津波で壊滅、再建進む町の姿を情報紙で発信 宮城県名取市の「閖上だより」

47NEWS / 2020年8月27日 10時30分

創刊した「閖上だより」を手にする格井直光さん=7月3日、宮城県名取市

 東日本大震災の津波で町ごと流され、壊滅的な被害を受けた宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区。2011年3月の震災以降約8年半に渡り、復興の歩みを伝えた地域情報紙「閖上復興だより」は今年3月、復興に一定のめどが付いたとして終刊となった。新たな町の姿を伝えるため「復興」の2文字を取って「閖上だより」として再スタートを切った。(共同通信=井口真之介)

 ▽波にのまれた町

 宮城県南部の仙台平野に位置する宮城県名取市閖上地区は、震災で最大約9メートルの津波に襲われ、仙台湾に面した市街地は波にのまれた。震災後に大規模なかさ上げ工事を実施した閖上地区には災害公営住宅が完成し、郵便局や大型スーパーが相次いで開業。一般住宅や、飲食店が並ぶ観光施設もできた。再び編集に携わる格井直光(かくい・なおみつ)さん(62)は「多くの支援で普通の暮らしが戻りつつある」と話す。


2011年3月18日の宮城県名取市閖上地区(共同通信社ヘリから)

 閖上だよりはカラー4ページで、地域の活動や四季の行事などを伝える。3カ月に1回、年4回の発行を目指す。住民に無料で配布し、協賛金を出し紙面の発行を支える会員にも郵送で届ける。

 6月の創刊号で格井さんは「より多くの新しい閖上を発信する」と決意表明した。災害公営住宅で1人で暮らす高齢者らに、新型コロナ対策の特別定額給付金の申請方法を指導して回った住民の助け合いなどを取り上げた。

 ▽被災者が記者に

 閖上地区では約750人が犠牲になり、格井さんも津波で自宅を流され、両親を失った。遺体安置所には次々に亡くなった人が運び込まれ、身内を探す人であふれた。身内や知人の安否を知りたくても、混乱の中、情報は限られ、役所を訪ねても「個人情報だから」と取り合ってもらえない。情報の重要性を痛感した。

 「閖上の町はどうなってしまうのか」。震災後、町づくりの計画が行政主導で決まる中、住民には情報が届かず、不安が募った。05年の福岡県西方沖地震で被災した玄界島(福岡市西区)の再建の様子を伝え続けた「玄界島復興だより」を参考に、11年10月、有志と共に「閖上復興だより」を創刊した。


「閖上復興だより」の紙面を見つめる格井直光さん=1月

 被災者自身が記者となり、復興に向けて奮闘する住民の声や市の動きを伝えた。「友人の消息が分かった」などと反響が大きく、仮設住宅などに移った被災者から読みたいとの声が相次いだ。「閖上のためにありがとう」と電話越しに涙を流す読者もいた。店や家を流された人たちも発行の支援を申し出てくれた。

 ▽新しい町の住民をつなぐ

 閖上は江戸時代から漁港として栄え、震災前には約7100人が暮らしたが7月末時点で、半数以下の2989人。復興方針の合意形成に時間がかかり復興事業が長期化した。市が誘致を目指す医療施設の進出も決まっておらず、内陸に移ったかつての住民は多い。

 それでも9年の時を経て、再建は進みつつある。住宅や学校などの生活インフラだけでなく、震災で犠牲になった住民を悼む慰霊碑もできた。名取市は3月末、復興達成を宣言。被災経験を伝える伝承館も完成した。東北地方の玄関口・仙台市中心部まで車で約25分というアクセスの良さに注目が集まり、若年層を中心に新たに住む人も増えつつある。


真新しい住宅が並ぶ宮城県名取市閖上地区=2月(小型無人機から)

 「復興だより」は離れ離れになったかつての住民の心をつないだ。閖上だよりは、新しくなった町の住民をつなぐ存在を目指す。格井さんは「初めて閖上に住む人にも地区の歴史を伝えて、地域に愛着を持ってほしい」と話す。

 ▽戻ってきた「普通」

 サブタイトルの「前進 元気を運べ」の丸みを帯びた字体は、神戸市東灘区の書家野原神川(のはら・しんせん)さん(65)のアイデア。野原さんは阪神大震災で被災し、両親を失った経験を持つ。東日本大震災後は東北の被災地を訪れ、直筆の手紙を贈るなど支援を続けてきた。「住民が円満で、ゆっくりでも前進できるように」と思いを込めた。


サブタイトルの丸みを帯びた字体が特徴的な「閖上だより」の題字

 4月にできた閖上西町内会の今野義正(こんの・よしまさ)会長(77)は「昔の閖上は誰も鍵なんてかけない町で、隣人がとれた魚を分けてくれたりした」と懐かしむ。被災後は地域に初めて住む人も増え、町内会活動は手探りの日々だ。新たな仲間に震災の経験を伝え「1人では生きていけない。困った時に助け合える町にしよう」と呼び掛ける。「コミュニティーの再生には時間がかかるが、分かり合おうとする努力が大切」と話し、住民が交流できるソフトボール大会などを企画してきた。

 格井さんは新たな町並みを見つめ「マイナスからのスタートだったが、少しずつ『普通』が戻ってきている。支援してくれた人や住民が『良い町になった』と心から思えるようになってほしい」と話す。今後も閖上だよりとともに、町の再建にかかわっていく考えだ。

 協賛金の問い合わせは格井さんまで。電話090(3583)1359

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング