不都合嫌う「共感」の世界、違和感すくい上げるSNS 情報社会学者・塚越健司さん【不信の向こう側~既存メディアはなぜ嫌われるのか③】
47NEWS / 2025年1月30日 10時0分
新聞やテレビなど、既存のメディアに対する不信感が高まっている。不信感はなぜ生まれたのか。その背景に何があるのか。情報社会学者の塚越健司さんは、SNS上の根拠のない情報を信じる人たちは「自分で検索し、調べた情報」だからこそ信じようとする傾向があると話す。(聞き手 共同通信=佐藤大介)
▽SNSにあふれる不安のはけ口、インフルエンサーが触媒になって一気に爆発
衆院選で街頭演説に集まった有権者ら=2024年10月26日、東京駅前
現代は「正義」よりも「共感」の時代です。政治家もアイドルのような「推し」の対象となり、人々は交流サイト(SNS)を通じて努力し続ける姿を目にし、共感して応援するようになったと感じます。一方、推しと共感の世界には、不都合なことは議論されづらいという特徴があります。
推しの姿から自分のすべき役割を与えられた気持ちになれば、不安が消えて楽になり、元気が出ます。メディアは権力を監視し、批判する役割がありますが、政治家が推しの対象となると、推しを批判するメディア報道はしっくりこない。すると、メディア報道は既得権益の代弁ととらえられ、不信感が強くなります。兵庫県知事選で斎藤元彦氏を支持した人にも、そのような傾向が見受けられました。
斎藤氏に投票した人には、陰謀論的な主張の影響を受けた人が少なくなかった、といった研究もあります。しかし、そのことを上から目線で批判するよりも、どのように情報が流布されていったかを考えることが重要です。
確かに新聞やテレビといった既存メディアも、メディアスクラムなどの取材方法の問題が、以前から指摘されてきました。少しずつ問題点は改善されつつありますが、SNSなどの新興メディアを利用する人の中には、既存メディアに対する潜在的違和感をすくい上げることで、影響力を拡大する人もいます。
潜在的な違和感は火薬のようなもので、熱が高まって発火すれば一気に爆発します。不安やいらつきのはけ口となる材料を、SNSはどんどん提供しますし、ネット上には、こうした構造を理解した自覚的なインフルエンサーが、次々と現れています。
ネット上の膨大な情報の中には荒唐無稽な情報もあります。とはいえ、客観性の高いデータや事実を示しても、SNS上のインフルエンサーが放つ、根拠不明な主張や断片的事実のひと言に、影響力で負けてしまうことは珍しくありません。
▽既存メディアは耐える時、粛々とファクトチェックを
こうした主張を信じる人にとって重要なのは、情報を新聞やテレビから一方的に受け取っているのではなく、自分で動画サイトなどを検索し、調べたという意識だと思います。つまり、主体的に得た情報だからこそ、より信じようと思えるのではないでしょうか。
最近は、どういったタイプの性格なのかを細かく分類する診断テストを試す人が多くなっています。その背景には、誰かに「あなたはこういう人間だ」と決めてもらえることで、自分で考える負担が減るという意識があると思います。
例えば、自分は何者なのかというアイデンティティーが揺らぐこの時代に、日々過激で過剰な情報でスマートフォンが埋め尽くされると、人は圧倒的な不安感に襲われます。そうした心の揺らぎを埋めるのに、誰かがSNSで「真実だ」と決めつけてくれた言葉が、有効に機能するということです。
既存メディアにとって、情報がなかなか伝わらないのは、厳しい状況です。今は、耐える時だと思います。挑戦的で過剰な報道でインフルエンサーに対抗するのではなく、粛々とファクトチェックに徹する姿勢が、巡り巡って重視されるかもしれません。
既存メディアの影響力は、以前より落ちていくことは確実です。とはいえ、以前は影響力を持ちすぎていた側面も確実にあります。複数のメディアが混在し競合関係にある中、情報をどのように伝えるかが、ますます問われています。
スマホの普及は、人々の情報の接し方に大きな影響を与え、経済環境も変えました。スマホは従来の情報環境を「創造的破壊」することで、良くも悪くも新たな展開をもたらしたとも言えるでしょう。スマホ全盛のこの時代に、既存メディアはSNSなどの新興メディアを好敵手として、互いに高め合う中で、その手段を探る必要があります。
× ×
つかごし・けんじ 1984年、東京都生まれ。一橋大大学院社会学研究科修了(修士)。城西大助教。著書に「ニュースで読み解くネット社会の歩き方」など。
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