認知の偏り自覚できるか、過度な価値相対主義に疑問 教育社会学者・福島創太さん【不信の向こう側~既存メディアはなぜ嫌われるのか①】
47NEWS / 2025年1月28日 9時30分
新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。2024年11月に行われた兵庫県知事選では、支援者らが交流サイト(SNS)を駆使した選挙活動を展開して急速に支持を広げる一方、既存メディアに対する批判も拡大した。
インターネット上で真偽不明の情報が飛び交う中で、事実に根ざした報道の重要性は増している。しかし、テレビや新聞は「オールドメディア」と呼ばれ、SNSにその影響力を奪われつつある。
既存メディアに対する不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。各界の識者に考えを聞いた。教育社会学者の福島創太さんは、SNS世代にとっては情報を吟味するより素早く反応することが重要だと話し、その結果生じる認知の偏りや、背景にある価値相対主義は、深くものを考える態度を遠ざけることになると警鐘を鳴らす。(聞き手 共同通信=名古谷隆彦)
▽キャッチし続けるSNS情報、そこでストップする思考
SNSのアプリなどが並ぶスマートフォンの画面
中高生の視点から、既存メディアに対する不信と交流サイト(SNS)への傾倒を考えてみます。生徒たちは新聞やテレビのニュースとの接点がほとんどなく、めったに話題にしません。一方で、主要な生活空間である教室で友人たちと心地よく生きるには、SNSの情報をキャッチし続けることが必須条件です。
一連の兵庫県知事選の問題も「不当にいじめられている人がいるらしい」というSNSの勧善懲悪の物語が、情報を知る端緒になっていました。
しかし、そこで思考が止まってしまいます。ではなぜ選挙が実施されることになったのか、という点を調べる行動にはつながらないので、新聞のニュースにもたどり着きません。接点が薄い中でも既存メディアに否定的な印象を持つ生徒はいますが、確たる根拠はないのです。
SNSには、広範な情報にアクセスできるツールだと思い込ませる力があります。世界中のどんな情報や動画にでもアクセスできる。直感的には幅広い印象を受けますが、実は自分が共感したり、親和性のある考え方をもつ人やメディアだけの発信にしか触れられていなかったりすることも多い。生徒たちは情報のフィルターバブルの中にいる認識がありません。
シニア層は、新聞とSNSは別物だという感覚を持っていると思いますが、若者にはSNSが全てで、その中にニュースもあれば趣味的なものも含まれている。そのような関わり方だと、さまざまなテーマの情報がフラットになりがちです。
「いいね」を押すか、スルーするかがほぼ全てのアクションで、しっかり受け取って考える所作も求められません。LINE(ライン)でもリアクションがない人はブロックされることがあり、いつもせかされています。反応するスピードが生命線なのです。そうした情報との接し方を身につけるほど、既存メディアとは距離ができます。
現代を生きる私たちにまず必要なのは、認知の偏りが必然的に起きる世界に生きているという自覚ではないでしょうか。
▽学校でメディアリテラシー、でも何から教えれば良い?
自民党総裁選のニュースを伝えるテレビ画面=2024年9月
学校ではメディアリテラシー教育も実施されていますが、例えば闇バイトのように、生徒たちの身に危険が生じうる情報のリテラシーが優先されているのが実情です。
教員の側を見てみると、50代以上は既存メディアの情報に慣れ親しんでいますが、20~30代は生徒たちほどではないものの既存メディアとあまり接触していません。生徒に対して「さまざまな媒体に触れ、視野を広げよう」と働きかける方向には行きにくいのです。
リテラシーと言われても、何から指導に取り組めばよいか、教員自身も分からなくなっているのではないでしょうか。
かつては明確な価値基準を持った教員が多く、そこからはみ出す生徒を厳しく指導していましたが、近年はそれができにくくなっています。行きすぎた指導を抑止する大きなプラス面もありますが、個々の教員が生徒に価値を語りづらい時代になったとも言えます。もしかすると、私たちは大切なものを失っているのかもしれません。
▽違和感を抱く情報に接したとき、どうあるべきか
価値相対主義は、ある基準に基づいて深くものを考える態度を遠ざけます。「さまざまな価値がある」と相対化してしまえば楽ですし、現状に適応する生き方が合理的だということになります。
仕事で探究学習のプログラムづくりに関わっていますが、好まれるのは問題解決や企画開発といった内容です。今は正解がない時代だと言われるのに、「正解のない問い」は「正解のある問い」としてパッケージ化されがちです。
大切なのは、自分が違和感を抱く事象や情報に接したとき「私は間違っていない」とかたくなに拒否するのではなく、自分のスタンスは揺らぎうるという認識を持てるかどうかだと思います。
そのような市民を育てることも学校の役目の一つです。同時に既存メディアにとっても、市民教育に寄与するそうした記事をどの程度提供できるかが、重要ではないでしょうか。
× ×
ふくしま・そうた 1988年、東京都生まれ。東京大博士課程。専門は教育社会学。株式会社「教育と探求社」に所属。近著に「学びをつくる問いと対話のデザイン」(仮題、今春刊行予定)。
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