1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「ニュースステーション」は報道番組を変えた 初代プロデューサーだったテレビ朝日会長・早河洋さんが語る「万年4位」からの大逆転劇【放送100年⑥】

47NEWS / 2025年2月6日 9時0分

テレビ朝日会長の早河洋さん=東京・テレビ朝日

 1985年に始まった「ニュースステーション」は、分かりやすい表現で高視聴率をたたき出し、テレビ報道番組を変えた。初代プロデューサーで、後にテレビ朝日社長としてインターネットテレビ「ABEMA」設立も決断、現在は会長を務める早河洋さん(81)にインタビューした。(共同通信編集委員・原真)

▽報道の時代

 「弁護士志望でしたが、大学の先輩たちは一日中、勉強している。ためらっていたときに、華やかな感じの放送研究会というのを見かけて、すーっと吸い寄せられたんです」
 山梨県出身の早河さんは中央大2年の時、ドラマの脚本コンクールで審査員に褒められ、放送を志す。日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)の「木島則夫モーニングショー」でアルバイトに励み、1967年、同社に採用された。


 記者として報道に携わり、1980年にスタートした「ビッグニュースショー いま世界は」でディレクター、続く「TVスクープ」ではプロデューサーを担った。「TVスクープ」のキャスターだった朝日新聞記者の筑紫哲也さんと、報道特別番組を手がけたこともある。「型にはまったNHK的でない表現にこだわっていた」と早河さんは振り返る。
 「いま世界は」と同時期に、日本テレビは「TV-EYE」、TBSは「報道特集」を開始し、夜の報道番組が一気に増えて「報道の時代」と称される。背景には、フィルムカメラではなく小型のVTRカメラを使い、現場から映像を簡単に伝送できる取材システム「エレクトロニック・ニューズ・ギャザリング(ENG)」の普及があった。
そして85年春、早河さんは新番組「ニュースステーション」のプロデューサーに指名される。


「ニュースステーション」の制作発表に臨んだ久米宏さん(右端)ら=1985年7月、東京・テレビ朝日

▽エンジンになる番組

 「ニュースステーション」を企画したのは、番組制作会社のオフィス・トゥー・ワン(OTO)だ。所属タレントで、元TBSアナウンサーの久米宏さんは「ぴったしカン・カン」「ザ・ベストテン」などの娯楽番組で人気絶頂だったが、年齢を重ねて報道番組を志向するように。OTOは広告会社の電通に相談し、最初は久米さんの古巣のTBSに話を持ち込む。だが、「報道のTBS」を自負する同社が断ったため、テレ朝に提案した。
 夜10時から約80分の大型ニュースを月曜から金曜までベルト編成する。しかも、キャスターは報道の経験のない久米さん。前代未聞の提案に、テレ朝社内でも賛否は分かれた。特に、平日10時台はドラマなどで13%程度の視聴率を維持していたため、その担当者は反発する。


著書「久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった」を出版し、インタビューに応じる久米宏さん=2017年9月、東京都内

 とはいえ、1959年に教育専門局として発足したテレ朝は、1973年に他の民放キー局と同じ総合番組局に転換が認められて以降も、他局に遅れを取っていた。後発のテレビ東京を除き、視聴率競争では「万年4位」。そんな状況を打破するため、テレ朝は最終的に提案を受け入れた。電通がCM枠を買い切り、テレ朝に収入を保証してくれたことも大きかった。
 早河さん自身は、週1回の「TVスクープ」をベルト編成してはどうかと上司に進言したこともあり、「ニュースステーション」の提案に「違和感はなかった」と言う。
 「社内でいろいろ意見はありましたが、テレビ朝日のエンジンになるような番組編成ということで、当時の社長が判断したんでしょう。でも、僕は、成功率は20%ぐらいだと思っていた」

▽中学生でも分かる

 テレ朝とOTOなどから約100人のスタッフが集結する。目指したのは「中学生でも分かるニュース」だ。早河さんは言う。「NHKのニュースは官報型なので、逆の庶民型を考えました。視聴者と同じ目線で作っていく。政局を説明するために、政治家の人形を用意したり、火山のマグマがどこにあるかを模型で示したり。何か新しいことを付加しないと、番組は成功しない」
 日航機墜落事故の特集で遺族520人分の靴をスタジオに並べ、プロ野球ではリーグ優勝を逃したチームの選手の表情を順繰りに映し出した。「テレビ的に、映像の訴える力を生かそうとした」と早河さんは強調する。
 1985年10月のスタート当初は視聴率が伸び悩み、報道一筋のテレ朝の記者と娯楽番組が得意なOTOのディレクターらが対立する場面も多かった。早河さんは「社運をかけた計画が失敗したんじゃないか。僕は翌年3月でやめようと思っていました」と苦笑する。しかし、1986年1月にスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故が発生、提携する米ニュース専門局CNNからの衝撃的な映像を流し、話題を呼ぶ。同年2月のフィリピン政変では放送を延長して、マルコス政権崩壊をリアルタイムで伝えた。同じ年の11月には、伊豆大島・三原山の噴火もあった。
 「この三つで、ニュース番組は結局、ニュースをやらなきゃ駄目なんだと気付いた。一つの題材を丁寧に描く。それも、時間をかけずに放送して、生っぽさを入れる。みんなやったことのない番組で、行き先が分からなかったけど、スタッフの価値観が統一されて、楽になりました」
 その後も、天安門事件、ベルリンの壁崩壊、湾岸戦争など、世界的ニュースが続く。「歴史的な転換点だったんですよ。大ニュースに向き合うことで、番組が強く、たくましくなっていった」


「報道ステーション」では2021年10月から、大越健介さん(中央)がメインのキャスターを務める(テレビ朝日提供)

▽表現の幅を広げる

 2004年3月まで、4795回を数えた「ニュースステーション」の平均視聴率は14・4%。20%を超えた日も珍しくない。報道番組としては驚異的な数字だ。
 早河さんによれば、視聴者に支持された要因はいくつもある。「まず、夜10時という時間。帰宅して『今日は何があったか』とテレビを見るビジネスマンのニーズに、ぴたりとはまった」。
 久米さんと、テレ朝アナウンサーだった小宮悦子さん、コメンテーターで朝日新聞編集委員の小林一喜さんらの組み合わせは、働き盛りの視聴者と同年代で、共感を集めた。「久米さんは何とも言えない表現力を持っている。ちょっと過激なところもあるが、小林さんがうまく収めた」
 生ニュースに加えて、作家の立松和平さんが各地を旅したり、全国の夜桜を生中継したりする特集も、従来の報道番組にないユニークな試みだった。
 大成功した番組は、各局のニュースに大きな影響を与えていく。「多様性というか、報道番組の表現の幅を広げたのでは」と早河さんは分析する。
 歯に衣を着せない久米さんのコメントなどは、時に自民党の反発を招いた。プロデューサーの早河さんが永田町に足を運び、放送の趣旨を説明したこともある。「だいたいそれで解決していく。政治家のみなさんには出演を交渉して、実現していましたし。ただし、番組全体のトーンは気になっていたかもしれませんね」
 2004年、元テレ朝アナウンサーの古舘伊知郎さんを迎えた「報道ステーション」に引き継がれ、現在はNHK記者出身の大越健介さんがキャスターを務める。早河さんは「メインは正統派をお願いする時代かなと思いました。大越さんは政治部で長く政治を見てきて、ワシントン特派員の経験もあり、ジャーナリストとしての見識をお持ち。『ニュースステーション』の良いところを伝承してもらいたい」と期待を寄せる。
 「報道ステーション」の堅調もあり、テレ朝の年間世帯視聴率は2023年、全日(午前6時~翌日午前0時)、ゴールデン(午後7~10時)、プライム(午後7~11時)の全時間帯で首位となり、開局以来初の「三冠」を達成した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。24年は年間世帯視聴率、年間個人視聴率の両方で三冠となった。

▽ネットでテレビ


「AbemaTV」の本格開始の記念イベントで、あいさつするサイバーエージェント社長の藤田晋さん=2016年4月、東京都内

 2009年にテレ朝の社長に就いた早河さんは16年、インターネットで広告やゲームを展開するサイバーエージェントと共同で「AbemaTV(現ABEMA)」を立ち上げる。サイバーの社長・藤田晋さんから「ネットを使った新しいテレビをやる時代じゃないですか」と持ち掛けられ、同意した。
今は約25の専門チャンネルで、ニュースやアニメ、スポーツ、ドラマ、バラエティー、将棋、麻雀などの番組を配信している。「FAST」と呼ばれ、欧米で急成長している無料広告型の動画ストリーミングを先取りした形のサービスだ。
 早河さんは「『放送と通信の融合』が言われ、スマートフォンも登場して、時代が進んだ。ネットで送り出すものがあってもいいと、ずっと思っていた」と話す。


テレビ朝日初の生え抜き社長になった頃の早河洋さん=2009年7月

 ニュースはテレ朝が制作し、一部の娯楽番組はテレ朝の制作者が出向して作っている。サッカー・ワールドカップ・カタール大会のネット中継などで注目を集め、毎週の利用者は2500万人程度に達した。広告収入のほか、オンデマンド視聴が可能なプレミアム会員の会費、競輪やオートレースの中継を見ながら車券を購入できる「ウィンチケット」で稼ぐ。ABEMAの運営会社の株式はサイバーが過半数を保有し、サイバーのメディア事業の累積赤字は1100億円を超えたが、2024年度の第2、3四半期は黒字に転換した。
 地上波、BS、CSの放送、番組有料配信の「TELASA」、民放共同の無料配信の「TVer」とともに、ABEMAはビジネスの大きな柱となりつつある。他の民放局が若者に照準を合わせる中、テレ朝は少子高齢化を強く意識し、「地上波はオールターゲットで全体を捕まえ、ネットは若年層を狙う」と早河さんは明言する。
 「ABEMAでネットの世界が広がっていくのは間違いない。楽しみです。サイバーとの協業をさらにタイトにやっていきましょうという話になると思います」

▽経営厳しい系列局

 「ネットフリックス」や「アマゾン・プライム・ビデオ」にドラマを提供するなど、コンテンツを世界に広げる米動画配信事業者とも連携している。株を持ち合う映画会社の東映とは、共同制作などのパートナーシップ強化に合意した。
 ただ、系列の地方テレビ局の経営は厳しい。早河さんは「3、4年前から経費削減を言い続けて、東北などはかなりスリムになったが、地元にスポンサーが少ない」と指摘する。「地方局は自治体と連携してやっていくことがあるのでは。首長が住民のためにやりたがっていることを手助けして、一定の収入をえることができるんじゃないか」
 テレ朝は総務省に、複数の系列局が同じローカル番組を放送できるようにしてほしいと要望し、2023年、制度改正が実現した。ただ、すぐに新制度を利用することにはならないとみる。「営業などの課題もあるので、もうちょっと趨勢を見てから判断したい」と話している。
 ×  ×  ×
 日本で放送が始まって2025年3月22日で100年。ラジオ・テレビを形づくった人々に聞くシリーズ【放送100年】は随時掲載します。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください