1日千円手渡し、生活保護費の分割支給はあり? 群馬県桐生市で一部不支給も発覚、問題の背景は
47NEWS / 2025年1月13日 9時0分
群馬県桐生市。東部で栃木県境に接する人口約10万人の市が、生活保護費を月ごとに満額支給せず、1日千円などに分割支給していた問題が発覚した。のみならず、一部の未払いもあり、本来もらえる金額の半分ほどしか支給されなかった人も中にはいた。市側は、分割支給の理由を「パチンコや酒など遊興費の支出が多い受給者が生活不能に陥らないようにするため」などと説明するが、妥当なのか。
有識者や支援団体は「受給者の自己決定権を侵害する憲法違反だ」と批判する。そして背景に、不正受給を防ぐことに重点を置いた2013年の生活保護法改正があるとの見解を示す。問題点を探った。(共同通信=赤坂知美)
筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽週7千円振り込み、60代男性のケース
群馬県桐生市
桐生市に住む60代の男性受給者が取材に応じ、実情を語った。
男性は持病があり、働くことが困難な状態。2017年に生活保護の受給を開始すると、毎日ハローワークに行くよう市職員から指導された。車は持っておらず、交通手段は徒歩か自転車。通える範囲で仕事を探すのは難しかった。就労先が見つけられないと「なんで仕事に就かないんだ」と責められ「嫌だったら生活保護をやめてもいいんだぞ」と言われたこともあった。「生活保護を受けている間、ずっとこの苦しみが続くのか」と思うとつらくなり、1年半後、受給を辞退した。
取材に応じる生活保護受給者の60代の男性=2024年6月、群馬県桐生市
問題が起きたのは持病が悪化して入院し、受給を再開した2020年のことだ。退院後、市職員から電話で「キャッシュカード、通帳、はんこを持って市役所に来てほしい」と呼び出された。事前にどのような用件か説明はなかった。
市役所に行くと、資産や保護費の管理を行うNPO法人を紹介された。市職員は「住居の身元引受人が必要だから契約をするように」と説明。必要なのは身元引受人のみで金銭管理はいらないと思ったが、「市の言うことに間違いはない」と考え、言われるがまま金銭管理の委託契約を結んだ。持ってきたカードや通帳、印鑑も手渡すことになった。 男性は自分の金銭管理能力に問題を感じておらず、ギャンブルなどの浪費癖もない。
その後、男性が持っている別の口座に毎週7千円が振り込まれた。別途支給される交通費などを含めても、本来もらえるはずの月額約7万円の半分ほど。「食費や光熱費を切り詰めて節約に励んだが、物価高でやっていけないと思った」。口座への入金日前にはいつも残金が少なくなり、食事が十分に取れず頭がクラクラすることも。いつの間にかNPO法人宛てに郵便の転送もされていて、選挙の投票券や新型コロナウイルスのワクチン接種券も問い合わせるまで手元に届かなかった。
問題発覚後、男性はNPO法人との契約を解除した。男性はこう振り返る。「生活を立て直すための生活保護で、なぜここまで生活を管理されないといけなかったのか」
▽印鑑の流用、職員による書類代筆も
群馬県桐生市役所で記者会見する井上英夫金沢大名誉教授(中央)と反貧困ネットワーク事務局長の町田茂さん(右)=2024年6月
こうした問題が最初に発覚したのは2023年11月。群馬司法書士会が桐生市に改善を要請した。
この時、司法書士会が取り上げたのは50代男性のケース。男性は2023年7月に生活保護を申請し、8月から受給が決まった。市は男性に毎日市役所に来るよう求め、月曜から木曜は千円、金曜は週末分を合わせた3千円を窓口で手渡ししていた。本来は月約7万円が支給されるのに、計3万円程度しか受け取っておらず、未支給分があることも説明されていなかったという。男性は2023年10月に司法書士とともに市福祉事務所を訪れ、未支給分の約13万円を受け取った。
指摘を受け、市が調査すると、2018年4月~2023年11月の間、14世帯17人に対する分割支給が確認された。うち11世帯の14人に対し、計約67万円の一部不支給があった。未支給分は茶封筒に入れ、市役所内の手提げ金庫で保管していたという。分割支給を始めた時期を知っている職員はおらず、元職員の一人は調査に「これまでの慣習を受け継いできた」と答えた。
