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人生100年時代、年齢問わず自律的に働く「プラチナキャリア」に注目 専門性向上、希望に応じた柔軟な異動。企業も人材確保にメリット

47NEWS / 2025年1月4日 9時0分

プラチナキャリアの推進で表彰された山陰合同銀行の役員(中央)ら

 健康寿命が延び、働く期間が長くなった。男性が外で仕事を担い、女性が家事や育児に専念する固定的な役割分担も変わりつつある。そんな中、老若男女問わず、自律的に心地よい働き方を選択し続ける「プラチナキャリア」という考え方が注目されている。企業には、従業員が専門性を身につけてスキルを磨くことを支援し、希望をかなえるための異動に柔軟に対応することが期待される。女性活躍の環境を整え、経営陣と現場の双方向のコミュニケーションを円滑にすることもポイントだ。企業側は従業員の希望に応えることで人材確保につなげようと、取り組みが広がっている。(共同通信=徳光まり)

 ▽地方銀行がコンサルの専門人材育成


 金属のプラチナは安定した材質で耐久性が高い。「プラチナキャリア」は持続的に輝いて働くイメージを重ねて命名された。考え方を提唱した三菱UFJ信託銀行と三菱総合研究所は2019年から、取り組みに優れた企業に毎年「プラチナキャリア・アワード」を授与している。厚生労働省は当初から、東京証券取引所は2020年から後援についている。企業側としても優秀な人材をつなぎとめることができれば「人材重視の経営を実践している」と投資家から高い評価が得られるため、関心が高まっている。


 2024年7月末、東京証券取引所内のホールでプラチナキャリア・アワードの表彰式が開かれた。今年で6回目の開催で、初めて地方銀行が受賞した。松江市に本店を置く山陰合同銀行だ。地方銀行のキャリアはかつて画一的な傾向だった。地元の優秀な人材が終身雇用を想定して入行し、同期でそろって支店で働き始め、総合職の男性を中心に支店長を目指して営業成績を競うのが一般的だった。
 だが、山陰合同銀行が評価されたポイントは「地域密着型で多様な未来(につながる)人材を育成した」ことだ。とりわけ地場企業の経営課題に親身に向き合うコンサルティング業務の専門人材が光った。地方銀行で定着した横並びのキャリア形成ではなく、多様な人材を輩出する試みが認められた。

 ▽顧客の悩みに深く関わる醍醐味


山陰合同銀行の行員

 山陰合同銀行で高度な知見を持つ「ハイクラスコンサル人材」として活躍する吉川昌則さん(38)は「日常的に付き合いがある中小企業に安心して相談してもらえる」とやりがいを語る。鳥取県内の運送業者から新たに倉庫業を始める相談を持ちかけられたときは、既存事業との相乗効果を検証し、資金調達を実現させた。東京のコンサル会社での研修も経て、融資にとどまらず顧客の悩みに深く関わる醍醐味を感じる日々。「経営に伴走するうちに自分も経営したくなり、銀行として新事業を将来やってみたい」という。専門性を身に付け、キャリアの選択肢が広がった1人だ。
 同僚の安達尚吾さん(36)は人事制度のハイクラスコンサル人材だ。「この部署に来て、融資や新規開拓という目線だけでなく、視野を広く持てるようになった」と話す。顧客が人事評価を見直す際、勤勉性の定義を言語化したり整理したりして「オーダーメードの人事」を取り入れられるよう、それぞれに合った最適の制度を追求する。「人事制度の変革を誰に相談するか悩む中小の経営者はまだ多く、銀行に相談すれば何かしら解決できると思ってほしい」と力を込める。培ったスキルは、職場の後輩や同僚に還元していく考えだ。

 ▽希望に応じた柔軟な異動


山陰合同銀行で行内公募でデジタル改革グループに異動した小田若奈さん

 山陰合同銀行は行内公募による柔軟な異動も実施していると認定された。デジタル改革グループの小田若奈さん(28)は、野村証券との業務提携で他社のシステムに触れたことが、行内公募に挑戦するきっかけとなった。
 山陰合同銀行のシステムは書類や関連規定が比較的バラバラに収納されていたのに比べ、野村証券のシステムは必要な情報が体系立てて収納されており探しやすかった。営業担当者にストレスがかかりにくいと感じた。このことに触発され、鳥取県米子市の店舗から本店のIT統括部へ異動を希望した。今は上司の応援も得て「銀行のポータルサイトを使いやすく変えたい」との思いを原動力に、専門性向上に励んでいる。
 今回、プラチナキャリア・アワードの最優秀賞を受賞した日用品大手のライオンは、社員に対し自律的にキャリアを積む支援策を分かりやすく示していると評価された。中でも「お仕事図鑑」の名称で約300の職務の詳細を社内向けのサイトで公開し、業務に必要な知識や資格を紹介したのが目を引いた。習得に役立つ社内外の人材開発プログラムやセミナーも示し、日常的に関わりが薄い部署でも異動を希望しやすいように工夫した。


 さらにライオンの取り組みでユニークなものがある。特定分野の知見を持つ「教授」と呼ばれる社員が製品やサービスにまつわるノウハウを披露する講座を開催したことだ。曲がる歯ブラシなどヒット商品の開発秘話を研究員から聞ける機会も設けた。人事担当者は「視野を広げ、自律的にキャリアを組み立て続けてほしい」と願っている。

 ▽人材流出に歯止め。働く人も「意識変えて」


プラチナキャリアの考え方を提唱している三菱UFJ信託銀行の星治エグゼクティブアドバイザー

 こうした取り組みは一見、企業に所属する個人にのみ有益に見える。だが、プラチナキャリアの考え方が浸透すると、企業で働く人は年齢にとらわれず、仕事の選択肢が増える。リスキリング(学び直し)を活用し、専門性を身に付けた人材など企業にとって魅力的な人材の確保につながる。
 旧態依然と一定の年齢に達するごとに役職が付き、昇進が止まるタイミングで望まない出向や部署異動に従うといったキャリア一辺倒では従業員の意欲も下がりかねない。企業勤め以外の働き方も広がる中で、能動的にキャリアを作る環境が整えば、自然と人材流出に歯止めがかかることが期待される。
 旗振り役の三菱UFJ信託銀行の星治エグゼクティブアドバイザーは「役職定年の制度がなくなるなど急激な変化は起きにくいが、働く人の意識を変えるきっかけになってほしい」と意義を語る。プラチナキャリアの考え方を浸透させたいと願っている。

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