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国民投票法改正案、修正に応じた自民党の事情 二階幹事長が狙ったのは「安倍封じ」ではなかったか

47NEWS / 2021年5月12日 8時0分

自民党の二階俊博幹事長

 国民投票法改正案が今国会で成立する見通しになったが、自民党が野党の立憲民主党の修正提案に応じたことには、やはり驚かされた。法案をめぐって国民の大きな批判にさらされたわけでも、不祥事が絡んだわけでもない。原案通りに成立させることも十分に可能だった法案だからだ。それなのに自民党はなぜ、野党に「折れる」形で法案修正に応じたのか。

 筆者は自民党が国民投票法改正案の採決を急いだ理由が「近づく次期衆院選を前に立憲民主党と共産党の分断を狙った」との仮説に立っている。だが、理由はそれだけではないだろう。ここでは自民党内の政治状況について書いてみたい。(ジャーナリスト=尾中香尚里)

 菅義偉首相は前任の安倍晋三前首相に比べ、憲法改正への熱意はさほど強くない。大げさな国家観を振りかざすより「目の前の個別の課題を一つ一つ速攻で解決する」といった、実務的な手腕を売りにしたいように思える(コロナ禍への対応が現実に全くそうなっていないことは、この際脇に置く)。菅首相にとって、実現に手間もひまもかかり「永遠の道半ば」に陥りかねない憲法改正は、個人的にあまり興味を持てないテーマなのだろう。


改憲派の集会「公開憲法フォーラム」にビデオメッセージを寄せた菅首相=3日午後、東京都千代田区

 そんな菅首相だが、憲法記念日の3日には自民党総裁として改憲派の集会にビデオメッセージを寄せ、憲法9条に自衛隊を明記することなど自民党の「改憲4項目」の実現に向けた意欲を示した。そして同時期に自民党は、これまでほぼ放置されていた国民投票法改正案の採決に向けて動きだした。

 あくまで仮説だが、国民投票法改正案の修正合意は、菅首相の「後ろ盾」の二階俊博自民党幹事長による「安倍封じ」なのではないか、と思えてならない。

 昨年9月に病気を理由に退陣したはずの安倍前首相は、最近「薬が効いた」などとして、徐々に政治の表舞台への復帰をうかがっている。4月には自民党の憲法改正推進本部の最高顧問に就任。新型コロナウイルス感染拡大への対応の失敗から菅内閣の支持率が低迷するのを横目に、再び存在感を高めようとしているように見える。コロナ対応の失敗は自らの政権に端を発していることを、すでに忘れているかのように。

 自民党の強固な支持基盤である保守層は、改憲を声高に叫ぶ安倍氏には喝采を送る一方、菅首相の改憲への熱意にやや懐疑的な視線を向けている。コロナ対応のまずさで党内に「菅離れ」の機運が生まれかねない状況で、秋の自民党総裁選を前に安倍氏がまたも党内での存在感を高めることを、菅首相や二階氏が快く思うはずがない。

 「改憲は総裁を先頭に自民党全体で取り組む課題であり、安倍氏個人のものではない」。菅首相の憲法記念日のビデオメッセージには、単なる「保守層へのアピール」にとどまらない、そんな主張が隠されているようにも見えた。


2017年5月3日、憲法9条に自衛隊の存在を明記する改憲案を訴える安倍首相のビデオメッセージ=東京都千代田区

 では、菅首相や二階氏は今回、安倍氏のお株を奪うために、改憲に積極的な姿勢に転じたのか。そうは思えない。むしろ逆のようだ。それが、国民投票法改正案の採決に関する党の対応に表れたと考える。

 小欄の別の記事(https://www.47news.jp/47reporters/6232087.html)でも指摘したが、今回自民党と立憲民主党が合意した修正案は、改憲の動きに強めのブレーキをかける内容だ。立憲民主党は広告規制などについて「施行後3年をめどに法制上の措置を講じる」ことを付則に盛り込めば採決に応じることを提案し、自民党がこれを全面的に受け入れた。最終的な与野党合意の当事者は、二階氏その人だった。

