1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

開校相次ぐインターナショナルスクール、欧州の首都で人気校の教育を探った 学費は600万円超、広い敷地に充実設備、日本人生徒が感じる光と課題

47NEWS / 2025年1月24日 9時0分

ベルギー・ブリュッセルにある「インターナショナルスクール・オブ・ブリュッセル(ISB)」の全景

 日本国内でインターナショナルスクールの開校が相次いでいる。全般的に学費は高額だが、我が子に英語力を身につけさせ、国際的に活躍する人材に育ってほしいと願う保護者の関心を引きつける。欧州連合(EU)が本部を置くなど国際色豊かで、欧州の首都と呼ばれるベルギー・ブリュッセルにもインターナショナルスクールは数多い。その中でも充実した設備を備え、高い人気を誇る学校を取材。校長へのインタビューや日本人生徒の話から、注目される教育の光と課題を探った。(共同通信ブリュッセル支局=仲嶋芳浩)

 ▽ホテルのような建物、敷地には豊かな自然


ISBの受付が入る建物

 取材したのはブリュッセルにある「インターナショナルスクール・オブ・ブリュッセル(ISB)」。うっすらと雪が積もる2024年11月下旬に訪れると、厳重なゲートが現れた。ホテルのようなしゃれた建物の受付までしばらく歩かねばならず、敷地の広さを実感する。


 世界自然遺産に一部が登録された「ソワーニュの森」にあり、豊かな自然に囲まれた環境が特徴だ。学校は約16万平方メートルで、敷地内でも生物の多様性を身近に感じられる。サッカーなどに使えるフィールドは2つ。ドーム形のテニスコートでは雨も雪も関係なくプレーでき、スポーツクライミングの設備も備える。昼ご飯はカフェのような開放的な食堂で食べられる。こうした恵まれた環境で、2歳から18歳までの1300人超が学んでいる。

 授業料は小学生で年間4万ユーロ程度からと、2024年12月の為替レートで日本円に換算すると600万円を軽く超える。クラブ活動や通学バス、食堂の利用料を加えると、費用はさらに膨らむ。籍を置くのは、親が国際機関や大使館、グローバル企業に勤める家庭の子どもで、誰もに門戸が開かれているわけではないのが現実だ。
 ISBのマクドナルド校長は「私たちは授業料が非常に高額であることを承知しているが、個人に合わせた質の高い教育を提供するためには必要だ。利益のためではなく、素晴らしい教師や施設に投資をしている」と説明する。米国や欧州の有名校を含む世界の大学に進学する卒業生が多いが、約1割は進学せずに就職するという。

 ▽学校運営は生徒主体、日本語習得には不安も


ISBの食堂

 ISBには約40人の日本人生徒も通う。高校生に相当する男子生徒(16)と中学生に当たる女子生徒(14)、小学生に当たる女子生徒(11)の3人に、学校生活や友人関係について聞いた。
 多くの生徒が直面するのが言葉の壁だ。2024年夏に日本から移り住んだばかりの女子生徒(14)は「せっかく海外に住むので、英語などできることを増やしたい」とISBへの入学を決めた。多国籍の同級生に囲まれ「外国のことを知る機会が増えた」と利点を感じる半面、友だちとの会話は「いろいろな話題が出てくるので、ついていくのが大変ですごく困る」と漏らす。帰宅後に覚えている限りの単語を調べ、地道に習得する作業を繰り返す毎日だ。


スポーツクライミングの施設

 日本からブラジルを経てベルギーに移り住んだ男子生徒(16)は、入学してから約4年経つが「友だちとの会話は英語でくだけた表現も多く、早口なので授業よりも理解するのが難しい」と話す。日本語については、週に数時間は日本語の授業があり、家族との会話も日本語だが「生活の中で日本語に接する機会はすごく減る。読書を極端に難しいと感じることはないが、家族との会話ではたとえば作文能力などは身につかないので、日本の学校に比べて不利だと感じる」とも話した。
 学校生活にはどのような特徴があるのか。男子生徒(16)は「授業中に生徒が発言する機会が多いところが、日本の学校との大きな違いだと感じた」と指摘する。たとえば、歴史で第二次世界大戦を取り上げる際には、大戦中の女性の立場を生徒がそれぞれ調べて発表する。学校全体で楽しめる企画や、募金など社会に奉仕する活動を生徒が立案するなど、学校の運営に生徒が主体的に関わる機会が目立つ。
 中学や高校には担任の教師はおらず、1日に学ぶ教科も生徒によってさまざまだ。進路や友人関係など学校生活の悩みは、カウンセラーに相談するという。
 女子生徒(14)は「時間割が全て決められているのではなく、生徒が学びたい教科を選んで受講できる点が日本の学校との違いだと感じる」とカリキュラムの柔軟性を評価した。


