中居正広さんの「女性トラブル」、そもそもフジテレビがするべきだったこととは? 弁護士の三輪記子さんに聞く 「被害女性のプライバシー保護を最優先」で守ったのは女性ではない
47NEWS / 2025年1月25日 9時30分
昨年12月に週刊誌の報道で明らかになった中居正広さんの女性トラブルが波紋を広げ、中居さんが引退を発表する事態となった。フジテレビは、社員がこのトラブルの発端となった会食の機会を設けたとの報道を否定したものの、詳しい調査は今後第三者委員会に委ねられることになった。
これまで中居さんは女性との間に示談が成立していることを明かしている。性被害やセクハラ事件などを取り扱う弁護士の三輪記子(みわ・ふさこ)さんに聞くと、示談とは、当事者間の争いを終える合意に過ぎず、そこでの約束は当事者だけを拘束する。人気タレントの中居さんと、公共財である電波を使い情報を視聴者に届けるフジテレビは社会に対して果たすべき責任を負っているという。
フジテレビの港浩一社長は17日に初めて開いた会見で「(トラブルが分かって以降)被害女性のプライバシー保護を最優先して、対応を進めてきた」と繰り返した。フジテレビが、この問題が週刊誌報道で明るみに出る前にできたこととは何か?(共同通信=前山千尋)
▽法的責任と社会的責任をはっきり分けて考える
三輪記子さん(植田真紗美撮影)
―この問題をどう捉えていますか?
「中居さんのトラブルについては、法的責任と社会的責任という面があるのに、この二つが混同されており、峻別が必要だと考えています」
―どういうことですか?
「そもそも示談とは、トラブルがあった当事者同士が民事上の争いを終える契約のこと。一般的に「どういった紛争なのか」を特定した上で、『金銭を支払う』とか『近づかない』など、さまざまな条件を設け、合意します。その中では刑事手続きについても言及されることもあります。例えば、『刑事処分は求めないことを約束する』などですね」
「示談成立というのは当事者間の合意であり、中居さんはそれによって、相手に対しては一定の法的責任を果たしたといえます」
「ただ、今回はそれとは別の問題があります。フジテレビは示談の当事者でなく、社会的責任があります。言い換えれば、視聴者への説明責任です。初期の段階からトラブルを知っていたにもかかわらず、週刊誌がこの問題を報じるまで中居さんを起用し続けたことが社会的に適当だったのか、メディア企業としての社会的責任を適切な時期に果たしたといえるのか」
「中居さんは人気のある大物タレントですから、フジテレビと同様に、社会的責任を負っていますし、中居さんをコマーシャルなどに起用したスポンサー企業にも同様の責任が生じえます」
▽守秘義務とは当事者間に課せられた約束、第三者の口は封じられない
中居正広さん
―昨年12月に週刊誌が報じたことで、交流サイト(SNS)上などで、被害女性が示談で課されている守秘義務に違反したという声が上がっています。守秘義務について教えてください。
「示談では多くの場合、第三者に口外しない『守秘義務』についての条項が設けられます。『口外禁止条項』と言うこともあります。ただそれは示談の成立以降の当事者だけに効力が生じます。週刊誌の報道を見ている限り、被害女性はコメントしているようにも見えますが、守秘義務には違反していないと考えるのが妥当だと思います」
「今回の示談がいつ成立したのかは分かりません。それ以前に被害女性が相談していた、例えば、フジテレビ関係者のような事情を知っている第三者の口を封じることはできないでしょう。示談の当事者でない人には示談の効力は及ばないわけです」
「旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長による性加害問題では、テレビ局をはじめとするメディアと大手芸能事務所との関係も問題視されました。推測になりますが、今回のことを握りつぶされるのを許さなかった人が公益通報的にこのトラブルを明るみに出した可能性があるのではないでしょうか」
▽「調査しなかったのなら、トラブル生む構造をもみ消したも同然だ」
記者会見するフジテレビの港浩一社長=2025年1月17日午後、東京都港区のフジテレビ
―フジテレビは何をするべきだったのでしょうか?
