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映画「幸福の黄色いハンカチ」、主演高倉健さんのキャスティングは「とんでもない」から始まった  没後10年、代表作を手がけた山田洋次監督が振り返る生きざま

47NEWS / 2025年2月1日 9時30分

高倉健さん=2011年

 映画を中心に多くの名作を残した俳優高倉健さん。2014年11月にこの世を去って10年が過ぎた今も、ファンから「健さん」と呼ばれ愛されている。代表作「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」(1977年公開)や、「遙(はる)かなる山の呼び声」(1980年)を手がけた山田洋次監督(93)に、その魅力を聞いた。(共同通信=松本はな)

 ▽帰り際、お辞儀をして「今日はうれしい日です」


映画「幸福の黄色いハンカチ」の製作発表で、(左から)山田洋次監督、武田鉄矢さん、倍賞千恵子さん、桃井かおりさんと写真に納まる高倉健さん=1977年4月、東京都中央区

 「幸福の黄色いハンカチ」は、北海道の網走刑務所を出た男が、別れた妻とかつて暮らした夕張へ、まだ自分を待っていてくれるのではないかという淡い期待を胸に向かうロードムービー。

 「アメリカのヒット曲が原作で、日本を舞台にしようと。主人公は誰だろうと2~3カ月も考えたような気がする。ある時、誰かに『高倉健はどうだ』って言われたんだ。当時やくざ役ばかりやっていた人だから、最初はとんでもないと思った」

 やくざ映画を見て、決して芝居がうまい俳優ではないと感じる一方、「やっぱり健さんが出なきゃ面白くない」という印象を抱いたという。

 「彼がいいのは目だと思うね。とっても真剣なんだ。もしかして、普通の人と違う“いちずさ”を持っている人なんじゃないか。そこで思い切って会ってみようとなった」

 連絡を取ると、健さんは1人で車を運転し、監督の仕事場である旅館にやって来た。

 「座敷に2人向き合って、僕が考えているストーリーを話したの。すると、彼は即座に『何月に体を空ければいいですか?』と言った。そういう仕事の決め方はいかにも健さんらしかったね。帰り際、玄関できちんとお辞儀をして『監督、今日はうれしい日です』。見ているだけでほれぼれするんだよな、健さんって人は」

 ▽お世辞や自慢はなし、スタッフみんなが憧れた


インタビューに答える山田洋次監督=2024年11月

 調子のいいお世辞や、くだらない自慢話は一切言わない。そんな健さんに、撮影現場のスタッフみんなが憧れたという。

 「本当に純粋に生きている人って感じがするんだね。高倉健という人間の生きざまとでもいうかね、姿と内面、両方ともすてきなんだよなあ。そういう俳優ってめったにいるもんじゃないよ」

 作品中、主人公は武田鉄矢さんと桃井かおりさんが演じる行きずりの若者2人に「俺なあ、人生やり直そうと思って北海道出てきたんだ」と過去を打ち明ける。

 「健さんは似合うんだよな、北海道が。福岡県出身だけど、土着性みたいなものを全く感じさせない。僕も旧満州で育ったからね。いろんな土地から来た人が一つの共同体を作っていく。北海道もそういうところがあるわけだ。いろんな人がいて苦労はあるけどいいじゃないか、あの人も僕らの仲間なんだからって」

 監督の代表作「男はつらいよ」シリーズの主人公・寅さんも周囲を困らせる人物だが、妹のさくらたちはいつも心配しながら帰りを待っている。

 「一つ屋根の下で家族をしていくために、けんかしながらも仲良くやっていこうよという意思を持っている。自由な寅さんも妹が悲しむようなことはしちゃいけないと、そこだけは信じていた」

 ▽「僕たちは普段、ほとんど死んでいるようなもの」


映画「幸福の黄色いハンカチ」で、第1回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した高倉健さん=1978(昭和53)年4月6日、東京・帝劇

 「幸福の黄色いハンカチ」では、炭鉱で事故が起き、無事に出てきた主人公に妻(倍賞千恵子さん)が駆け寄り、泣き崩れるシーンがある。監督は夕張での撮影中、健さんと一緒に炭鉱に入ってみたことがあるそうだ。

 「まだ石炭を掘っていたから、炭鉱側にお願いして案内してもらった。汚れるから着替えたんだけど、パンツもはき替えてくれという。大げさじゃないかと思ったんだけど、坑内の一番奥まで行ったら湿度が高くて、全身からものすごい汗が出てくるんだよ」

 立っていられないような環境の中、労働者たちは炭のかかった弁当を平然と食べていたという。

 「戻ってきてお茶を飲んで『生き返った感じですね』と言ったら、健さんは『全くその通りです。ということは僕たちは普段、ほとんど死んでいるようなもんですね』」
 「炭鉱で働く人たちはものすごい危険な場所で何時間も過ごして、毎日“生き返っている”わけだ。それに比べて、僕らはなんてだらだらと仕事しているんだろうって」

 ▽山田監督が考える、健さんの「かっこよさ」とは


インタビューに答える山田洋次監督=2024年11月

 2作目の「遙かなる山の呼び声」では、北海道中標津町で牧場を営む母子の元に、住み込みで働かせてほしいと訪ねてくる主人公に起用。社会からはみ出し、警察に追われた男を、母子や地域の人々が優しく包み込む。
 母親役で再びヒロインを演じた倍賞さん。素性の知れない男を雇うことを近所の人は心配するが、彼女は取り合わない。

 「この人は大丈夫、人を傷つけたりしない人だと自分で判断できる賢さを持っているんだね」

 監督は、作品で描いた時代と比べて社会が変わってしまったと嘆く。

 「日本人は明らかに寛容じゃなくなってきた。いつの間にか不良みたいな子がいなくなった。昔は長い学ランを着て、額にそり込みを入れた少年がいても、大人たちは眉をひそめながらどこかで認めていた。そういう人も、いつか大人になるのだからと」
 「今は子どもの頃から狭い道を無理やりくぐらせて、そこから外れたらもう駄目だと言われる。むごい時代じゃないかな」

 多くの人を魅了した健さんの「かっこよさ」とは何だったのか。監督は、「幸福の黄色いハンカチ」の主人公が、妻となる女性と出会ってから言葉を交わすまで半年かかったことを振り返って「俺は不器用な男だから・・・」と回想する場面を挙げる。

 「彼女にほれた、そしてついに結婚したってことは、彼女が全てなんだ。絶対なんだよ。(かっこよさは)生き方として、そんなふうに信じられるものを持っている、ということなんじゃないかな」

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