マスクしないと飛行機は乗れないの? 降ろされた男性、ピーチ機上で経験した一部始終を語る

47NEWS / 2020年9月16日 7時30分

国内線全便再開したピーチ・アビエーションの機体に手を振る従業員=7月、関西空港

 新型コロナウイルスの流行拡大で、今や生活のあらゆる場面で必須となっているマスク。その着用を発端としたトラブルが原因で、北海道の釧路空港から関西空港に向かうピーチ・アビエーション機が新潟空港に臨時着陸する異例の事態が起きた。機上で一体何が起きていたのか。客室乗務員への威圧的行為があったとして降ろされた、首都圏在住の30代男性が実名や職業などを明かさないことを条件にリモートでのインタビューに応じ、一部始終を語った。(共同通信=助川尭史)

 ―なぜマスクを着用しないのでしょうか。

 身体的な理由で長時間マスクをするのが難しく、普段からしていません。具体的な病名を明らかにしないのは「その症状なら着けられるだろう」という暗黙の強制につながってしまうからです。他人の病状にどうこう言うべきでなく、マスクをしないという自己決定は尊重されるべきです。仮に健康上の問題が無かったとしても、自分のポリシーとして「しない」考え方も私はありだと思います。

 ―日常生活で支障はないのですか。

 コロナ後はさまざまな場所で着用しない理由を聞かれることがあり、その度に精神的な負担になっています。もし着用が義務化されていれば、できない理由をメモなどで伝えています。現状ほとんどの場所が着用は任意で、電車やスーパーでもマスクを着けないことで大きなトラブルになったことはありません。

 マスクの感染予防効果については否定しません。ただ、未着用者が周囲に合わせて強制されることはあってはならないと思います。ちなみにマスクはいつもかばんの中に入れて持ち歩いています。忘れたからごねた、という風に見られたくないので。

 ―これまでに飛行機に乗る機会はありましたか。

 コロナ後は今回が初めてです。北海道に旅行に行くために、行きは成田発新千歳着のジェットスター便に乗りました。同社では「マスク着用が必須」との案内がホームページ上にあり、空港でも「着用が困難な方はカウンターにお申し出ください」とアナウンスがあったので事前に申告しました。機内でもマスクをしないことでトラブルはありませんでした。(注:ジェットスターでも乗客のマスク着用は要請で、義務ではありません。)


マスク着用を拒否した男性。匿名を条件に取材に応じた。

 ―ピーチを利用した際にはなぜ事前に申告しなかったのですか。

 旅行を終え、家族のいる大阪府に帰るために釧路発関空着の便を利用しました。ピーチがホームページで着用をお願いしていることは把握しています。ただジェットスターのように「必須」とは書いておらず、空港での搭乗手続きの際も、地上係員から指摘はありませんでした。「なぜ自主的に申告しなかったのか」という指摘もありますが、健康状態を他人に伝えることはあまり気持ちの良いことではありません。事前のお願いがない以上、わざわざやる必要もないと思いました。

 ―搭乗した機内で何があったのでしょうか。

 当日は霧の影響で搭乗が20分ほど遅れていました。着席後に女性の客室乗務員が来て、マスクの着用を要請されたので「承りましたが、マスクはしません」と回答しました。他の乗客の耳目がある中で着用できない健康上の理由を明らかにする必要もないですし、負い目を感じないといけないとも思いません。あくまでお願いに対してNOを示しただけです。

 ―その後も客室乗務員とのやりとりは続いたのですか。

 私が拒否した後も他の客室乗務員が何人も入れ替わりやってきてマスクの着用をお願いされました。着けない理由は聞かれず、筆談で説明しようと「書面でやりとりしたい」と提案しましたが、受け入れてもらえませんでした。すると、私と同じ列に座っていた乗客の男性から「気持ち悪い。こんなんと一緒に乗られへん。あっち行け」と言う暴言がありました。マスクをしてないだけで気持ち悪いと言われるのは心外です。「侮辱だ。謝罪をしてください」と強く抗議をしました。そばにいた客室乗務員にも「機内の秩序を乱しているので謝罪させてほしい」とお願いしましたが、対応はなく「このままでは飛び立てません」と、マスクを着けるか席の移動を指示されましたが応じませんでした。

 ―座席の移動はなぜ応じなかったのでしょうか。

 気にする人が移動すれば良いと思ったからです。その時点で既にシートベルトを締めて荷物を置いた状態でした。座っていたのは3人席の端で同じ列の乗客との間は開いており、感染防止の観点からも動く必要は無いと思いました。乗客から「あっちへ行け」と言われて、移動したくないと意固地になってしまった部分もあったかもしれません。

 ―離陸が迫っている飛行機の中です。客室乗務員の指示に従うべきではなかったでしょうか。

 客室乗務員はお願いではなく「マスクを着けないと航空の安全を保つことはできない」と強制してきました。抗議せず認めてしまうと私以外の人にも同じ対応をしてしまうので、その場で抗議する必要があると思いました。乗客の暴言も同じ。マスクをしない人への差別や偏見は許せませんでした。結局、同じ列の乗客が移動して、客室乗務員が暴言を注意して謝罪してもらうことになりました。乗客が着席後、機体は予定時刻より43分遅れで離陸しました。


乗客のマスク着用をお願いするピーチのホームページ

 ―離陸後も客室乗務員とのやりとりは続いたのですか。

 客室乗務員が脇を通ったので、先ほどの乗客が謝罪したのか、マスクの着用についてピーチの運航約款ではどのように定められているのかを質問しました。明確な回答がなかったので5分ほど座席で抗議を続けると、機内後方の客室乗務員の詰め所に案内され、そこでも同様の質問を続けました。

