「なでしこ」初の外国人監督が語る目標「相手が対戦したくなくなる存在に」 デンマーク出身のニールセン氏、その強化プランとキャリア
47NEWS / 2025年2月9日 9時0分
サッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」が新体制で始動した。2011年大会以来のワールドカップ(W杯)制覇に向けて指揮を執るのはデンマーク出身のニルス・ニールセン監督。女子代表で初の外国人監督となる53歳の指導者がインタビューに応じ、チーム強化の構想や自身のキャリアについて語った。(聞き手 共同通信=大島優迪、取材日は1月20日)
▽視察で驚き
就任記者会見を終え、日本代表のユニホームを持つ「なでしこジャパン」のニールセン監督=2024年12月18日、東京都内
昨年12月に東京都内で就任の記者会見を行ったニールセン監督は、1月上旬に再び来日。WEリーグの各クラブに足を運び、監督や強化担当者、選手と会話し、クラブでの日常の理解に努めている。
「日本のクラブと良好な関係を早期に築こうとしている。彼らは私たちが得るかもしれない成功のために重要だからだ。(代表で目指している)ゲームプランについてはあまり伝えていない。代表をこれまでと全く異なる方法でプレーさせようとしているわけでない。私は日本のスタイルが再び効率的になるよう、調整するために来た。日本のスタイルは常に見る価値があり、素晴らしい」
「代表とクラブが同じ方向に進めば、選手たちをより良くできるチャンスがある。どうすればポジティブで、いいコミュニケーションを取れるか、話し合ってきた。お互いに多くの情報を提供できれば、選手たちをより手助けできる」
今回の滞在では皇后杯全日本女子選手権の準決勝と決勝のほか、クラブチームが争う全日本U―18(18歳以下)女子選手権の決勝や、全日本高校女子選手権の決勝も視察した。
「(いずれも)技術が高く、ボールをとても速く動かしていた。日本は3大会続けてU―20のW杯で決勝に進出している。いい土台があるということで、それには驚かなかった。ただ、全日本U―18選手権と同時に高校の大会もあるとは知らなかった。同じ世代で二つの大会が同時に行われていても、依然として高い質を保っていたのは驚いた。才能ある選手がたくさんいることを示している」
▽医者に止められても
インタビューで笑顔を見せるサッカー女子「なでしこジャパン」のニールセン新監督=2025年1月20日、千葉市内
ニールセン監督は1971年11月3日、ともに教師だった両親の下、デンマーク領グリーンランドで生まれた。雪と氷で閉ざされ、20世帯ほどしかない小さな村で育った。冬には日が昇らない「極夜」もあり、灰色の空が続くことも気に入らなかった。両親の離婚を機に5歳で母とデンマークに移り住んだ時は楽しみな気持ちの方が強かった。
デンマークで住んだ家は隣に地元サッカークラブのピッチがあり、そこで競技を始めた。重度ではないものの先天的な脊柱側彎症があり、脊柱の一部も欠いていたという。接触のあるスポーツは危険だとして、やめるよう医者に言われていたが「サッカーを愛していた」と熱中した。
「時には何かがとても好きで、リスクを冒してでも、それをしなければならないことがある。学校が終わったら直接ピッチに向かって、日暮れまで練習した。ご飯を食べることを忘れることもあった。背は低かったけど、技術はあった。日本の選手みたいにね」
「いつもクラブにいて、一人でもFKを蹴って練習していた。何度も蹴っては拾いに行っていた私を見かねて、確か13歳の時にクラブが10個のボールと、それを入れるネットを贈ってくれた。人生の中で最も幸せな日々だった」
「小さい時からチームで主将を務め、コーチにいつも質問していた。『どうしてこの練習をしているの?』『どうしてこういうふうにやってはいけないの?』と。コーチには嫌がられていただろう(笑)。とにかくサッカーが好きで、自分の練習がない時は年下の子どもを教えていた」
▽指導者に転身
デンマークの育成世代でも最高レベルのリーグでプレーしていたが、19歳の時に試合中に椎骨を折る大けがを負った。その後、復帰しようとするたびにけがをし、耐えきれない痛みに見舞われた。医者の忠告に反してプレーしていたことに後悔はなかったが、したいことをできない自分に対して怒りやいらだちが募ったという。
しかし、サッカーに関わることをあきらめなかった。指導者への転身を考えた時にデンマーク協会が手を差し伸べた。経験や年齢の条件を満たしていなかったものの、能力を期待されて高度な指導者ライセンスコースの受講を認められ「とても幸運だった」と振り返る。並行して大学に通ってスポーツ科学を専攻し、生理学や心理学を学んで学位を取得。デンマークのプロクラブの育成年代の指導者として、本格的にコーチ人生を歩み始めた。
