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「至福」のレストラン列車 シンガポールとの異色コラボの狙いとは… 

47NEWS / 2025年1月10日 11時0分

西武鉄道の「西武 旅するレストラン『52席の至福』」=2024年10月12日、埼玉県横瀬町

 【汐留鉄道倶楽部】「乗り鉄」として乗ってみたいけれども、実現できていない垂ぜんのプチぜいたく列車がいくつかある。その一つだったのが、首都圏の大手私鉄、西武鉄道が運行するレストラン列車「西武 旅するレストラン『52席の至福』」だ。2025年1月~3月にシンガポール創作料理を提供するコースの開始を控えて乗車すると、異色に思えたシンガポール政府観光局とのコラボレーション(協業)の狙いが見えてきた。 

 16年4月に営業運転が始まった「52席の至福」は東京都心部の西武新宿駅または池袋駅と西武秩父駅(埼玉県秩父市)の間を走り、移動中に有名シェフらが監修したこだわりの料理を堪能できる。1988年に登場した電車4000系を改造した4両編成が、土曜・休日を中心に年間100日程度運行している。 

 建築家の隈研吾氏がデザインした列車の外観は秩父の四季をイメージし、2号車と4号車には乗客が食事を楽しめるように大きなテーブルを挟んで2つまたは4つの座席を設けた。これらの座席の52席で至福の体験ができるというのが列車名の由来だ。3号車は食事を用意するキッチン車両になっており、1号車はイベントなどに対応する多目的車両となっている。 


「西武 旅するレストラン『52席の至福』」の2号車の車内=2024年8月21日、埼玉県秩父市

 今回の料理内容とは異なる「特別企画運行」に、西武秩父から西武新宿まで乗った。待ち受けていた列車の扉の前ではスタッフが出迎え、プラットホーム上に赤いカーペットが敷かれて乗客の気分を高揚させる。乗車口は客席がある2号車と4号車の二手に分かれており、この時に自分の誤解に気づいた。 

 52席の至福は1号車に「ハート」のマークを付けるなど車両ごとに異なる柄をあてがっており、私はこれらが春夏秋冬を表しているトランプの4種類の記号と同じマークだと信じ込んでいた。 

 ところが、私が乗車する2号車は四つ葉の「クローバー」になっており、トランプの三つ葉とは異なる。「スペード」をあしらった4号車も水の形をしており、3号車の「ダイヤ」も紅葉をイメージしたデザインになっている。 


「西武 旅するレストラン『52席の至福』」に向かって横断幕を掲げ、手を振る西武鉄道小手指乗務所の乗務員ら=2024年8月21日、埼玉県所沢市

 乗客は四つ葉のクローバーならば2号車、水ならば4号車だと覚えておけば良さそうだ。車両側面の裾の部分に記号のイラストが描かれているため、それを見れば自分が乗るべき車両を確認できる。 

 2号車の扉から乗り込むと、渓谷などの自然をモチーフにデザインしたという車内は実に落ち着いた雰囲気だ。入り口のデッキと客室の仕切りには秩父地方の伝統工芸品である織物「秩父銘仙」をあしらい、天井は柿渋和紙で装飾するなど沿線「推し」を欠かさないものの、空間に見事に溶け込んでいた。 

 列車が西武秩父を発車すると、「ご利用くださいましてありがとうございます」と聞き覚えのある声が車内に響いた。私も審査員を務めている優れた鉄道旅行を表彰する賞「鉄旅オブザイヤー」で、お笑いコンビ「ダーリンハニー」の吉川正洋さんとともに司会をしている鉄道好きのアナウンサー、久野知美さんの自動放送だ。「沿線の景色の移ろいと、極上の料理を味わいながら特別で優雅な時間をどうぞお楽しみください」という久野さんの呼びかけに、「はい、そうします!」と心の中で叫んだ。 


シンガポール創作料理のブランチコース(西武鉄道提供)

 シンガポールとのコラボはブランチ、ディナーの両コースが用意され、西武鉄道によると「2024年12月下旬時点でブランチコースは平均して9割以上のご予約をいただいております」と出足好調だ。コラボを組むことにしたきっかけを同乗していた関係者に尋ねた。 

 西武鉄道の堤広利スマイル&スマイル室長は「シンガポール政府観光局は『予想外の体験。シンガポール』をブランドキャンペーンにしており、われわれ『52席の至福』は新しい旅行スタイルの提供をコンセプトにずっとしてきている」ことに共通項があると指摘。シンガポール政府観光局のセリーヌ・タン北アジア局長は「『52席の至福』の乗客は旅行と食事の両方に関心があり、私たちのターゲットと重なる」と応じた。 

 23年にシンガポールを訪れた日本人旅行者は約43万2600人と、新型コロナウイルス禍前の半分弱にとどまった。タン氏は24年に入ってからは「力強く回復しているものの、為替の円安傾向などが逆風となっている」とし、「52席の至福」でテーマに取り上げてもらうことで「日本の皆さんにシンガポール料理を楽しんでもらい、シンガポールの魅力を理解してもらい、次の旅行先にシンガポールを選んでほしい」との狙いを明かした。 


「西武 旅するレストラン『52席の至福』」に向かって横断幕を掲げ、手を振る西武鉄道小手指乗務所の乗務員ら=2024年8月21日、埼玉県所沢市

 25年1月~3月に提供される料理は、グルメ本「ミシュランガイド東京」で一つ星を獲得したレストラン「ノル」のディレクター、野田達也氏が監修。ブランチコースでは「至福のシンガポールチキンライス」、ディナーコースでは「イチローズモルト薫る武州牛のバクテー」などが用意される。 

 不思議なのは異国情緒があふれる料理に舌鼓を打っていると、見慣れたはずの東京近郊の住宅街の景色まで「別世界」のように映ることだ。 

 約2時間半後に西武新宿駅に到着後、「本場・シンガポールでこんな料理を味わいたい」としみじみと思った。これこそ、一見すると異色に思えたコラボがもくろみ通りになっている証拠だろう。  

 ☆共同通信・大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)。「52席の至福」は、池袋または新宿発の西武秩父行きブランチコースが1人当たり1万5千円、西武秩父発の池袋または新宿行きディナーコースが1万8千円。ともに西武鉄道の1日フリーきっぷとおみやげが用意されています。 

 

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