また、預かった印鑑を同姓で別人の書類作成に使用したり、職員が書類を代筆したりしていたことも判明した。群馬県は2024年6月、生活保護の申請ができないと誤解させて窓口で追い返す「水際対策」と疑われる事案も多数確認されたとして、改善を指示した。
生活困窮者支援に取り組む「反貧困ネットワーク」(東京)は、2024年1月以降、生活保護について同様のケースがあれば相談を呼びかけるチラシを市内で配布した。すると、約40件もの連絡が寄せられた。事務局の町田茂さん(52)は「支給停止や職員への恐怖で、声を上げられない人がもっといるのではないか」と話す。
▽支給方法の規定はないが…
桐生市の第三者委員会の会合=2024年7月
ただ、厚生労働省によると、渡したお金をすぐに使ってしまう人もいるため、生活保護費を分割して管理をすること自体は違法ではないという。厚労省の担当者は取材に対し「支給方法に規定はない。桐生市の一部不支給は生活保護法違反だが、過剰な分割や就職活動の強要は、『違法』ではなく『不適切』だと言える」と説明した。
実際、受給者の男性3人が損害賠償を求めて桐生市を訴えた裁判で市は、一部不支給を生活保護法違反と認めた一方、分割支給には合意があったとして争っている。冒頭で挙げたように「パチンコや酒など遊興費の支出が多い受給者が生活不能に陥らないようにするため」との主張だ。
これに対し、金沢大の井上英夫名誉教授(社会保障法・人権論)は、市の対応を憲法違反だと指摘。「就職活動の強要や過剰な分割は、受給を辞退するよう追い込んでいる。自己決定権や幸福追求権を定めた憲法13条、人権としての社会保障を定めた憲法25条、それを具体化した生活保護法に違反する」と批判する。憲法25条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文だ。
井上さんが団長を務める「桐生市生活保護違法事件全国調査団」は2024年6月、桐生市役所で記者会見。独自の聞き取り調査の結果、受給希望の相談段階から金銭管理をする団体を紹介していた事例があったと明らかにし、井上さんは「受給者の自由意思を無視している」と指摘した。
また、問題を検証する市の第三者委員会委員長の吉野晶弁護士も11月の会合で、外部の金銭管理団体の問題に触れ「受給者も自分自身で金銭管理するのが大前提。本人が管理に困っている状況だったのかどうかや、意思表示があったのかどうか、運用に疑問がある」と批判した。第三者委員会は2025年3月にも、検証結果をまとめた報告書を提出する予定だ。
▽問題の背景には2013年の法改正か
生活保護受給者数グラフ
生活保護を巡る自治体の不適切な対応はこれまでにもあった。神奈川県小田原市では2017年、市職員が「HOGO NAMENNA」=保護なめんな、と読めるエンブレムが付いたジャンパーを勤務中に着ていたことが問題となった。2022年には愛知県安城市で、日系ブラジル人女性の生活保護申請を市職員が拒否した。
反貧困ネットワークや井上さんは、生活保護に関する問題が相次ぐ背景に、2013年の生活保護法改正があるとみている。改正法は、不正受給した場合の罰金の上限を30万円から100万円に引き上げるなど、不正受給対策を強化した。
政府の狙い通り、改正法施行後、不正受給の件数と金額は減少に向かった。2022年の厚労省の発表では、改正法が施行された2014年度は4万3021件、計約174億8千万円だったが、2020年度は3万2090件、計約126億5千万円と、大幅に減っている。内容の6割は収入の無申告や過小申告だった。
もちろん不正受給防止は必要なことだが、同時に受給者数全体も法改正後、減少している。厚労省によると、全国の月平均の受給者数は2000年度以降増加していたが、改正法が施行された2014年度の約216万6千人をピークに微減に転じた。
生活保護制度の研究者らでつくる市民団体「生活保護情報グループ」は2024年9月、生活保護受給者数の増減率が、自治体ごとに一目で分かる全国地図を作成。集計では、桐生市の受給者数は2012年度に約1100人だったのが、2021年度は約600人に減少していた。人口減少の影響を除いて比較できるように、一定人口に対する受給者率でみると4割減だった。
井上さんは「生活保護が必要な人に届いていない。多くの人が必要なサービスを受けられるような制度改革が急務だ」と訴えた。
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