被団協にノーベル平和賞、韓国の被爆者は何を思う? 人々の無関心、乏しい支援・・知られざる苦しみ今も
47NEWS / 2025年1月22日 9時0分
米国が広島と長崎に原爆を投下した8月6日と9日。日本では毎年、平和を願う式典が大々的に行われ、メディアは関連ニュースを盛んに報じる。二つの都市では植民地支配下の朝鮮半島から出稼ぎや徴用で日本に渡った人たちも多く被爆したが、韓国ではこれらの日も、被爆に関する報道はさほど目立たない。韓国の専門家は「韓国市民のほとんどは韓国人被爆者がいることを知らない」と話す。
2024年12月にノルウェー・オスロで開かれた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞授賞式には、韓国からも被爆1世、2世の2人が出席した。被団協の平和賞受賞を、韓国の被爆者らはどのような思いで受け止めたのか―。その口から語られたのは、人々の無知や無関心に苦しんできた複雑な胸中だった。(年齢は取材当時、共同通信ソウル支局 富樫顕大)
▽「無関心」の理由
ノーベル平和賞の授賞式に韓国の伝統衣装で臨む韓国原爆被害者協会の鄭源述さん(左)と、被爆2世の李太宰さん=2024年12月10日、オスロ(共同)
広島と長崎への原爆投下では、朝鮮半島出身者約4万人が死亡したとの大韓赤十字社の推計があるが、正確な実態は不明だ。韓国原爆被害者協会によると、2024年11月時点で、韓国在住の被爆1世は約1660人だという。
日本政府が在外被爆者への手当支給を開始したのは2003年。それまでは長年の間、支給の対象外だった。協会は日本政府に対し、それ以前の数十年間で受け取れていたはずの手当の補償を求めている。
一方、韓国で被爆者支援法が成立したのも2016年と遅かった。長い間、日韓両政府から支援や関心を得られていなかったというのが実情だ。
広島で被爆し、平和賞の授賞式に出席した韓国原爆被害者協会の鄭源述
(チョン・ウォンスル)会長(81)は「1945年に(植民地支配から)解放され、その5年後に朝鮮戦争が起きた。多くの試練があったため、国家は私たち(被爆者)に目を向ける余裕がなかったのだろう」と話す。その上で「私たち被爆者もあまりに貧しく、(被爆に関する)知識もなかったから声を上げることもできなかった」と付け加えた。
韓国では、原爆投下が植民地支配からの解放につながったとの見方が多い。こうした考え方が、被爆者への無関心につながったとも言われている。
▽教科書にも載らず
韓国原爆被害者協会の鄭源述会長(左から2人目)、被爆2世の李太宰さん(同3人目)らと面会するソウル市の鄭根埴・教育監(右端)=2024年11月、ソウル(共同)
「韓国市民の大半は、朝鮮人、韓国人の被爆者がいたという事実さえ知らない」。ソウル市の教育政策を統括する鄭根埴(チョン・グンシク)教育監(67)は、韓国の教科書に韓国人被爆者の記述はほとんどないと指摘する。
教育監は市民の選挙で選ばれ、鄭教育監は2024年10月に当選して就任した。被爆者を研究した経験もある歴史社会学者出身の鄭教育監。翌11月には鄭源述会長らと面会し、平和賞授賞式への参加をきっかけに「まず教師らが(被爆の)歴史的知識を得なければいけない」と強調した。
▽「日本のせいで被爆した」
ソウルで開かれたシンポジウムで発言する被爆2世の李太宰さん(左)=2024年11月(共同
授賞式に出席したもう一人は、韓国原爆被害者子孫会の李太宰(イ・テジェ)会長(65)だ。父親が長崎の三菱重工業の工場に徴用され、原爆被害に遭ったという。
「米国には原爆を投下した責任を問わねばならず、日本には強制動員の責任や賠償を求めなければいけない」。2024年11月にソウルで開かれた日韓の歴史問題に関するシンポジウムでは、穏やかな表情ながらも、力強く訴えた。
李さんらは被団協のノーベル賞受賞が決まった際、これを祝い、核廃絶へ向けて日本や世界の市民と連携を深めたいとの声明を発表した。一方、この声明では「日本の侵略と戦争が原爆投下を引き起こした」とも言及した。
日本へ渡ったのは徴用だけでなく、出稼ぎのケースも多かった。韓国では、徴用が「不法、不当」だったという認識は広く共有されている。また出稼ぎについても、植民地支配が引き起こした「強要された選択」だったとの見方が一般的だ。
「日本の植民地支配のために日本へ渡り、日本の戦争のせいで被爆した」。韓国の被爆者らは、こう強調する。
▽痛みと謝罪
韓国・陜川
韓国南東部の陜川(ハプチョン)には、広島から帰国した被爆者が多く住んでいる。韓国原爆被害者協会の本部もあり、毎年8月6日には慰霊式が開かれる。協会は、原爆犠牲者を追悼する国の記念公園造成を長く求めているが、計画はなかなか進展しないという。
「陜川平和の家」で心理療法の一環の塗り絵に取り組む被爆2世ら=202024年11月、韓国・陜川
「陜川平和の家」で取材に応じる韓正淳さん=2024年11月、韓国・陜川(共同)
2024年11月、被爆者の支援活動を行う「陜川平和の家」を訪ねると、被爆2世の7人が心理療法の一環として塗り絵に取り組んでいた。住み込みで働き、自身も被爆2世の韓正淳(ハン・ジョンスン)さん(65)は「病気や障害を抱える2世、3世は多い」と明かした上で「日本が加害を認めて謝罪したとしても、私たちの痛みはなくならない。それでも、謝罪は私たちがつらさに打ち勝つ力になると思う」と話した。
▽北朝鮮の被爆者は
「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の記念集会で、発言する市場淳子会長=2022年4月、広島市
日本から支援活動を続けてきた「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の市場淳子会長(68)=大阪府豊中市=は、メディアがよく用いる「唯一の戦争被爆国、日本」という表現を「使わないでほしい」と話す。朝鮮半島出身者など、日本人以外にも被爆者がいることが分かりにくくなるためだという。
市場さんは、北朝鮮にも被爆者がいるものの、これまでの支援の対象からは「排除されている」と指摘。国交がなくても「本気でやる気になれば方法はあるはずだ」と支援の実現を訴えた。
▽核の恐ろしさ知ってほしい
原爆犠牲者の位牌が納められたお堂の前で、取材に応じる韓国原爆被害者協会の鄭源述会長=2024年11月、韓国・陜川(共同)
北朝鮮の核・ミサイル開発が進む中、韓国では近年、自国も核武装すべきだとの考えが拡大、公然と主張する与党政治家もいる。核開発が必要だとの意見が7割に上ったとの世論調査結果が発表されたこともある。
韓国原爆被害者協会の鄭会長も、この世論を認識しており「北朝鮮が核を開発している。韓国が(核開発に)絶対反対だという姿勢も、再考の余地はあるのかもしれない。ジレンマだ」と話す。
一方で「国民が原爆の被害や恐ろしさを知っていれば、核を作ろうとしないだろう」との思いも強い。「北朝鮮も核をなくし、私たちもなくさなければいけない」と強調した。
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