「子持ち様」に使われ放題の子なし専業主婦が「子どもがいるからって偉そうに…」とキレた結果
オールアバウト / 2024年4月22日 22時5分
不妊治療中で子どもがいないことをいいことに、知り合った近所の女性たちから使われ放題。保育園の迎えからバザーの主催を押し付けられることまで。ファミリータイプのマンションでは、子どもがいないと居心地が悪い。
物事はどこから見るかによって解釈が変わってくる。人が「公平」でいるのはむずかしいことなのかもしれない。
子どものいない専業主婦は「何でもしてくれる」存在?
結婚して5年、不妊治療をしながら中古マンションを購入して越してきたトモミさん(40歳)。結婚したときは、すぐにでも子どもができると思っていたし、当時、かなりのブラック企業に勤めていたため、夫の勧めもあって退職した。「結婚して3年経ったところで不妊治療を始めました。不妊の原因は両方にあったのですが、それでもなんとか治療をしようということになって。私がけっこう落ち込んでいたので、夫は『環境を変えるのもいいかも』とこのマンションを購入してくれたんです」
料理が大好きなトモミさんは、治療の合間を縫って料理教室に通ってさらに腕を磨いた。お菓子作りにもはまった。
「同じマンションに同世代の世帯がけっこうあって。でもみんな子持ちなんですよね。私はお菓子を作って、子どもたちにあげたりもしてました。何人かのおかあさんたちからレシピ教えてとか、家で作り方教えてと言われて楽しい時期もあったんです」
ところが子どもを持つ彼女たちから、さまざまな要望が舞い込むようになった。仕事を始めたけど残業になったから、保育園に子どもを迎えに行ってくれないかと言われたときには驚いたという。
子持ち様から「私は暇人だと思われている」
「でもきっと私に頼もうと思っていたんでしょうね。保育園には私の名前をすでに告げてあるから、身分証明書を持って行ってほしいとまで言われて。その日は私も予定があったんですが、『えー、お願い。お礼はするから。あなたしかいないのよ、時間がある人』と言われました。そうか、私は暇人だと思われているんだと初めて知りました」
そのときは迎えに行って、彼女が帰宅するまで家で預かった。それを近所のママ友たちが知ったのだろう、いろいろな人から頼まれるようになってしまった。
マンション内には夫婦ふたりで暮らす家庭もあった。
「その家の奥さんから、『何でも言うこと聞かないほうがいいわよ。あの人たち、子どもがいない人間には何を頼んでもいいと思ってるんだから』と言われました。ちょっと悪意がありましたね。きっと以前、頼まれごとを引き受けて嫌な思いをしたんでしょう」
ただ、確かに「いいじゃない、子どもがいないんだから」と言われることがその後、増えていくこととなった。
ひたすら働かされて「本当に悔しい」
トモミさんのマンションで、バザーが開かれたことがあった。主催はマンションの住人たちなのだが、なぜかトモミさんが代表者に推された。越してきて日が浅いし、前のバザーも知らないからと言ったのだが、「大丈夫。あなたがいちばん時間があるんだから」で押し切られた。
「準備が大変でした。以前やった人に聞かなければならないことが山のようにあるのに、その彼女は仕事が忙しいからとろくに相談にものってくれない。他の人も『うちは子どもがいるから大変なのよ。適当でいいから』って。
結局、年配の人たちに手伝ってもらってなんとか形にすることができたけど、子どもがいるからと何もかも押しつけられて、あのときは本当に悔しかった」
子どもがほしいのにできない自分が、どうして子どものいる人たちのために不妊治療の予定を変更してまで尽くさなければいけないのかと思うと、涙が出てきたという。
「バザーが終わって後片付けをしているとき、半年後にまたやるからよろしくねと何人もの人に言われて、なんだか気持ちが高ぶった。
『子どもがいるからって偉そうにしないでよ。私だって何年も不妊治療してるのに……』と大きな声で叫んでしまったんです。治療のことは誰にも言っていなかったので、周りはドン引きしてましたね」
その後、彼女はほとんど何も頼まれることはないが、一方で周囲とはギクシャクした関係が続いている。
「そんなに子どもに執着しなくてもいいのにねと住人同士が話しているところに遭遇してしまったこともあります。会釈だけして通り過ぎたけど、私のことを言ってるのは明らか。
別に子どものいない人間に配慮してくれとは言わないけど、ファミリータイプの住居なので、やっぱり子どもがいないとただでさえ肩身が狭いのは痛感しています」
「子持ち様はね……」と言われないように
子どもたちが共有部分を汚すことが多いのに、管理費は子どもがいない世帯も同じなのは納得がいかないとトモミさんは言う。「昨年、マンションで避難訓練があったんですが、最優先は子どもなんですよね。もちろん、それはいいと思うけど、高齢夫婦の世帯が無視されているようで、こういうやりかたで本当にいいんですかと思わず言ってしまいました。
子どもがいる世帯が多いからって多勢に無勢みたいなことではいけないはず。命の重みは一緒でしょう、と」
そのときも自分は浮いてしまったと彼女は言う。そんなとき、彼女はようやく妊娠することができた。今はやっと安定期に入ったところだ。
「これから自分も子持ち様になる。そう思うと、すでに視点は子どもにシフトしているんですよ。実際、子どもが生まれたら、子どものいない人、子どもに手のかからない人に手伝ってもらえないかなと虫のいいことを考えている。
それでもなんとか、私は皮肉で『子持ち様はね……』と言われないよう、中立公平を目指そうと思っています」
少しふくらんだお腹を愛おしそうに撫でながら、トモミさんは笑みを浮かべていた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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