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高さ10メートルの木彫りマリア像。約40年かけて私費制作した90歳彫刻家の思いとは?

47NEWS / 2025年2月12日 9時0分

高さ約10メートルの原城聖マリア観音=2024年12月、長崎県南島原市

 交通が不便で陸の孤島とも言われる長崎県南島原市に、高さ10メートルの木彫りのマリア像が完成した。老若男女の農民約3万人が犠牲になったとされる日本史上最大規模の島原天草一揆の犠牲者に捧げるため、90歳の彫刻家が約40年かけてたった一人で制作した。彫刻家とそれに共鳴した南島原市民の思いとは…(共同通信長崎支局長=下江祐成)

▽12万人の幕府軍がキリシタンを皆殺し


落城後、幕府軍により徹底的に破壊され草地となった原城跡(南島原市提供)

 現在の長崎県島原半島と熊本県天草地方で1637年、キリシタン農民ら約3万人が決起した「島原天草一揆」。16歳の総大将・天草四郎に率いられた老若男女の農民たちは約3カ月間の壮絶な籠城戦の末、九州諸藩を中心に集められた12万人もの幕府軍により皆殺しにされた。


出土した人骨と十字架(南島原市提供)

 一揆勢の最期の地となった長崎県南島原市の原城跡近くに、このほど、高さ約10メートルの木彫りのマリア像がお目見えした。
 像を制作、寄贈したのは、神奈川県藤沢市の彫刻家でカトリック教徒の親松英治さん(90)だ。40年以上前。原城跡を初めて訪れた際、「一揆犠牲者には無抵抗の殉教者もいたのに、数百年間も打ち捨てられているままだ」と感じた。

▽ローマ教皇の祝福で決意


マリア観音を制作する親松英二さん=2022年秋ごろ(原城聖マリア観音ホール提供)

 親松さんは、1981年のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の来日時に、マリア像を、原城跡にささげるための祝福をお願いして、決意を固め、制作を始めた。
 最初は45センチぐらいの原型をつくるところから始まり、顔の部位や体のバランスを考えながら、1メートル、2・5メートル…と徐々に拡大して、誤差の修正を重ねた。
 10メートルの巨像は、私費2000万円以上を投じて樹齢200~300年のクスノキを購入し、像の部位ごとに輪切りにして、校倉(あぜくら)造りに組み上げた。巨像は、アトリエには収まらないため、最後に展示施設内で組み立てることにした。


マリア観音頭部の色塗りを行う親松英治さん=2022年秋ごろ(原城聖マリア観音ホール提供)

 頭部から彫り進め、内部をボルトで固定して徐々に一体の像へと組み上げていった。ひび割れも出るため修復しながらの大変な作業になった。

▽仏教徒が親松さんに共鳴


丘の上にある原城聖マリア観音ホールからの眺め=2024年12月、長崎県南島原市

 彫刻家としての生業の傍ら、誰に頼まれたわけでもないのに、一人で像を彫り続けた。親松さんは「3人の子どもを養い生活費を稼ぐため、昼夜を問わず作業した。制作中、罪なくして迫害された人たちのことが絶えず頭の中に浮かんだ。教皇様から頂いた祝福が心の支えになった」と話す。
 完成が視界に入ってきた2014年。親松さんは南島原市に寄贈を申し出た。市は受け入れ方針だったが、一部市民の「政教分離に反する」との声を受け断念した。
 親松さんは他の寄贈先も探したが、市民が2020年に「南島原世界遺産市民の会」を結成。寄付を募って、像の輸送費や展示ホールの建設費など約6500万円を工面した。


原城本丸跡に建つ十字架=2023年9月、長崎県南島原市

 建設地は、親松さんの志に共鳴した南島原市の仏教徒の男性が、丘の上のジャガイモ畑を無償提供した。原城跡や一揆の総大将・天草四郎で有名な熊本県天草地方を望むことができる場所だ。

▽広島と長崎への原爆投下の日


ジャガイモ畑が無償提供され建てられた原城聖マリア観音ホール=2024年12月、長崎県南島原市

 巨大な像の10個の部位は、2022年に藤沢市のアトリエからホールに運び込まれ、そこで初めて一体の立像として組み立てが始まった。
 マリア像の頭部を初めて引き上げて全体のバランスを確かめたのは、2022年の広島原爆の日に当たる8月6日だ。傾きを修正し3日後の長崎原爆の日に再び引き上げ始め、一体の立像となった。
 マリア像は、宗派の垣根を越えて平和を願ってほしいとの思いから「原城聖マリア観音」と名付けられた。ホールは24年9月にオープンした。


ホール落成式での親松英治さん=2024年9月(南島原市提供)

 親松さんは「マリア観音が、陸の孤島のような南島原の発展に寄与してほしい」と話す。


南島原世界遺産市民の会代表理事の石川嘉則さん=2024年12月、原城聖マリア観音ホール

 市民の会代表理事の石川嘉則さん(86)も「8月6日と9日にマリア観音の頭部を引き上げた。『世界平和ですね』と親松さんに声を掛けた。多くの人にマリア観音を見に来てもらい、平和な世界をつくる気持ちを共有してもらえればと思う」と話している。
 原城聖マリア観音ホールは、親松さんの他の作品や地元の人の風景写真などを飾る展示室を建設したり、周辺に植栽したりするための寄付を募集している。
 問い合わせは原城聖マリア観音ホール、電話0957(61)0977。

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