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「どう猛な犬は、殺傷能力のある凶器と一緒」闘犬に襲われ一変した生活  問われるモラルと飼育方法…安全に家族として迎え入れるには?

47NEWS / 2024年12月21日 9時0分

岐阜県各務原市で人を襲った犬ではありません、9月に茨城県小美玉市で一時逃走したアメリカンピットブルテリア(同市提供)

 週末の昼下がり、交差点を自転車で帰宅中だった女性(85)が襲われた。路上に投げ出された女性は右腕をかまれていた。襲ったのは、世界最強の犬として知られる闘犬種、アメリカンピットブルテリア(ピットブル)。女性はこの22・6キロの雄犬に左耳もかみちぎられ、通常の生活が送れなくなった。
 当時、飼い主はリードを腰に巻き、犬に引っ張られるまま歩いていた。ピットブルはその後、別の事件も起こし、重過失傷害罪に問われた飼い主の女性(27)は有罪判決を受けた。
 適切に飼育されていないピットブルが逃げ出したり、人に危害を与えたりするケースが全国各地で相次いでいる。飼い主のモラルや管理のあり方が問われている。(共同通信=村社菜々子)

 ▽耳鳴りやまず、トラウマで妄想「人生強制終了」

 事件が起きたのは、2022年11月27日午後1時ごろ、岐阜県各務原市での事だった。関係者によると、女性は自ら警察と消防に通報した。治療を受けたが耳鳴りがやまず、当時のトラウマもあり妄想や幻聴にさいなまれ、入院が続く。趣味だった友人とのカラオケも楽しめなくなった。
 女性の知人は「本人の意志とは全く関係なく、強制的に人生を終了させられた」と悲嘆する。病院の規則で差し入れが許可されているゼリーを持って行ってあげることが多いが、面会室でゼリーを黙々と口に運ぶ姿を見るたびに、やり切れない気持ちでいっぱいになるという。
 知人は静かに怒りを露わにする。「どう猛な犬は、強い殺傷能力のある凶器と一緒ではないか。どう猛性を十分認識していたなら、ほぼ自由に動ける状態で屋外になぜ連れ出すのか」

 ▽2人目の被害者、部活へ向かう朝に突然


ピットブルに襲われ、左脚を負傷した原口将さん=9月、岐阜県各務原市

 この犬はもう一人の被害者を出した。2023年8月31日午前7時ごろ、高校1年だった原口将さん(17)は部活に向かうため、同じ野球部の同級生と一緒に自転車に乗って川の土手を走っていた。その時、いきなり真横からかみつかれ、膝裏に鋭い痛みが走った。数カ所に牙が食い込み、深さは約2センチに及んだ。
 「突然過ぎて何も考えられなかった」と振り返る原口さん。筋肉がしびれて立つことができず、病院に搬送された。一カ月半の大けがだった。通院時、傷跡に管を入れ、洗浄することもあった。
 飼い主の女性は当時、自身で犬を連れ出していなかったが、犬が懐いていない80代の祖父に十分な注意点を伝えないまま散歩を任せていた。原口さんは部活に復帰できるくらいに回復したものの、今も傷跡が生々しく残る。通学や散歩でも利用される人通りの多い道。扱いに不慣れそうなおじいさんが、犬の散歩に不向きな場所に連れてきていたことに怒りが湧いたと当時の心境を振り返り、「部活にも行けず悔しかった」と漏らした。

▽「危険は十分予見できた」飼い主は有罪に


岐阜地方裁判所

 飼い主は重過失傷害罪に問われ、岐阜地裁で今年7月、判決が言い渡された。禁錮6月、執行猶予4年。裁判所が指摘した主な内容は以下のようなものだ。「事故防止対策をとるよう呼びかけるパンフレットを読まず、しつけもできていなかった」「危険は十分予見でき、過失は重大」―。飼い主は「申し訳なかったです」と小さい声で繰り返し、うつむき鼻をすすって裁判官の言葉を聞いた。
 被害者らとは損害賠償を支払うことで合意したものの、支払いは難航しているという。

 ▽逃走事案各地で


ピットブルの主な逃走事案

 岐阜県獣医師会の柴田真治会長理事は、ピットブルについて「かむとイノシシの皮膚でも裂ける、鉄筋性の檻を壊せるほどの力を持つものも。飼育には適切なしつけが必要だ」と強調する。動物病院では受付時に、犬を治療する際にはちゃんと押さえつけられるかどうか確認し、人や他の動物と接触しないよう注意するという。
 2023年や同年度末時点で登録されているピットブルは、札幌市42匹、茨城県191匹、佐賀市9匹など。
 逃走した犬が人に危害を加えるケースは今年、各地で起きている。4月に栃木県栃木市の路上で、逃げ出したピットブルが散歩中の犬と女性を襲い、助けようとした男女3人も手や腕をかまれた。4~9月にかけては北海道鷹栖町や栃木市、群馬県邑楽町で住宅などから1、2匹が逃走。茨城県小美玉市では民家に1匹が迷い込み、保護しようとした住民の手をかんだ。市職員が捕まえようとしたが逃げ、その後飼い主の自宅近くで捕獲された。

 ▽檻での飼育、リードは両手で…覚悟を持った飼育を

 各地の自治体の中には、ピットブルの飼育について条例で定めを設けているところもある。これらの自治体ではピットブルを、人に危害を加える恐れがある「特定犬」に指定し、錠のついた檻で飼育することなどを求める。不適切な場合は罰金を科す。
 岐阜県に同様の条例はないが、人通りの少ない道や時間帯を選んだ散歩や、両手でリードを持つことを呼びかけている。
 柴田会長理事は、制御しやすく犬に引っ張られにくいことからハーネスよりもリード(首輪)での散歩を推奨し、「犬の性格に合わせた適切なしつけができる人に飼ってほしい」と求める。事故の再発防止に向け、原口さんの父義博さん(46)は「安易に飼えないよう、適性を審査する許可制を導入すべきだ」と訴えている。

 3頭のピットブルを飼育する動物愛好家のパンク町田さんは、今回の事件について「ピットブルだから起きたのではなく、飼い主の勉強不足が原因で生じてしまった事故ではないか」と話す。パンク町田さんによると、ピットブルは「強いが本来は温厚な犬」だという。ただ、強い生き物だからこそ「扱うためには勉強が必須だ」と強調し、次のように提案する。「特定犬といって規制をかけるだけでは事故は減らない。運転免許のように、年に一度の講習を設けるべきだ」
 ピットブルを家族の一員として迎え入れるためには、愛情だけでなく適切な飼育を施す相当の覚悟が求められている。

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