大学入学共通テスト初実施の「情報Ⅰ」は簡単だった? プロの目から見た試験内容とは
47NEWS / 2025年2月2日 9時30分
2025年1月の大学入学共通テストで「情報Ⅰ」の試験が初めて実施された。他の教科・科目と違って、対策のための過去問がない中で挑んだ受験生たち。試験後、SNS上では受験生とみられる複数のアカウントが「簡単すぎ」といった感想を投稿し、中には「楽しかった」との言葉も。そんな情報の試験は「プロの目」にはどう見えたか。問題の中身や出題意図を専門家に尋ねてみた。(共同通信=川嶋大介、河村紀子)
▽小中学校でもプログラミング教育
大学入学共通テストに臨む受験生=1月18日、東京都文京区の東大
とはいえ、読者の多くは記者と同じように共通テストの前身の「大学入試センター試験」を受けた世代で、情報は入試になかったし、授業を受けたことがないという人もいるだろう。まずは情報の歴史や、入試科目になった経緯をひもときたい。
子どもたちが学校で学ぶ内容は「学習指導要領」に定められている。およそ10年に1度改定されており、現行の学習指導要領は小学校が2020年度、中学校が2021年度、高校は2022年度から実施されている。
その改定作業の際、人工知能(AI)の進化といった社会的背景から掲げられたのが「IT教育の強化」だった。
小学校の学習指導要領は「プログラミングを体験しながら、コンピューターに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける学習活動」と明記。いわゆる「プログラミング的思考」を育もうと、算数の図形の作図などで取り入れられるようになった。
中学校では「技術・家庭」の技術分野で、プログラミングに関する内容が充実した。
▽高校で必修化、そして入試科目に
では、高校ではどうなったか。そもそも、普通科で教科としての情報が新設されたのは2003年度。当時は「情報A」「情報B」「情報C」の3科目から1科目を選択することになっていた。2013年度からは「社会と情報」「情報の科学」の2科目になり、1科目を選択するように。いずれも「選択必修」というもので、この世代は情報の授業を何らかの形で受けている。
そして現行学習指導要領で「情報Ⅰ」が新設されて必修科目となり、情報モラルやデータ活用、プログラミングといった内容を高校生全員が学ぶことになった。その「1期生」に当たるのが、今回の共通テストを受けた高3だ。
センター試験や共通テストの教科・科目は学習指導要領に対応しており、高校の現行学習指導要領で必修科目などが大きく変わったため、最初の世代の受験に合わせて共通テストの科目構成を変える必要があった。
そうしたタイミングで、政府が2018年6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」は、AIやデータサイエンスなど、これからの社会で求められる力を育成するために情報の学習を重視し、共通テストに「情報Ⅰ」を追加するよう求めた。
大学教育でもデータサイエンスやAIへの対応を重視する傾向が強まり、今回の共通テストから情報が加わることになった。
▽スーパーのレシートやおつりの計算が題材に
大学入学共通テストの会場に向かう受験生ら=1月18日午前、東京都文京区の東大
今回初実施された「情報Ⅰ」の試験時間は60分。四つの大問で構成され、データ活用や情報デザイン、プログラミングなど幅広い分野から出題された。スーパーのレシートから情報システムを考える問題や、10人から1人6千円を集める時に用意するおつりのシミュレーションといった問題が出た。
(情報Ⅰの問題冊子と解答は47NEWSの「大学入学共通テスト」特設サイトで確認できます)
大手予備校河合塾によると、国立大の97%が情報を受けることを必須とした。ただ、導入初年度ということもあり、合否判定の際に配点比率を他の教科より低くする国立大が多い。
▽暗記だけでは太刀打ちできない
河合塾の加賀健司講師(河合塾提供)
国立大志望の受験生にしてみれば、今年から受験勉強の負担が増えたと言えるが、初めて出題された問題はどうだったのか。
河合塾の加賀健司講師は次のように評する。「『座学で終わらせず、学習した内容を活用してほしい』という出題者のメッセージがよく伝わってきた」。レシートやおつりの計算といった題材に表れているように、知識を直接問う問題はわずか。重視されたのは思考力や判断力で、教科書の暗記だけでは太刀打ちが難しかったとみる。
大学入試センターは2022年に情報の試作問題を公表しており、「問題文をきちんと読み、判断していくという点は試作問題と同様だった」と話す。
▽「自分であればどう使うか」意識して
加賀さんは今後もこの方針は踏襲されるだろうと指摘し、「外の世界にアンテナを張り、学んだ内容が社会でどう生かされているか、自分であればどう使うかを意識してほしい」と受験生にメッセージを送る。
一方で、実施初年度の難しさとして、実社会ではあまり見られない条件付けをした問題もあるなど「ノウハウが蓄積されていない分、作問者の苦悩が感じられる内容だった」とした。
▽「作り手側」にも焦点
山梨大の稲垣俊介准教授(稲垣氏提供)
山梨大の稲垣俊介准教授(情報科教育学)は、生活に関わる題材が多かったことに触れ「情報の学習内容は生活に密接し、身近な所でたくさん使われている。情報はとても面白いものであり、そうした点を強調した出題意図が感じられる」と話す。
稲垣さんも「今回問われたのは単なる知識ではなく、思考力や問題解決能力だった」と分析。その上で、情報デザインの考え方や販売時点情報管理(POS)システムといった「作り手側」に焦点を当てた出題があったことに「作る側に回ってほしい」というメッセージを感じたという。
▽先生は「実習中心の授業」を
情報Ⅰは入試科目の一つとなったが、必修にもかかわらず学校現場で情報科の免許を持つ教員が不足しているなど、学ぶ環境が十分でないとの課題も指摘されている。
2023年度まで東京都立高で情報を教えていた稲垣さんは、スマートフォンの使用状況を分析する授業など、子どもたちが「自分事」として取り組める工夫をしていた。「教員が一方的に説明するだけでなく、生徒たちが身近なデータを活用し、実習中心の授業を行うことが重要。それが結果的に共通テスト対策にもつながる」と強調した。
▽初年度は簡単?次年度以降は…
情報Ⅰは、情報技術を活用し、情報社会へ主体的に参画する能力の育成を目指している。2人の話を聞くと、今回の試験内容はそれを体現した内容だったようだ。
SNS上では「簡単だった」という声も目立ったが、入試では導入初年度の問題は難問が少なく、比較的解きやすいとも言われる。次年度以降がどうなるのかは分からないが、加賀さんや稲垣さんのアドバイスは参考になるだろう。
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