「枝野会長だと、憲法論議は進まない?」 野党初の衆院憲法審査会長になったので、じっくり聞いてみた
47NEWS / 2025年1月19日 9時30分
衆院選での自民党大敗は憲法改正の論議にも影響が及んでいる。少数与党となった自民党は衆院憲法審査会の会長ポストを手放し、立憲民主党の枝野幸男元代表が野党初の会長となった。リベラルの印象が強い枝野さんでは「どうせ憲法論議は進まないだろう」との見方もある中、当の本人はどう考えているのか。じっくり話を聞いてみた。(共同通信=荒井英明)
▽衆院選の結果、合意しやすい政治状況に
取材に応じる枝野幸男さん=2024年12月20日、国会
―国会での憲法論議はどのようにあるべきだと考えますか。
「国会発議に必要な国会議員の3分の2以上と、その後の国民投票で過半数の賛成がなければ、形式的に改正はできませんよね。そもそも憲法は権力を縛るためのルールです。権力を競い合う政治勢力が共有して、従うべきルールだという本質的な面からも、広範な合意に基づいて進めなければなりません」
―衆院選の前と後で憲法論議に変化はあると思いますか。
「政治状況に左右されざるを得ない中、残念ながら広範な合意形成に向かうという意味では逆行していました。衆院選の結果、合意形成がしやすい状況になったと思います。だからこそ、私が会長に選ばれたのでしょう」
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憲法審査会とは、憲法改正原案を含む憲法全般や国民投票の仕組みを幅広く議論する国会の機関のことだ。衆院と参院にそれぞれ置かれ、衆院は50人、参院は45人の与野党国会議員で構成する。衆院側の会長になった枝野さんは早速、「中山方式」への回帰を打ち出す。自民党の故中山太郎さんが衆院憲法調査会長(2000~2005年)時代に設けた「少数会派を尊重する」という運営ルールだ。中山会長の下で、枝野さんは会長代理を務めていた。
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▽「中山方式」を生かす
衆院憲法調査会で発言する枝野幸男さん(左端)。左から2人目は中山太郎会長=2005年2月
―なぜ中山方式に回帰するのですか。
「広範な合意形成に向けては、憲法審査会の前身である憲法調査会の中山太郎会長時代から努力してきて、うまく機能していた。良かった点はできるだけ生かしたいということです」
―憲法改正に前向きな「改憲勢力」が衆院選で3分の2を割り込んだことは、どう見ますか。
「まず改憲勢力という分類をメディアがしていること自体が、広範な合意形成に逆行する状況を示しています。立憲民主党も決して護憲ではないです。自民党や日本維新の会、国民民主党、公明党もテーマによっては改憲に反対するものもあります。二元論を前提に議論していること自体が、広範な合意形成がうまくいっていない表れだと思います」
▽憲法審査会の開催に後ろ向きではない
衆院憲法審査会に会長として臨む枝野幸男さん(手前から4人目)=2024年12月19日
―憲法改正推進派からは、枝野会長では論議が進まないと見る向きがあります。
「会長が誰かよりも、各会派がどうするかでしょう。これまでのように数の力で強引に進めようとしても、今の衆院の構成では絶対に進まない。広範な合意形成に基づくということを各会派が理解すれば、むしろ進むと思います。私自身、憲法審査会の開催には全く後ろ向きではありません」
―1月下旬召集の通常国会で、憲法審査会の開催ペースはどうなりますか。
「毎週1回の定例日(木曜日)に開くのが基本です。ただ、予算委員会の理事と、憲法審査会の幹事を兼任し、両立が物理的に不可能な議員もいます。少数会派の場合は予算委員会が連日開かれている中で、憲法論議にもしっかり対応するのが困難であるのは間違いありません。憲法審査会に限らず、予算委員会がある日は行わないとの慣習は合理的です」
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昨年12月の衆院憲法審査会では、今後の進め方をテーマに討議した。自民党は、衆院選前から議論してきた「緊急時の国会議員任期延長」を優先課題に挙げ、日本維新の会や国民民主党、公明党も同調したが、立憲民主党は即座に否定した。その一方で、立憲民主党が最優先と主張した国民投票法の改正については、自民党や国民民主党、公明党も前向きだった。
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▽条文起草委員会は「やってる感」だけ
衆院憲法審査会の討議=2024年12月19日
―今後はどのようなテーマが想定されますか。
「昨年12月の討議は、想像以上に建設的な中身がちりばめられた議論だったと思います。国民投票法の改正を急がなければならないことは、ほぼ全会派で一致していました。事実上の合意だと言ってもいい。憲法53条への臨時国会召集の期限明記についても広範な問題意識があるのではないでしょうか」
「ただ、こればっかりで他の議論をしないのではないかと危惧される会派もあると思います。憲法審査会は後ろの期限がないので、一つだけに偏らず、合意形成可能ないくつかのテーマを同時並行で進めるのが望ましいと考えています」
―最近の国政や地方選挙を見ていると、交流サイト(SNS)での偽情報が、憲法改正の国民投票にも与える影響を無視できません。
「各会派がSNS対応を課題として共有しています。選挙以上に国民投票はSNSでゆがめられてはならないと思います。公選法改正の議論より先行すべきでしょう」
―日本維新の会などは緊急時の国会議員任期延長をテーマに条文起草委員会の設置を求めています。
「各党派の考えがばらばらでは、合意形成には至らないでしょう。今の憲法審査会での議論が繰り返されるだけです。『やってる感』を出すだけで、実質的な意味はありません」
―野党第1党の賛同がなければ難しいでしょうか。
「国民投票を考えた時、世論が真っ二つに分かれ、可決か否決かが見通せないような国会発議はすべきでないと思います。賛成多数になると想定される状況をつくるには、国会の第1会派(=自民党)と第2会派(=立憲民主党)の合意形成が非常に重要になります」
▽首相が口を出せば、議論は停滞
日本国憲法の公布原本
―改憲を巡る世論をどのように見ていますか。
「今は停滞していると思います。ごく一部の人は『早く変えろ』『議論すら許さない』と主張し合っていますが、大多数は冷めた目で見ている。こうした状況で発議しても、超低投票率になるリスクもあるし、想定しない結果になる可能性があります。まずは国民から関心を持たれるような、建設的な議論を憲法審査会で進めていく必要があります」
憲法改正を訴える会合に寄せられた安倍晋三首相(当時)のビデオメッセージ=2017年5月3日、東京都千代田区
―安倍晋三さんや岸田文雄さんら歴代首相は改憲の期限に言及していました。
「首相が口を出すと、だいたい後退したり、停滞したりするのが歴史的に明確になっています。だから、口を出す方は進めたくないのだろうと、私はずっと思っています。発議権は国会にあり、内閣は全く権限がありません。むしろまな板の上のコイであり、どうこう言うこと自体がピントがずれている。広範な合意形成は結果として生じるものです。期限だから合意しろと言うのでは、合意形成は不可能です」
「ただ、個人的には次の衆院選までの任期で、何らかの一定の成果を上げたいと思います」
取材に応じる枝野幸男さん=2024年12月20日、国会
―どのような成果でしょうか。
「それは私だけで決められる話ではありません」
× ×
えだの・ゆきお 立憲民主党代表、経済産業相、官房長官、民主党幹事長を歴任。弁護士出身。衆院埼玉5区選出。当選11回。60歳。
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