「再発防止や企業ガバナンスの観点から、もっと早い段階で、二者の間にどういったトラブルが生じ、それをフジテレビがどの段階で認識し、それに応じてどのような行動をするべきだったのか検証すべきでした。設置される調査委員会には、どの時点で、社内の誰がトラブルを把握して、どんな対応をしたのか、その処理は適切だったのか、第三者の目で判断されることが期待されます」
―17日の会見で港浩一社長はこれまでの対応を「被害女性の人権や意思、プライバシー、心身のケアを優先した」と繰り返しました。女性のプライバシーを守りながら、調査はできるのでしょうか?
「もちろんです。詳細な被害内容を明らかにしなくても、組織として、そもそも中居さんにヒアリングすることはできたでしょう。そのような対応に問題がなかったかどうかは十分調べられます。トラブルを知りながら調査せず、検証もしなかったのであれば、トラブルそのものや、今回のようなトラブルを生む構造をもみ消したも同然です。調査をせず守られていたのは女性というより、その後も番組に出続けた中居さんではないでしょうか」
「大物タレントを巡るトラブルが起きたとしても、当事者間で示談さえすれば『解決』としてしまうなら、被害を生む構造は明らかにされず温存され、いつまでも被害者が生まれ続けるでしょう」
―週刊文春は、女性社員にタレントを「接待」させる場をフジテレビの幹部が常態的に設けていたと報道しています。
「週刊誌などでも、女性アナウンサーは性的に消費されて当然といった風潮があります。女性に対する社会の差別的な視線は根強く、そういったことも影響しているのではないでしょうか」
▽説明できなければ、テレビに出ない
タレント中居正広さんのトラブルとフジテレビを巡る経過
―スポンサー企業の対応はどうでしょうか?
「港社長の(17日の)会見以降、CMの差し替えが広がっています。これは会見での説明が足りなかったことの表れです。フジテレビに説明を求める動きとも言え、スポンサー企業としての社会的な責任を果たす姿勢を見せているといえます」
―中居さんが今月9日に最初に出したコメントで疑問に思ったのが、「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」というくだりです。どう解釈しましたか?
「言葉足らずな表現ですが、私は、示談の成立時点での話をしていると思いました。一般的に考えれば、スポンサー企業への説明です。コメント発表後にもテレビに出続けるということではなく、これまでテレビに出ていたのは示談が成立していたからです、という趣旨だと受け取りました」
―中居さんは今後、守秘義務を破らずに社会的責任をどう果たせると思いますか?
「かなり難しいのではないでしょうか。社会への説明であれば、オープンな会見が必要です。今回、引退したことで、自身の説明責任を果たすという可能性はかなり低くなったと思います。これからフジテレビの第三者委員会の調査が始まります。引退のコメントの中で、中居さん自身も言及していますが、この調査には協力しなければならないでしょう。直接的な責任の果たし方ではないですが、引退したからといってすべての責任が免除されるわけではないと思います」
▽示談金で戻ってこない人生
東京・台場のフジテレビ
―ネット上では被害女性への誹謗中傷が起きています。
「中居さんもコメントで触れていますが、被害女性に対する誹謗中傷は絶対にあってはならないこと。大物である中居さんに比べて、被害女性はとても弱い立場に置かれています」
「『示談金をもらっている』『払ったのに損』といった論調にもなりやすく、そういう意見があることは分かります。ただ示談金とは、被害に対する金銭評価で、当事者の合意により導かれた金額です。そもそも被害女性が受けた損害の実態も知らず、具体的な示談金も不明な中で、お金をもらったことは被害者を中傷する理由にならない。被害女性は思い描いていた人生を不本意に奪われたわけで、お金でその人生は戻ってはきません」
―旧ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長の性加害問題ではテレビ局をはじめとするメディアとの関係が問題視されました。今回のトラブルが起きた2023年6月は加害が次々と明らかになっていた時期と重なります。
「女性がどんな被害にあったのかは分からないし、ジャニー喜多川元社長による性加害の問題と異なる。ただ人気があるから、お金になるからという理由で問題が矮小化され、視聴者を楽しませたり、元気にしたりするテレビというエンターテインメントの裏で泣く人がいるという構造は似ていると感じます」
「テレビ局は当時、旧ジャニーズ事務所との関係を自社で検証して、番組にはしました。けれども今回の問題が起こり、タレントとテレビ局、芸能事務所とテレビ局の関係について、本当は第三者委員会を立ち上げて検証することが必要だったのではないかと改めて感じます」
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