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「#MeToo」に立ち上がる中国の若者たち セクハラ訴訟開廷日に裁判所前へ集結、報道には限界も

47NEWS / 2021年2月26日 7時0分

中国語と英語で「#MeToo」と書いた紙を掲げる人=2020年12月2日、北京市海淀区の裁判所前(共同)

 2017年の米国での報道を機に中国を含め世界に広まった「♯MeToo」(「私も」の 意)。中 国では一時期下火になっていたが、昨年末、再び注目を集めた。「沈黙は望まない」「#China MeToo」―。関連訴訟の開廷日、北京の裁判所前には支援者がプラカードを手に押し寄せた。威嚇する警察官に屈さず、被害者支持とセクハラへの抗議を示すために極寒の中で十時間近く立ち続けた若者たちも。外国人記者にまで気を使ってくれる「連帯感」はまるで一昨年の香港デモのよう。大陸でこんな光景を目にするとは思いもしなかった。ただ関連情報は統制され、社会の変革を求める声を上げ続けるのは容易ではなさそうだ。(共同通信=鮎川佳苗)


北京の裁判所前に集まった支援者ら=2020年12月2日

 ▽「記者に手を出すな!」

 「がんばれ弦子(シエンズ)!」「そばに居るよ」「あなたはすごい!」。昨年12月2日、北京の裁判所前に百人以上の若者が集まった。原告のシナリオライター弦子=通称名=さん(27)は次々にこう声を掛けられて涙ぐんだ。この日、国営中央テレビのアナウンサー朱軍氏にわいせつな行為をされたとして、慰謝料などを求めた訴訟の審理が非公開であった。深夜の閉廷まで熱心な支援者は外で待ち続け、出てきた弦子さんに拍手。花束を抱えた大学生の男性は「顔を出し実名で声を上げるのは簡単なことじゃない」と語った。


開廷前に支援者に囲まれる弦子さん(中央)=2020年12月2日、北京市海淀区の裁判所前(共同)

 香港メディア記者は、「当局はこれほど多くの人が支援に来ると予想していなかった」とみる。続々と集まる若者に恐れをなしたのか数十人規模の警察官、私服当局者が投入され、付近の道路は急きょ封鎖された。それでも支援者は立ち続け、温かい飲み物や使い切りカイロを買いに走って見知らぬ者同士でシェア。当局者に外国メディアだとばれたくない記者をかばうように立ってくれた人もいた。夜には匿名の支援者から現場に、食事の差し入れが届けられた。


北京の裁判所前。現場には規制線が張られ、私服の当局者ら(奥)が若者たちに目を光らせた=2020年12月2日

 警察官は「プラカードを掲げるのは違法だ。しまえ」と威嚇。だが支援者側もひるまず「何でダメなの?」「法的根拠は?」と〝反撃〟した。欧米メディアの記者が引きずられるように排除されると、若者らは「なぜ連れて行くんだ!」「手を出すなよ!」と大声で抗議。外国人記者は「外部勢力の手先」と冷たい応対をされることも少なくないため、なんだか少し感動した。

 ▽かつて相次いだ告発

 弦子さんによると中央テレビでインターンをしていた2014年6月、朱氏に控室で無理やりキスなどをされた。大学の教員に勇気づけられ、警察で被害を申告。警察は廊下で唇をぬぐう弦子さんを捉えた防犯カメラ映像を確認し「証拠になる」としたが、その後朱氏が名声のある人物であることを踏まえ、訴えないよう要求してきた。両親も圧力を受け、捜査は結局うやむやになった。

 弦子さんは18年夏、インターネットでこの体験を告白し、大きな反響を呼んだ。この頃、海外での#MeTooの高まりを受け、中国でも過去の性被害を打ち明ける動きが相次いでいた。朱氏側は「事実でない文章で名誉を毀損された」と提訴。弦子さんもセクハラで精神的苦痛を受けたと応訴した。


裁判所前で「セクハラ禁止」と書いた紙を掲げる支援者=2020年12月2日、北京市海淀区(共同)

