“飲酒運転”に“30キロオーバー”―「これがなぜ、危険運転にならないのか」 事故で家族3人を奪われた遺族が、分かりにくい法律に思うこと
47NEWS / 2024年12月27日 9時30分
5月の大型連休最終日の夕方、群馬県伊勢崎市の国道で、レジャー施設からの帰り道だった家族3人の乗った車が対向車線をはみ出してきたトラックと衝突した。車は大破し、3人は亡くなった。
警察の捜査で、トラックの運転手は酒を飲み、法定速度の30キロオーバーで運転したことが判明。警察は「危険運転」だとして運転手を逮捕した。しかしその後、検察は「危険運転」ではなく「過失運転」だと別の判断をして運転手を起訴した。
「納得いかない」。遺族は検察に再考を求めて働きかけ、起訴罪名は「危険運転」に変更された。努力は実ったものの、背景には「危険な運転か、そうでないか」の判断基準について曖昧な表現になっている法律がある。法務省も見直しに動いている規定のあり方。遺族はこう願う。「一滴でも酒を飲んで運転したら、危険運転にしてほしい」(共同通信=勝田涼斗)
▽トラックの車内には焼酎の空きボトルが…
事故のあった群馬県伊勢崎市の現場
事故が起きたのは5月6日午後4時15分ごろ。伊勢崎市の国道17号で法定速度を超える時速90キロまで加速したトラックが、対向車線にはみ出して乗用車2台に衝突。うち1台は大破し、乗っていた塚越正宏(つかごし・まさひろ)さん(53)、息子の寛人(ひろと)さん(26)、孫の湊斗(みなと)ちゃん(2)が亡くなった。
群馬県警は3カ月超が過ぎた8月20日、酒を飲んで運転していたとして、トラック運転手の男(70)を逮捕した。容疑名は自動車運転処罰法違反で、その中の規定の一つ「危険運転致死傷」に当たるとされた。「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」や、「進行を制御することが困難な高速度」で運転した場合に適用される規定だ。
県警などによると、男は出勤時のアルコール検査で問題はなく、その後運転を始めるまでの約40分間で飲酒したとみられる。勤務先によると、事故後の車内から焼酎の空きボトルが複数見つかっていた。
しかし、前橋地検が9月10日に男を起訴したとき、罪名は変わっていた。同じ自動車運転処罰法の中の規定でも、「危険運転致死傷」ではなく「過失致死傷」罪になっていたのだ。これは「必要な注意を怠り、人を死傷させた」場合に適用される規定だ。危険運転の法定刑の上限は懲役20年だが、過失運転のそれは懲役7年。差は大きい。
▽立ち上がる遺族、8万3千人分の支え
署名活動を行う遺族=10月12日
「到底納得がいかない。捜査機関は事故原因を追及してもらいたい」。遺族は立ち上がった。罪名を危険運転に変える「訴因変更」を求めて前橋地検に要望書を提出したほか、厳罰を求める署名活動を前橋市内やオンラインで進めた。
地検はその後も捜査を続け、集まった証拠から飲酒の影響が認められると判断。最初の起訴から約1カ月後の10月、危険運転致死傷罪への訴因変更を請求し、前橋地裁に認められた。遺族が11月に地検を訪れて提出した厳罰を求める署名は約8万3千人分。
厳罰を求める署名を提出後、取材に応じる遺族=11月8日
寛人さんの妻は提出後の取材にこう話した。「応援しているよ、と署名した多くの方が声をかけてくれて励みになった。用紙の分だけ、皆さんの気持ちも乗っていると感じる」
▽曖昧な規定、捜査機関の判断にぶれ?
なぜ警察と検察で、適用する法律の規定が異なるという判断になったのか。
先に説明したように、現在の自動車運転処罰法では、危険運転を適用するには「制御困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」といった要件が必要だ。
だが、どれくらいのスピードだと「制御困難」なのか、正常な運転が困難になるほどのアルコールの影響とはどれくらいなのか。規定が曖昧なため、捜査機関の判断にも結果としてぶれが生じやすいとされている。
遺族らの不満もここに集中しており、見直しを求める声は根強い。法務省は要望などを踏まえ、規定の在り方に関する議論に着手した。
こうした動きについて、取材に応じた正宏さんの母は「はっきりとした設定を作って、もっと簡単明瞭にしてほしい」と訴える。愛する息子、孫、ひ孫の尊い命をいっぺんに奪われた。「アルコールの量、度数にかかわらず、一滴でも飲んで運転をしたら危険運転にしてほしい」
正宏さんの妻も「私たち一般人にとっては難しすぎる。もっと端的に、かみ砕いて、私たちでも分かるような法律を」と求め「加害者寄りの法律という印象がある」との不満も口にした。
▽「正常な運転ができていた」なら、なぜ大切な人を失わなければならなかったのか
法改正などへの思いをつづった遺族の手紙
遺族は共同通信の取材に、弁護士を通じて手紙を寄せてくれた。
冒頭には、署名活動への感謝がつづられていた。「たくさんの方々に署名をしていただき、とても心強く、生きる力になった」
現在の法制度への不満とやるせない思いは、こうつづられていた。
「今の法律だと、事故が起きる前までは正常な運転ができたから危険運転にはあたらない。なら、なぜ大切な人たちを失わなければならなかったのか」
「飲酒、スピード超過をしている時点で、すでに正常な運転をしているとは言えないのではないか」
そして最後に、法改正への思いをこう記した。
「飲酒やスピード超過などで起こした事故に対しては、もっともっと重い罪に問えるような新しい法律を作っていただきたい。もっと量刑の重い法律や制度の改定を早急に進めてほしい」
法務省の有識者検討会は11月27日、報告書をまとめた。高速度や飲酒について数値基準を新設するという内容だ。今後はこれに沿って、法改正に向けた協議が始まる。
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