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極論と相性のいいフェイク、外国勢力が利用する危険も 文筆家のマライ・メントラインさん【不信の向こう側~既存メディアはなぜ嫌われるのか②】

47NEWS / 2025年1月29日 9時30分

文筆家のマライ・メントラインさん

 新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。ドイツ生まれの文筆家マライ・メントラインさんは、SNSを駆使した既存メディア攻撃によって右派政党が躍進したドイツと日本の共通項を挙げ、「極論」の影響力とその危うさを強調した。(聞き手 共同通信=佐藤大介)

▽生活が苦しいのは?ドイツ人が飛びついた単純な「答え」とは


右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の集会に集まった支持者ら=2024年8月、ドイツ東部テューリンゲン州エアフルト(共同)

 ドイツでは2024年9月に行われた旧東側3州の選挙で、排外主義を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が主要政党を抑え、第1党や第2党に躍進しました。閉塞感が主要政党への反発につながり、増加する難民の排除を叫んだAfDが若者を中心に支持を集めた結果です。


 AfDは、TikTok(ティックトック)などの交流サイト(SNS)を利用した政策のアピール戦略で他党を圧倒しています。政党でのSNSの活用にはルールがありますが、規制のない個人がAfDの発言を切り抜き、動画に加工して拡散することで影響力を増していったのです。

 SNSは極論で訴えようとする政党にとって、とても有効なツールです。社会の複雑な問題には丁寧で落ち着いた議論が必要なはずですが、極論を言えば簡単に人を動かすことができてしまいます。AfDが示した「生活が苦しいのは難民が原因だ」という単純な「答え」に、不満を抱えている人たちは飛びつきました。

 ナチスの過去を持つドイツで、難民に対するヘイトを繰り返す政党が多数に支持されるということは、私にとってショッキングでした。AfDは演説にナチスの主張を盛り込むようなこともしましたが、ネオナチまでは行かなくてもリベラルでもない中道右派の人たちに入り込んでいきました。ポピュリズムと極論が結びつくと、ここまで力を持ってしまうのかと驚いています。

 ドイツのメディアも問題点などを報道しましたが、読者や視聴者は高齢で、若者への影響は限定的でした。それ以上に、メディアや既存政党へのすさまじい攻撃が、支持を集めてしまいました。 SNSで「既存メディアは既得権を守るために、AfDを問題視している」という見方が広がったのは、日本と共通していると思います。
 「上にいる人たち」への不信感と憎悪は、自分たちが無視されているという気持ちとともに、メディアと政治家が一緒になって何かを企んでいるという「大きなストーリー」を信じ込ませます。だからといって、AfDのような存在が自分たちにプラスのことをしてくれるかどうかは関係なく、何かを破壊したいという衝動が強いと感じます。

▽情報が欲しいときに黙ってしまう日本のメディア、本末転倒では?


兵庫県知事選の選挙戦最終日、スマートフォンを掲げる大勢の有権者の前で街頭演説する斎藤元彦氏=2024年11月、神戸市

 極論は事実をゆがめるという点で、フェイクニュースと相性がいい。兵庫県知事選では、真偽不明な情報が「事実」として流布され、結果にも影響を与えました。既存メディアや政治家と対決する人物を再び知事の座に戻したいだけの人は、それが事実かどうかを検証することに関心はありません。

 日本のメディアは公平性を意識し、選挙期間中は黙ってしまう傾向があります。自分が一番情報を欲しいときに材料を提供しないのであれば公益性を失い、ヘイトを放置することになります。公平性を気にしすぎることで報道を控えることで、公益性をなくすことになれば、本末転倒です。

 (2024年11月に実施された兵庫県知事選では)政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、斎藤元彦氏を応援する目的で立候補しましたが、ある意味「おニュー」なやり方かと感心しました。立花氏は陰謀論マシーンをフル回転させましたが、そうした活動を斎藤氏は一切問題にしませんでした。
 いくら法的に問題はないとしても、そこに道義的な責任は避けられません。自分にとって有利となるフェイクニュースを野放しにするのは、社会にとって大きなリスクとなります。
 フェイクが訂正されない状況が続けば、フェイクを利用して国内を混乱させようとする外国勢力にとって、とても「おいしい土壌」となってしまう危険性があります。

 極論が力を持つのは、今後も世界的な流れだと思います。地味なようですが、極論から目をそらさず、根底にある不満や社会の姿を見ていくことが既存メディアに課された使命ではないでしょうか。
  ×   ×
1983年、ドイツ北部キール生まれ。16歳で日本留学。ボン大卒業後、2008年から日本在住。文筆や翻訳など幅広く活躍し「職業はドイツ人」を自称する。

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