 米大学の研究員、何謙さん(32)も18年夏、雑誌の編集部門でインターンをしていた09年に著名記者(当時)に性行為を迫られたと告発。他の女性もこの男性のセクハラを告発しており、「自らの長年の沈黙に恥ずかしさと憤りを感じ、彼女たちに声援を送りたかった」と告白の理由を説明している。男性側は同年秋に名誉毀損訴訟を提起した。

 その後、#MeToo運動は低調に。ある改革派知識人は「主流メディアの報道も少なくなり、当局に告発の動きも全て抑え込まれてしまった」と指摘する。

 何さんが告発したケースの審理は昨年11月にようやく開かれ、同12月末に何さん側敗訴の判決が出たが、何さんは控訴した。男性は判決文を受け取った今年1月、「2年前に私は攻撃に遭った。悪質で愚かなことを私はしたことがない」と告発内容を否定する文章を公表した。

 ▽「Black Box」への共鳴

 中国で#MeToo運動を支持する若者たちは、日本で被害を告白した伊藤詩織さんに高い関心を寄せている。上海の出版社の方雨辰さんが奔走して19年春、著書「Black Box」の中国語訳「黒箱」が出た。同年に伊藤さんを招いた各地でのイベントも大盛況。中国メディアも当時は大きく報道した。弦子さんや何さんも伊藤さんと交流を重ねる。当初匿名で告発した何さんは昨年11月の審理直前、実名公表を決心。伊藤さんに伝え、励まされた。


2019年7月、北京でのイベントに参加した(左から)伊藤詩織さん、弦子さん、何謙さん(弦子さん提供・共同)

 中国語版出版に携わり、日本への造詣も深い作家劉檸さんは「中国での伊藤さんへの反響は日本でよりも大きかった」とみている。流ちょうな英語で講演した伊藤さんの姿は中国で強い印象を与えたようだ。方さんは「(被害の)悲惨な面だけでなく、教養があり生き生きした彼女の姿」が好意的に受け止められたと分析している。

 伊藤さんの民事勝訴に「とても鼓舞された」という弦子さんは「日本の#MeToo支持者が一緒にいてくれれば、私はさらに勇気を持てる」と語る。審理開始日には、弦子さんと伊藤さんのコラージュ画像が微信(ウィーチャット)で広まった。裁判所前に集まった若者も伊藤さんへの支持や称賛を口々に述べた。

 ▽圧力、情報統制、それでも…

 12月2日の裁判時、現場に多くの支持者が集まった様子を写した動画はネット上で拡散し、即座に削除された。中国メディアの記者も取材に来ていたが、当局の規制により正規の報道はできず、「個人」として微信などで発信するのが精いっぱいだったもようだ。身元確認を強行しようとする警察官ともめ、逃げ出した若者を警察官が追いかけたり、支援者の男性を当局者が力ずくで連行したりした場面もあった。


北京の裁判所前で支援者らを威嚇する当局者=2020年12月2日

 自らの性被害に悩み、弦子さんに会いに来た20代の女性会社員もいた。一度は訴訟手続きを取ろうとしたが「裁判所が公正でない」と感じ、悩んでいる。弦子さんや何さんの事案はいずれも公開審理を希望したが裁判所が認めなかった。弦子さんは12月2日に改めて、公開審理や市民陪審員の参加などを要求。ネット企業勤務の女性(28)は裁判所前で「公開しないなんておかしい。世論への影響が大きいからだ」と司法を批判した。

 拡散した動画を見て裁判所前に駆け付けた大学生の女性は、自身を同性愛者でフェミニストだと記者に語った。友人には性的指向を打ち明けているが親には話していないという。以前、別の#MeToo運動を支持する投稿をした後、大学当局から警告を受けた。それでもまた危険を冒して連帯を表明しに来た理由をこう説明した。「弱い立場の人が声を上げた時に立ち上がらなければ、もっと悪いことが起きるから」


昨年12月2日、北京の裁判所前。口紅で顔やマスクに互いに♯MeTooに関するメッセージを書く支援者の若者ら。

▽ご意見募集します

 共同通信社外信部では、外国における「#MeToo」運動について、ご経験 やご意見を募集しております。以下のアドレスにお寄せください。kyodogaishinbu@kyodonews.jp

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