屋内のテニスコート

 生徒は、国際的な環境で学んだことを将来の仕事に生かしたいと見据える。男子生徒(16)は宇宙や物理に関心があるといい、ハイレベルの授業を履修している。「日本が恋しい」ため、日本の大学に進学するつもりだが、将来的には身につけた英語を生かせる仕事に就きたいと考えている。
 女子生徒(11)は「絵をかくことが好きなので、漫画家やイラストレーターになりたい。ただ、それだけではお金を稼げるか不安なので、日本で英語の先生としても働きたい」と夢を語った。

 ▽校長「社会奉仕活動で困難な境遇の人のことを知ってほしい」


取材に応じるISBのマクドナルド校長

 カナダ出身で横浜市の「横浜インターナショナルスクール」で校長を務めた経験もあるマクドナルド校長に話を聞いた。

 ―ISBの強みは。
 「60カ国超の国籍の生徒が通っており、とても国際的な学校だ。世界を股にかけて働く親にとっては、多国籍の子どもが通うISBでは子どもがなじんで幸せになることが分かる。生徒の個性に合わせた学習を提供していることも特徴だ。教科ごとに生徒のレベルに合った授業を受けられるようにしている」

 ―生徒に合わせた学習とは。
 「まず1クラスは平均で22人と少人数だ。算数を例にとると、算数が本当に好きで得意な生徒がいたとする。そうした生徒には、その学年よりも難しい課題を与えなければ退屈してしまうため、レベルに合った学習をさせる。逆に算数の勉強に苦労している生徒には、追加の支援が必要になるため、教師がそばで指導をする。カナダの公立学校では教師が教室の前に立ち、生徒はそれを聞いてノートをとるが、ISBでは全く異なる」

 ―課外活動はあるか。日本の学校では、教師が授業だけでなく、課外活動の指導をしなければならないことが教師の負担になっている。
 「多くのスポーツに加え、芸術やミュージカル、チェスのようなクラブもある。男子バスケットボールは、プロ選手として活躍していたコーチが教えている。学校の教師が自ら希望してコーチをする場合もあるが、私たちは強制していない」

 ―ISBは高額な授業料でも知られる。卒業生にはどのような大人に育ってほしいか。
 「世界にはISBよりも授業料がはるかに高い学校がある。そして、そうした学校は、卒業生を世界のトップクラスの大学に進学させることを唯一の道であると信じていることがほとんどだ。ISBの卒業生にもトップクラスの大学に進学する生徒は数多くいるが、私たちはISBを卒業してすぐに就職する生徒たちのことも誇りに思っている。どんな大人になりたいか決めるのは私たちではなく、生徒が家族と決めることだ。成功にはさまざまな形があり、私たちはそれを全ての生徒に押しつけることはない」

 ―世界には困難な状況で暮らす人も多い。ISBのような恵まれた環境でこうした人たちへの共感を育めるのか。
 「全ての生徒には社会奉仕活動を求めている。高校生には週末にホームレスの人たちと過ごし、困難な境遇に置かれた人を支援することを求めている。私たちは、そうした人たちがいることを、生徒たちに自ら目にする機会を与えたい。それが生徒の内面に影響を与えれば、より思いやりがあり、寛大な大人になることができるだろう。それは本当に大事なことだ。この美しいキャンパスだけでは、世界に十分に触れることができないかもしれない。生徒には、異なる文化やさまざまな境遇の人に接してほしい」
  ×  ×  ×
ご感想やご意見をお寄せください。
internationalnews★kyodonews.jpまで。★印は@に変換してください。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください