「プロ野球90年」巨人ファン・井森美幸さんが語る野球の魅力 「2軍落ちして『桑田ロード』を走っていたタレントでした。野球はいろんな人生を教えてくれる」
47NEWS / 2024年12月25日 9時0分
発足から90年を迎えたプロ野球への思いを聞くインタビューシリーズ。大の巨人ファンとして知られるタレントの井森美幸さんが、4年ぶりの優勝の喜びや、タレント生活の支えともなっている野球の魅力を語った。(聞き手 共同通信・児矢野雄介)
▽岡本選手にもらい泣き
リーグ優勝を決めて胴上げされる巨人・阿部慎之助監督=2024年9月、マツダスタジアム
4年ぶりの優勝。本当にうれしかったです。長かったとも感じますし、やっぱり昨年まで2年連続でBクラスだったというショックが大きかったですね。シーズン途中は「もうこんなに他チームが迫ってきた」とドキドキしながら見ていました。今年のセ・リーグは阪神の追い上げがあったり、広島とDeNAの3位争いがあったり、最後まで楽しめたシーズンだったなと思いました。
優勝した瞬間の岡本和真選手の涙にはもらい泣きしました。どちらかと言うと感情を抑えながらポーカーフェースでプレーする選手で、あそこまで感情を出すタイプとは思っていなかったんですけど、チームを引っ張る立場で、抱えていたものがあったのでしょうね。
阿部慎之助監督は球団初のキャッチャー出身の監督。原辰徳前監督とは違った野球になるのかなと思っていたし、投手陣の大切さを改めて感じました。最後まで投手陣全体が機能していて、チーム防御率は昨年より1点近く良くなりました。もちろんホームランの打ち合いも楽しいんですけど、守り勝つ野球の面白さを見せてくれたと思います。点が入らなくて手に汗握る場面が多かったけれど、それも心地よい感じ。試合を重ねるごとに安心感が増していって、キャッチャー出身の監督がやる野球の魅力を知ることができたシーズンでした。
何と言っても、開幕戦での梶谷隆幸選手のダイビングキャッチ。あれはビッグプレーでしたね。ホームランも打ってお立ち台に立ちましたし、あれで勢いづいた気がします。阿部監督が初陣で勝利を手にすることができたし、昨年日本一の阪神に勝てたことで乗っていけた。あのプレーは忘れられません。
▽しびれた「10・8」
ゴールデンタイムに巨人戦の中継が毎日ある時代に育った世代。家でずっとお父さんが見ているので、もう見るしかないんですよ。王貞治さんがホームランを打つたびに、「ほら、王が打ったよ」という会話があって、環境がジャイアンツファンにさせたという感じですね。小学校では男子はだいたい巨人の帽子をかぶっていました。
隅から隅までよく見るようになったのは、大人になって東京に出てきてから。槙原寛己さん、斎藤雅樹さん、桑田真澄さんの「3本柱」が活躍した1990年代ですね。
思い出の試合は94年に中日とリーグ優勝を争った「10・8」。あんなに条件がそろったしびれる試合がありますか。同じ勝率でシーズン最終戦で直接対決。あんな状況は今後も生まれないだろうっていうような試合ですよね。それこそ長嶋茂雄監督が言ったように「国民的行事」でした。
桑田さんも斎藤さんも2日前とか3日前に投げていましたけど、「3本柱」による継投。「総力戦でいきます」とは言うけれど、本当にいくんだなって、あれはやっぱりすごかった。移籍したての落合博満さんが前の年まで同僚だった今中慎二投手からホームランを打って、すごく物語がある試合でした。やっぱり長嶋監督は、何か持っていらっしゃいますね。
▽平成の大エース
中日戦で完投勝利を挙げた巨人・斎藤雅樹=1996年7月、東京ドーム
斎藤さんは本当にすごいピッチャーでした。沢村賞を3回取って、11試合連続完投勝利に2年連続20勝。考えられないですよね。「10・8」では2番手で5回を投げた。普段はやらないリリーフの難しさもある中での大仕事だったと思います。
