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「女子なのに東大?」「研究に向いていない」。東京大に今も残るジェンダーギャップ。虎に翼の脚本家は「言葉の逆風」をどう感じたか

47NEWS / 2025年2月11日 9時0分

「#言葉の逆風」プロジェクトのポスターに対談の聴講者が貼った励ましの言葉

 2024年度の東京大の男女比は、男性の学生が8割、女性は2割、教授は男性が9割で女性は1割だった。圧倒的に男性が多い環境で、実際に東京大に通う女子学生や教員は次のような言葉をかけられたという。

 「女子なのに東大?」「女子は研究に向いてない」

 24年、これらの言葉が記されたポスターが大学内に掲示された。仕掛け人の一人が、副学長の林香里さん。ジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)を可視化するプロジェクト「#言葉の逆風」の企画だ。林さんは明かす。「こういうものを外に出すと、東京大の恥なんじゃないかと思われることもある」
 その林さんが、この年の4~9月に放送されたNHK連続テレビ小説「虎に翼」の脚本家吉田恵里香さんと12月に対談した。(共同通信=松本智恵)

▽現在に続く女性の生きづらさ


東京大の女子比率を説明する林香里副学長

 「虎に翼」は、女性初の弁護士・三淵嘉子さんをモデルとした主人公・猪爪寅子の生涯を通じ、ジェンダー差別解消に向けて連帯する人々の姿を描き、話題を集めた。ジェンダーにまつわるモヤモヤに疑問符を投げかける「はて?」のセリフは流行語になった。

 林さんにはプロジェクトのポスター掲示が、「東京大の恥」と思われるかもしれないとの思いもあった。でも、必要なことだと学内合意を図った。「未来の教育、研究の場を作るために。特に若い研究員たちが頑張ってくれた」と話す。
 吉田さんもポスターにあった言葉をかけられた経験が「たくさんある」という。「この中の(言葉を)1個も受けないで大人になった女性っていないのではないかと思う。それが非常に腹立たしい」と訴えた。

 ▽寅子の「私たちはすごく怒っているんです」


対談する林香里副学長(右)と脚本家の吉田恵里香さん

 ドラマでは、大学に入学した寅子が、世の女性が置かれた不合理な状況に怒りを感じながら、法律を学ぶ姿が描かれた。現在の司法試験に当たる「高等試験」合格に向けて奮闘するも、家庭の事情により勉強を断念した仲間も。寅子は2度目の挑戦で合格を果たした。

 林さんは最も印象に残ったシーンに、寅子の合格祝賀会を挙げる。優秀なご婦人と褒められた寅子は、志半ばで学びを諦めざるを得なかった女性たちのことを思いながら「自分が1番なんて、口が裂けても言えません」と反論し、「今、合格してからずっとモヤモヤとしていたものの答えが分かりました。私たちすごく怒っているんです」と続けた。
 この台詞を聞いた時、林さんは涙を流したという。弁護士として男女関係なく困っている人の力になると誓った寅子の姿に「みんなが生きやすい社会を作っていこうというメッセージ」を読み取った。

 ▽妊娠により、女性の主語が子どもになる


脚本家の吉田恵里香さん

 現在、男の子の育児に奮闘している吉田さんが「自分を重ねた」というのは、寅子の妊娠が分かったシーンだ。寅子は弁護士事務所で働き続けていたが、体への負担が大きく倒れてしまい、退職を余儀なくされた。
 吉田さんは「主語が自分でなくなっていく」と表現した。母になることはとても喜ばしいことなのに、すごくモヤモヤし、悲しい思いをすることも。「今思えば、自分の気持ちが反映されている部分もあるのかな」と振り返った。

 ▽「はて?」に込めた思い

 寅子が生きたのは、妻を法的に「無能力者」としていた時代。今よりも固定的な性別役割意識があった。そんな中で、寅子が投げかけ続けた「はて?」はどうやって生まれたのか。
 吉田さんは「誰かを否定するのではなく、『対話しましょう』『納得いっていません』などの第一声とした」と明かす。女性は協調性がある、何かあっても許してくれるとされがちだが、「怒っていいんだよ」というメッセージも強く発信したかったという。

 林さんは「何かあった時、つい何かを言いたくなっちゃう。でも一回『はて?』と言っとけば、少し心が落ち着く。一拍おくような感じもあっていいなと思う」と共感した。

 ▽新しいかっこよさ


対談する吉田恵里香さんと林香里副学長

 男女平等や女性の友情がメインストーリーだった「寅に翼」。しかし、「片方だけを描くと分断を生む」と吉田さんは話す。女性の権利が向上することで、男性の権利が下がるわけではなく、「相乗効果で上がっていく」と考えているという。「性別で区別されないものになればいいなという思いで描いていた」

 ドラマで描かれる「かっこいい男性像」は、グイグイリードする人などが描かれがちだが、「寅に翼」には実にさまざまな性格の男性が登場した。寅子の心優しい夫・佐田優三、堅物だけど甘いもの好きな裁判官・桂場等一郎、真っすぐな性格の同級生・轟太一…。「今回は自分がかっこいいと思う男性像にしようと。否定しない、応援してくれる、そういう新しいかっこよさをやりたいと思った」と話す。

 ▽男性から言ってもらう


林香里副学長

 林さんは男性研究者らとジェンダーについて話をしている時に、相手が「日本は男女平等なのに何でこれ以上やらなくてはいけないのか」と考えていると感じることがあると打ち明ける。

 ジェンダーは自分とは関係ないと思っている男性と話す際に心がけているのは、エビデンスベースで話をし、具体的なエピソードを挙げること。そして「(女性にかけた)同じ言葉を男性にも言いますか」と問いかけることもあると話す。
 もう一つ重要なのは「男性から言ってもらうこと」だという。女性側が言うと、「またしかられた」とちゃかされることも多いといい、「男性にびしっと言ってもらうと効果がある」と提案。吉田さんも今の世の中に疑問を持っている男性がいたら「積極的に寄り添って味方になってもらい、(こちら側が)過半数になることが大事」と話す。 

 ▽誰かの選択肢に


大学入学共通テストの会場に向かう受験生ら=1月18日、東京大

 吉田さんが今の社会の雰囲気で憂うのは、平等で戦争もない平和な社会を願っても、「きれいごと」「理想的過ぎる」などと言われてしまうこと。「恐ろしい世の中になっている」と吐露する。だからこそ何度も同じことを言っていると思われても、「差別はいけない」と口にしていくしかないと訴える。
 作品をきれいにまとめたい葛藤もあるが「めげそうになったり逃げたくなったりした時は、自分が誰かの選択肢になっていることを励みとしている」と脚本家としての覚悟を明かす。ドラマを通じて、次世代のために選択肢の幅を広げていきたいと感じている。「こうした口うるさい脚本家がいてもいいんじゃないかな」

 林さんは学生たちに向けて「20代は外見とか今後について迷うこともある」として、だからこそ今後の人生への「イマジネーションをたくさん持ってほしい」と望んでいる。

 東京大では現在、難民や貧困家庭などの女性が奨学金をもらって通うバングラデシュのアジア女子大学と学生の交流を重ねている。世界のいろんな人たちの生き方や生活へ想像力を持つことは「今の状況への感謝と将来への不安を減らすことにつながり、それこそが学びになる」と力を込めた。

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