 ―質問の際、大声を上げていたという乗客の目撃証言があります。

 私は耳が少し聞こえづらく、そのため、声が大きいことを自覚しています。運航中はエンジン音がうるさく、相手の声はマスクで聞き取りづらかったので、何度も聞き返すうちに自然と大きくなってしまいました。声が大きいという注意に対しては、その場で謝罪しています。

 ―運航中は客室乗務員も他の業務もあります。関空に到着後に質問すれば良かったのではないでしょうか。

 機内で確認しないと暴言を吐いた乗客もマスク着用を強制した客室乗務員もいなくなってしまいます。間違った対応について謝罪を求める必要がありました。

 客室乗務員が複数いる詰め所で質問を続けていると、座席で答えると言われ従いました。しかしその後も回答はなく、再び呼び止めて座席で質問を続けました。すると客室乗務員の総責任者と話してほしいと提案があり、機内前方に向かいました。

 総責任者の客室乗務員の女性からは回答がないばかりか「途中で降りていただく」という発言がありました。その後も声が大きいといわれたので、書面でのやりとりを提案して、いったん席に戻って質問状を書き始めました。

 ―その後なぜ臨時着陸に至ったのですか。

 総責任者が私の席に来て命令書を読み上げはじめました。具体的な安全阻害行為については空欄だったので「なんの行為が該当するのか」とペンで該当箇所を指摘して、有効なのかも問いただしました。一方、総責任者は大きな声で遮るように読み上げるだけで、回答しないまま帰っていきました。その後も席で質問状を書いていると降下が始まり、新潟空港に到着しました。


男性が受け取った命令書

 ―着陸後の機内では何があったのですか。

 機内にピーチの職員3人と見守りの警察官が入ってきました。私は飛行機から降りるつもりはありませんでしたが、事情の説明が長くなってしまうと思い、誤解を解くために自主的に機外に出ることにしました。周囲からは「出て行け」と言われ、職員と話をしている私につかみかかろうとする乗客もいました。席を立ったときには拍手が起きました。機内の私をつまみ出せという雰囲気に応えたピーチに喝采を送る状況に、排他的な日本社会の縮図を見た気になり非常に悲しい気持ちになりました。そんな機内の空気に対して「バイバイ」とつぶやきました。泣きそうなくらい悔しかったです。

 ―新潟に到着後はどんなやりとりがありましたか。

 ピーチのカウンターで、チケットの払い戻しの案内がありましたが、事情を分かって運送契約を最後まで果たしてほしかったのでサインはしませんでした。私の質問には「お答えしかねます」という回答で、本社に連絡してもらうこともできませんでした。結局、私は暗い新潟空港に取り残され、宿泊費や関空までの交通費を自腹で出しました。関空のカウンターでも機内と同様の質問に加え、機長の退去命令書があるのか、運送契約の解除は有効なのかを聞きましたが、現在までに回答はありません。

 ―警察から事情聴取はありましたか。

 警察による拘束や事情聴取は一切ありません。新潟県警の警察官からは、何も法律に触れることはないと説明を受けています。長時間機内にとどまったわけでもないので不退去罪に当たらないし、客室乗務員に質問するだけでは威力業務妨害にも当たらない、と言われました。

 ―今後ピーチにどのような対応を求めますか。

 間違った判断を謝罪して、マスクの着用は義務でないことや差別発言は許さないことをホームページに明記してほしいです。私も感情的になってしまいましたが、臨時着陸になるほど大きな問題になったのは、マスク未着用者を過度に排除する風潮にピーチが忖度したからです。


マスクを着けて旅客機に乗り込む乗客ら

 ―今回の臨時着陸の原因はあなたが機内で客室乗務員の指示に従わずに質問を続け、職務を妨害したことだと思います。マスク未着用者への偏見は別問題で、論点のすり替えではないでしょうか。

 質問の口調が強くなってしまったことは反省していますが、内容は簡単な確認です。運航に支障を来すとは思いません。それなのにクレーマーのように捉えられ、声が大きい、威圧的と難癖を付けて追いやったのは、マスクをしない私を排除する同調圧力によるものだと思います。

 ―他の124人の乗客は騒動の影響で2時間以上も到着が遅れています。公共交通機関を利用する以上、他人に迷惑を掛けずに解決する選択肢はなかったのですか。

 これほど事態が大ごとになるとは思っていませんでした。関空に着いてからと考えることなく、その場で対応を要求したのがこじれてしまった結果だと思います。ただ私の行動の何が安全阻害行為に当たるかはピーチからも示されていません。緊急着陸が生じてしまったことは遺憾で、自分は被害者の側と思っています。今後、仮に裁判になって司法の場で私の行為が運航の安全を阻害したと認められ、遅延の原因と認められれば謝罪します。遅延に巻き込まれた他の乗客はお気の毒だと思いますが、間違ったことはしていません。

 ―騒動後、ツイッターアカウント(@mask_passenger)を開設されて発信を続けているのはなぜですか

 私に何も説明がないピーチがメディアを通して威圧的で乱暴な人物が起こした事態と印象操作されているので、情報発信のために開設しました。ネット掲示板でも私が機長に話をさせるようにコックピットに迫り、客室乗務員に暴力行為をはたらいたなどデマが流れているので、全くの間違いと主張しています。

 ―今後も飛行機は乗りますか。

 私は旅行が好きなので、飛行機に乗ることはやめません。ピーチだけでなく同業他社にも、どんな事情があっても空の旅を楽しめる環境をつくってもらいたいです。

 ピーチは取材に「マスクの着用が難しい方には、機内での会話を控えるようお願いしたり、席の移動をお願いしたりするなど、柔軟に対応している。今後も安全阻害行為については厳正に対処する」と回答した。機内でのやりとりの詳細や男性の主張には「コメントできない」としている。

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