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「頭髪の自由」高いハードル 地毛証明にスプレー黒塗り

47NEWS / 2021年8月30日 7時0分

福岡市立中の卒業アルバムの西田藍さん。髪を黒く塗られていた(本人提供)

 「前髪は眉上まで」「地毛証明の提出」―。学校の校則が定める頭髪のルールには、細かく厳しいものが多い。人権上問題があるとして、見直しを求める声が高まっている。現場の教師の中には「就職活動や入試もあり、どこまで認めるべきか」と悩むケースも。ルールは本当に必要なのか。学校に求められる指導とは何なのか。アンケートと各地の実例を基に探った。(共同通信=小川美沙ほか)

 ▽「事実誤認を防ぐため」

 共同通信は今年4月、全国の都道府県と主要都市区の計99教育委員会に校則の実態に関するアンケートを実施。全教育委員会から回答を得た。

 生来の髪色などを申告させる「地毛証明」について尋ねたところ、約3割の34教委が調査しており、少なくとも計277校が提出を求めていた。

 昨年6月時点で県立高43校の地毛に関する校則を確認した神奈川県教委。「事実誤認による指導を未然に防ぐ工夫として、入学時に保護者の了解を得て報告いただいている」と説明した。一方、佐賀県教委のように、校則見直しの視点に「児童生徒の人権保障」「社会通念上合理的と認められる範囲となっていること」などを挙げ、地毛証明の校則がなくなったケースも。県教委によると、昨年4月時点で管轄する3校に地毛証明の校則があったが、1年後に全て廃止を確認した。

 ▽生来の髪なのに、なぜ「特例」?

 「なぜ生来の髪を『特例』として認めてもらう必要があるのか」。書評家の西田藍さん(29)は黒髪を前提とした指導に疑問の声を上げる。西田さんは父が米国人で、母は日本人。通っていた福岡市立中学には母が「娘は幼い時から髪色が明るい」と文書で伝え、色を指導されたことはなかった。しかし、卒業時、大きな衝撃を受けた。


中学生の頃の西田藍さん(本人提供)

 卒業アルバムは生まれつき茶色の髪が黒く塗られていた。写真を前に悲しみがこみ上げた。自分を否定されたようだった。母も「頭の中が真っ白になった」と言う。学校に撮り直しや謝罪を求めたが聞き入れられず、「思い出すたびに悔しさが込み上げる」と打ち明ける。

 進学した福岡県立高でも「地毛証明を出せば指導はしない」と言われた。応じたものの、違和感は拭えなかった。ほかにも下着の色指定や、眉毛の手入れ禁止など細かいルールに縛られ「学校に信頼されていないと感じていた」。威圧的な雰囲気も苦痛で、不登校になり、退学した。

 今年4月、誰にも見せたくなかったアルバムの写真をツイッターに投稿した。きっかけは母に「あの時、守ってあげられなくてごめんね」と謝られたこと。現在も各地で地毛証明などの指導があると知り、問題を可視化しようと考えた。反響は「予想以上」。同じような目に遭ったとの声も寄せられ「自分だけじゃないんだ」と根深さを感じた。


書評家の西田藍さん(本人提供)

 福岡市教委の中学校教育課は5月、取材に「10年以上前のことで各校の対応は分かりかねる。今は髪を黒塗りする例はないと思う」と回答。昨年5月の調査では地毛証明を提出させている中学はなかったとしている。

 ▽社会の要請

 千葉県内の県立高では2019年、生徒の毛先が赤くなっているとして、教諭が黒染めスプレーを吹きかけた指導が問題となった。生徒側は「同意していない」と訴え、県教委は「同意に基づいた指導」と主張。生徒の母親が県弁護士会に人権救済を申し立て、県弁護士会は「体罰に準ずる行為だった」として、県教委や学校に警告書を出した。


千葉県弁護士会が県教委などに提出した警告書

 東京都内の男性教諭も、勤務する都立高で今年3月の卒業式の直前、髪を染めてきた生徒に対し、ほかの教師が黒染めスプレーを吹きかけているのを見かけた。校則は「生来の髪色で、加工はしない」と定めている。生徒は帰宅するか、黒染めしてから式に出席するかを迫られ、しぶしぶ黒染めを選んでいた。

 ここまで厳しい指導は必要なのか。男性教諭は「こうした指導に疑問を感じている教員も多いと思うが、ルールを守らせることが目的化している」と打ち明ける。子どもが髪を染めたので指導してほしいと保護者から求められることもある。生徒が就職活動や入試で不利にならないようにしてほしい、学生にふさわしい髪形をさせてほしいという「保護者や地域社会からの要請がある」と感じる。

 しかし、外国にルーツがある生徒も増える中で、地毛証明の提出など「黒髪」を前提とした指導がいまだに残っていることには違和感もある。「そもそも学校がすべき指導なのか。学校に求められる生徒指導は根源的に変わるべきだと思う」と訴えた。

 ▽制裁ではなく寄り添い

 文科省の19年度の調査では「学校の決まりなどを巡る問題」が理由で不登校になった児童生徒は5千人を超えている。元中学教諭で福岡教育総合研究所事務局次長の牛田康之さんは「まずは教師こそルールから解放されるべきだ」と話す。海外ルーツ、LGBTQ(性的少数者)や障害のある子など、生徒はさまざまなバックグラウンドを持ち、多様化している。頭髪に関するルールは「なくさざるを得ないのではないか」と考えている。

 「もし生徒が髪を染めてきたら、ルール違反だと罰して周りから孤立させることではなく、『何かあった?』と声を掛け、寄り添うことが重要では」と牛田さん。生徒が抱える事情を周りの子どもたちが思いやることができる雰囲気づくりも、教師には求められていると考えている。そして、子どもの個々の課題と向き合うためにも「忙しい教師の働き方改革も同時に進めるべきだ」と付け加えた。(取材、執筆=松本智恵、宮崎功葉、小川美沙)

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