 冒頭でも述べたように、与党にとって「野党案丸のみ」の法案修正は、法案への国民の批判の高まりや与党側の不祥事など、やむを得ない事情が発生した場合でもなければ、なかなか見られるものではない。それを「憲法改正」という自民党の党是にかかわるようなところで、二階氏はあっさり「丸のみ」を実現させてしまった。立憲民主党の狙いが、改憲案の発議の前に国民投票法の再改正を必要とさせることで、改憲のスピードを遅らせることにあったことを、おそらく百も承知の上で。

 一つには「目の前の個別の課題を一つ一つ速攻で解決する」ことを好む菅政権の体質があったのかもしれない。ともかくも菅政権は、安倍政権があれだけ長い時間をかけても進めることができなかった国民投票法改正案の成立に道筋をつけた。改憲に向け実行力があるのはどちらなのか―。それを見せつけることで、安倍氏に傾きがちな保守層を自らの側に引き寄せる狙いがあったとしても不思議はない。

 それ以上に本質的ではないかと思うのが、菅首相や二階氏自身が「積極的に改憲論議を封じる」狙いがあったのではないか、ということだ。


国民投票法改正案を賛成多数で可決した衆院憲法審査会=5月6日午後

 国民投票法改正案が今国会で成立したとしても、夏の東京都議選や東京五輪・パラリンピックなどの日程を考慮すれば、今年は通常国会の会期延長は見込めない。4月25日の衆参3補選・再選挙で野党が全勝したことで、参院では改憲勢力が3分の2を割っている。秋までに行われる衆院選の前に改憲案を発議することは、もはや不可能だ。

 衆院選後、仮に自公両党が政権を維持したとしても、衆院で改憲勢力3分の2を確保できるかどうかは疑わしい。前回2017年の衆院選は、小池百合子東京都知事による「希望の党」騒動により、野党勢力が分裂し大敗したが、次期衆院選では野党の候補者一本化が進んでおり、前回選挙に比べ野党側が議席を伸ばす蓋然(がいぜん)性が高いからだ。仮に改憲勢力が3分の2を確保したとしても、立憲民主党などは今回の修正案成立を受け、国民投票法の再改正が行われない限り、改憲の発議をさせないだろう。

 今回の国民投票法改正案の修正は「衆院選後に国民投票法の再改正(一からのやり直し)を必要とする」という点で、改憲議論を大きく遅らせることにつながりかねない。報道では「与野党がそれぞれ都合良く解釈できる玉虫色の決着」というありがちな言葉が躍っているが、考えるべきは解釈ではなく「その法改正が実際に改憲議論にどう影響を与えるか」である。今回の修正案が改憲議論にアクセルとブレーキのどちらを踏むかといえば、どう考えてもブレーキになる可能性の方が高い。

 二階氏はそれを承知の上で立憲の提案をのみ、法案修正に応じた、と筆者はみている。「野党に押されて渋々修正した」のではない。むしろ、野党の提案をうまく利用して改憲議論のスピードを遅らせる、もっと言えば「改憲議論を事実上棚上げする」ことが、二階氏の狙いだったと思う。

 憲法改正を「永遠の道半ば」として棚上げし、「やってる感」を出し続けている方が、実は自民党にとっては得策なのだろう。棚上げがマイナスになる可能性があるのは、改憲を自らの政治家人生のレガシーにしたい安倍氏ぐらいなのではないか。

 結局、今回の国民投票法改正案のてんまつは、与野党ともにそれぞれがそれなりの利を得た一方で、面白くない結果となったのは、与党では安倍氏、野党では第三極的な改憲推進派の一部議員だった―というまとめで良いのではないか。ちまたで言われる「憲法改正への第一歩」などではない。むしろ「憲法改正は当面の政治課題から消えた」と考える。

 実際に消してほしい。今はコロナ禍である。国民の生命がかかっている。憲法の言葉いじりなどよりやるべきことが、政治の世界には山積しているのだ。

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