エサ代高騰や市場の価格低迷 さらに大雨の影響も…苦境の秋田由利牛生産現場のいま
ABS秋田放送 / 2024年9月11日 17時50分
引き締まった肉質とキメ細やかなサシが特徴の秋田由利牛。秋田を代表するブランド牛の一つとして、そのおいしさを全国へと発信しています。しかし、エサ代の高騰や市場価格の低迷で畜産農家は危機的な状況に陥っています。ことし7月の大雨被害で岐路に立つ農家もいます。現状を取材しました。
由利本荘市のあきた総合家畜市場です。
ここで主に取引されているのが生後10か月ほどの、黒毛和牛の子ウシです。
上場される子ウシは年間およそ4,000頭。
セリ落とされたあと、由利本荘市とにかほ市を管轄するJA秋田しんせいに所属する肥育農家で育てられることや出荷前の半年間、飼料用のコメを1日1キロ以上与えることなど、一定の条件を満たしたウシだけが秋田由利牛に認定されます。
地元の肥育農家
「50万前後(の値段の子ウシ)を買っている。今持っているウシは80万もしたけど今(採算が)合わないでしょ」
血統だけでなく、体格や健康状態の確認などが重要な子ウシ選び。
優秀な1頭を狙うのは県内の肥育農家だけではありません。
仕入れ業者
「私は岩手から。(仕入れた子ウシはどんなブランド牛になる?)前沢牛です。」
仕入れ業者「滋賀県です。近江牛で販売しています。」
育てられた地域や飼育方法などが認定の条件となるブランド牛。
あきた総合家畜市場に上場された子ウシの半数近くを県外の肥育農家が落札しています。
場長あいさつ
「あらゆる食品、資材等の物価高の影響で家庭消費は落ち込んでいる状況にあります。購買者の要望に応えられる和牛改良を今後も継続してまいりますので、購買くださるようよろしくお願い申し上げます。」
エサ代の高騰と枝肉価格の低迷。子ウシを育て販売する肥育農家はなるべく安く子ウシを仕入れようとします。
ゆりファーム齋藤喜良専務
「やっぱり予算があるのでそれを度外視してしまうとまたまた(採算が)合わないということになるので、いろいろ工夫して少しでも経費に見合ったような育ち方をするように頑張ってますけどなかなか厳しい。」
由利本荘市の高原にある農場です。
齋藤喜良さんは4人の従業員と、約250頭の黒毛和牛を育てています。
ウシを大きく育てるために必要なのが、主に穀物のエサです。
購入費用は1か月で150万円ほど。この3年で2倍近くに膨れ上がったといいます。
ゆりファーム齋藤喜良専務
「努力が笑顔に変わること、報われることが無い現実がここ1~2年特にそういう兆候があります」
自分たちで牧草を育てたり、規格外の大豆などをエサに利用したりして経費の圧縮に努めていますが、農場の経営は採算が取れない状態だといいます。
高騰したエサ代は節約志向の強まりから販売価格に転嫁できていないのが実状です。
Aコープやしま店・土田長洋店長
「こちらが当店の秋田由利牛を販売しているコーナーになります。」
正月やお盆など家族が集まる時季に売れ行きが伸びるという秋田由利牛。
こちらのスーパーではここ数年、価格に変化はないといいます。
土田長洋店長
「あまり値段の上がり下がりがあるとお客さんもやっぱ今日幾らだろ今日幾らだろって見なきゃいけないので、それよりだったらもうあそこにはコレある。Aコープさ行けばコレあるって分かってもらってて、気軽にカゴに入れてもらえるような状況を作っていきたいなとは思ってます。」
あきた総合家畜市場に上場される子ウシのうち秋田由利牛となるのは全体のわずか5パーセントほどです。
肥育農家の苦境もあり取引価格は下落しています。
昨年度の子ウシの平均取引価格はおよそ52万円で4年前と比べて30万円近く値が下がっています。
当然、子ウシを競りに出す繁殖農家にそのしわ寄せが及びます。
由利本荘市の大場惣晃さんはきのう2頭の子ウシをセリに出しました。
大場惣晃さん
「やっぱり相場と買ってもらえる人のアレなんで少しでも高ければいいと思いますけどあまり自分では強くはおせない感じですね。」
由利本荘市東由利で繁殖農家を営んでいる大場さん。
普段は父親と2人でウシの世話をしていますが、この日、牛舎に父親の姿はありませんでした
大場惣晃さん
「いや~疲れから何からあったんじゃないですかな。けっこうあれだったすからな。片づけるものからいっぱいあったすからな。」
ことし7月の記録的大雨で自宅が床上浸水した大場さん一家。農機具や車も水に浸かり使えなくなりました。さらに。
大場惣晃さん「ここの半分くらいまでは3段に積んであったんですよ」
「全部で120~130は行ったんでないかと思います」
「ビニール剥げてしまうと中に水入っちゃってすぐダメになるすね。」
エサ代が高騰するなか、大事な牧草まで流れた大場さん。
14頭の母ウシを飼育していましたが、エサの確保が難しいため、先月3頭を手放しました。
今後も繁殖農家を続けるべきか自問自答する日が続いています。
大場惣晃さん
「小さい時からウシいだったすからな、やっぱりウシはいるもんだと思って出すども、やっぱり色んな事あれば考えねばねアレもあるすな。」
繁殖農家と肥育農家。それぞれの思いが交錯する市場。
肥育農家の齋藤さんは予算内で12頭の子ウシを競り落とすことができました。しかし、今後については危機感を募らせています。
ゆりファーム齋藤喜良専務
「もう危機的を超えてるんでないか。誰が最初に根を上げるか何とかみんなこれを越えればいい時が来るかなって思ってるから頑張ってるんで、生産費も賄えない状況はここ2年ぐらい続いているんでもう本当に大変です。」
大雨の被害を受けた繁殖農家の大場惣晃さん。
子ウシをセリに出すのは2か月ぶりです。
過去には100万円以上の値を付けたこともある大場さんが育てた子ウシ。
少しでも高い値段で前を向きたいところですが。
大場惣晃さん
「ま、これが結果です。」「多少頭数は減らしますけどもまた来年になると新しい草も出てきて今年くらいの草は採れると思うので、そしたらまた今年は何とか乗り切っていければと思います。」
ブランド牛を育んできた本荘由利地域ですが、繁殖農家の数は減り続けています。地域の産業や食文化を絶やさないために行政による支援のほか消費者の理解も必要なのかもしれません。
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