あまり派手さはなくて、淡々と投げる感じなんですが、ちょっとくたびれたような顔に見えるときでも完投したり完封したり、積んでいるエンジンが違うんですよね。バッティングもいいし、フィールディングもとにかくうまかった。すごく頼れる「平成の大エース」でした。仕事でお会いするとすごくお人柄が良く、温厚で朗らか。いつも「斎藤さん、本当にすごいですよね」と伝えるんですが、「いや、そんなことないよー」ってにこにこしています。
子どもの頃はやっぱり王さんがヒーローでしたし、中畑清さんもすごく元気があって好きでした。大人になると、川相昌弘さんのすごさも分かります。地味ですけど、緊迫した場面で送りバントをきちんと決める川相さんはやっぱりすごい。「明日への送りバント」という本を出されているんですが、なるほどなと思うことがたくさん書いてあります。野球を知れば知るほど、記録を持っている人のすごさは実感しますね。
▽この空間を楽しみたい
昔は圧倒的に巨人ファンが多い社会でしたが、今はずいぶんプロ野球を見る目線が変わってきたと思います。プロ野球界における巨人の立ち位置も変わってきたし、おそらく球団もそれをすごく理解していて、違った形でアプローチしようとしていると感じます。
今シーズンは負けた試合の後でも必ずグラウンドに整列して、あいさつをしていました。私は地方出身で、たまに地元の親戚と一緒に野球を見に行くことがありますが、田舎の人って勝っても負けても「最後まで選手を見たいな」と思うんです。年に1回しかないような楽しみなので、最後までこの空間を楽しみたい。あれは地方から出てきている子どもたちとか、おじいちゃんおばあちゃんたちがみんな喜んでいると思います。「試合は負けちゃったけど、阿部監督や岡本さんが見られた」というのが年に1回の楽しみになって、「また来年来たいな」という思いにつながるんですよね。
▽「桑田ロード」を走っていた
阪神戦で完封した巨人・桑田真澄=1998年9月、甲子園球場
スポーツは元気と勇気と感動をもらえる。年齢を重ねたベテラン選手が必死に頑張っている姿や、若い子が必死にチャンスをつかもうとしている姿を見ると、私も何かに挑戦しよう、もっと自分を磨いていかなきゃという気持ちにさせてくれます。
仕事をしながら、自分の年齢やキャリアを野球に置き換えて、「私はどの役割をやっているんだろう」と考えたり、野球に教えられたりすることも多いです。新人オーディションの「ホリプロスカウトキャラバン」で優勝して芸能界に入り、言ってみればドラフト1位だったんですけど、2年目から鳴かず飛ばずでファーム落ちしました。「この先どうしたらいいんだろう」という感じで、桑田さんが手術の後のリハビリで走っていた2軍球場の「桑田ロード」をひたすら走っていたようなタレントでした。
常に自分の居場所を確認しやすいのが野球なんですね。「この年齢になったら代打で準備しなきゃ」とか。変にセンチメンタルにならないように、それを楽しみながら自分の役割を考えたりしています。いろんな人生を教えてくれるのが野球というスポーツ。だから楽しいんですよね。
▽夢のある未来へ
インタビューに答える井森美幸さん=2024年10月
今は女子野球もかなり盛んになってきて、巨人も女子チームを持っています。以前ならやりたくても断念していた女の子たちも、野球ができる環境になってきた。そういう風に変わっていくことはすごく素敵なことだし、未来への希望がつながっていくので、どんどん広まってほしいなと思いますね。
私は小学校の高学年の時にソフトボールをやっていましたが、中学にソフトボール部はなくて、もちろん当時は女子が野球部に入るような環境ではなかったので、小学校でやめちゃいました。女の子も野球ができる環境があったら、やっていたと思います。
いろいろと社会が変わっていく中で、新しく取り入れることと、変えてはいけないもののバランスを取りながら、夢のある未来へつながっていくような野球界であってほしいですね。
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