回以上開いた。性の多様性を伝えようと、学校や企業などに出向く出張授業や講演・研修は計400回以上に及ぶ。
心を閉ざし、孤独を感じた子ども時代の経験から、かつての自分たちと同じように苦しむ子に「大丈夫、一人じゃない」と寄り添い続ける。「自分を大切にして、自分だけの花を咲かせてほしい」と願う。(共同通信=藤田康文)
▽思い思いの色
思い思いの色を塗る子ども
「今日は自分が本当に好きな色を見つけてもらいます」。思い思いの色の鉛筆を手に取り、かばんの塗り絵に取り組む小2の児童たち。「ここいろhiroshima」が2024年9月、広島県府中町の府中北小で行った出張授業だ。
共同代表の高畑桜さん(32)は「生まれたときは女の子。心の中は男の子と女の子が半分ぐらい」、當山敦己さん(33)は「女の子として生まれたけど、今は男の人として生きてます」と自己紹介した。
お互いの違いを認め合う大切さを伝える當山敦己さん(画像の一部にモザイクをかけています)
黒板に全員の作品を並べ、真ん中に高畑さんは「ひとりひとりがたからもの」、當山さんは「じぶんとともだちのすきをたいせつにする」と書いた。児童の一人は「みんなが好きな色が分かって、うれしかった」と話した。
▽受け入れられた
多様な性の在り方を説明する高畑さん
5年生の授業で「性別はグラデーション(連続的で境目がないこと)。あっちは全部男性、反対は全部女性って区切るのは難しい」と伝え、2人は自らの生い立ちを話し始めた。
最初は高畑さん。「子どもの頃、女の子が好きな自分のことを周りに言えなかった」「なりたかった小学校の先生になったけれど、忙しくて、しんどくて心の病気で学校に行けなくなった。そんな時に両親に初めて本当の気持ちを伝え、ぎゅーっと抱き締めてもらった。『そのままの自分でいい』と前向きになれた」
続いて當山さん。「小学校の卒業直前に生理が来て、強烈なショックと嫌悪感があった」「大学時代、自分がトランスジェンダーであることを、信頼する先輩に打ち明けた。『違いは魅力』と丸ごと受け入れてもらい、めちゃくちゃ安心した」
2人とも子どもの頃、ある事情から自分の家庭内のことでも悩んでいた。當山さんは25歳の時に戸籍上の性別を男性に変え、その後生まれ育った沖縄から広島に移った。こうしたことも含め率直に語った。児童は真剣に聞き入っていた。
▽ともに過ごす
バーベキューを楽しむ参加者(ここいろhiroshima提供)
2024年10月、青空が広がる広島市内の公園。小中学生や高校、大学生、保護者世代など約30人がバーベキューやおしゃべりを楽しんだ。ここいろhiroshimaが定期的に開く「ここいろ会」だ。
たき火や屋内活動など内容は季節によってさまざま。高畑さんと當山さんは、年代に関係なく、ともに過ごすことが一番大事だと考えている。テーマを決めてみんなで話し合うようなことはあまりしない。
▽つながった!
當山敦己さん(左)と高畑桜さん=2024年9月、広島市
高畑さんと當山さんが出会ったのは7年前の2017年12月。性的少数者のカミングアウトを応援するイベントがきっかけだった。悩む子たちに、将来像が描けるようなロールモデルを示し、ありのままでいられる居場所をつくりたいと意気投合した。
翌年2月に第1回のここいろ会を開いた。「誰も来なかったら2人でお茶でも飲みながら過ごそう」と話していたら、12人も参加した。大人がほとんどだったが、悩みを抱える子も来てくれた。2人は「つながれた!」と感じた。次回を楽しみにしてくれる人が増えていった。
参加者からは「相談できる人がたくさんできた。安心して生活できるようになった」(中学生)「本音を言える、自分を受け入れてもらえる場」(高校生)といった声が寄せられる。
▽輪が広がる
「ここいろ会」に集まった人たち(ここいろhiroshima提供)=2024年10月、広島市
その後、中高生の会や保護者の会もできた。同じ立場の人が交流し、病院や制度などの情報を交換している。大学生や20代の人が中高生を支援する。
ずっとLINE(ライン)を使って、子どもたちから相談を受けている。ラインの登録者は900人以上で、相談専用のアカウントを通じて175人とつながる。
活動が広がり、ここいろhiroshimaは2024年1月に一般社団法人となった。収入の柱は講演料。寄付をしてくれるサポーターも80人以上いる。自然の中で自らを見つめ直す有償の体験プログラムも始め、こうした自主事業を増やしたいと考えている。
▽伝えたいこと
授業を終えて子どもたちに囲まれる高畑桜さん(左)と當山敦己さん(画像の一部にモザイクをかけています)=2024年9月、広島県府中町
當山さんは出張授業で子どもたちに「いろんな人に出会ってほしい。味方になってくれる人、応援してくれる人は必ずいる」と力を込めて語った。
高畑さんは授業の後「子どもたちに『生きていれば何とかなるよ』と伝えたい。頼りたい、つながりたいと思ってもらえれば」と話した。
高畑さんは放課後等デイサービスの指導員で、女性のパートナー、ネコ2匹と暮らす。當山さんは広島で出会った女性と2022年に結婚し、介護の仕事をしている。
2人のライフストーリーは、ここいろhiroshimaのホームページに詳しくつづられている。
× ×
47の地方紙とNHK、共同通信が各地の地域づくりを応援する「地域再生大賞」は2024年度に第15回の節目を迎えた。「ここいろhiroshima」は23年度のダイバーシティー賞に輝いた。
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