プレーできなくなったことも徐々に受け入れられるようになり、今では「全ての出来事は理由があって起こる。自分が負傷したのは選手ではなく、コーチになるべきだったということ。プレーしている選手の目に情熱や喜びが見られることが私の幸せだ」と言う。
▽不公平、許せず
2017年女子欧州選手権決勝でデンマークの選手に指示を出すニールセン氏(中央)=2017年8月6日、エンスヘーデ(ゲッティ=共同)
デンマーク男子のトップクラブや代表のユース年代の指導で約20年の経験を積み「世界で一番の仕事。毎朝起きるのが楽しかった」と充実した日々を送っていたが、2013年に同国の女子代表監督に就任した。協会からの打診を引き受けた決め手は、当時の女子サッカーの状況を変えたいとの思いだった。男女の指導や練習環境に大きな格差があったという。
「当時、デンマークではサッカーは女子がするべきものでないと思われていた。女子は学校でサッカーが得意だと言うこともできなかった。女子は男子と同じだけ練習していたのに、彼女たちは困難な状況に追い込まれていた。例えば学校で男子にいい先生や机やパソコンを割り当て、女子にはノートと鉛筆だけで床に座らせるようなことがサッカー界で起こっていた」
「どうしてそれを許せるのか。とても不公平に感じた。自分にはそれを変える力があると分かっていた」。気後れせずもの申す姿勢で協会と対話し、男女の格差を少しずつ改善するよう取り組んだ。高くなかった下馬評を覆して準優勝した2017年の欧州選手権は、そうした取り組みが結実した成果の一つだった。
▽なでしこの強化
2011年の女子ワールドカップ・ドイツ大会で優勝して喜ぶ日本の選手たち=2011年7月
2018年からは女子スイス代表を率いてW杯出場に導いた。2023年から務めたマンチェスター・シティー(イングランド)の女子のテクニカルダイレクター時代には清水梨紗、藤野あおばら日本代表選手の獲得にも関わった。高い技術や機動力など、日本選手の長所は熟知している。
「なでしこ」は2011年のW杯制覇の後は国際大会のタイトルから遠ざかる。2023年のW杯や昨夏のパリ五輪で8強止まりだった。個人能力も組織力も高い欧米勢が覇権を握る中、どのように対抗していくのか。
「自分たちが他の国よりも優れていることを信じないといけない。得意とすることを生かして勝てると信じる必要がある。自分たちが思うようにプレーできれば勝つチャンスは上がるし、それはボールを持っていても持っていなくても主導権を握るということ。そのためにはとても攻撃的な思考が必要だ」
「私は日本のスタイルが好きだ。近年、ユース年代ではスペインと日本、北朝鮮が覇権を握るが、それは多くのいい選手がいるということ。(2023年の女子W杯で優勝した)スペインは日本より少し効率的だが、それを取り戻せれば日本が勝てない理由はない。日本には才能ある選手がスペインと同じくらいいる」
就任記者会見するサッカー女子日本代表「なでしこジャパン」のニルス・ニールセン新監督=2024年12月18日、東京都内
2月に米国で開催される国際親善大会「シービリーブスカップ」が初陣となる。大きな目標とする2027年のW杯優勝や、2028年ロサンゼルス五輪での金メダル獲得へ、一歩ずつ前進するつもりだ。
「シービリーブスカップでは初戦のオーストラリア戦の前に1日、全体練習の日があるくらいなので、多くのことを変える時間はない。選手の勝利への姿勢や献身性を見たい。勝つために必要なことをする意欲があることを確認したい。チームとしてどのようにプレーするか伝える。それは最初の練習からできる」
「その次の合宿からゲームモデル(基本的な戦い方)の習得に取り組むつもりだ。私たちには実力があり、うまくやれる。うまくやってきた選手もスタッフもいる。素晴らしい選手がいれば常に勝つチャンスがあるし、今もチャンスがある。特に試合での心構えについていくつか変える必要があるが、それができれば私たちは誰にとっても危険な存在になるだろう。相手が『ああ、日本が対戦相手か』と言い、日本と対戦したくなくなる。それが最初の目標だ」
× ×
就任記者会見を終え、日本サッカー協会の宮本会長(左)、佐々木女子委員長(右)と写真に収まるニールセン監督=2024年12月18日
ニルス・ニールセン氏 デンマーク出身。男子の育成年代の指導者としてコペンハーゲン、ブレンビーなどの同国のクラブや年代別代表で実績を積んだ。2013年からデンマーク女子代表を率い、2017年欧州選手権で準優勝。2018年からスイス女子代表監督を、2023年からはマンチェスター・シティー(イングランド)の女子のテクニカルダイレクターを務めた。趣味はギターを弾くことや料理、読書。好きな音楽のジャンルはロック。報道陣に「主要な大会でトロフィーを取れば何か音楽を披露します」と約束している。デンマークの自宅には桜の木を植えている。
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