「女に学歴はいらない」「女子は地元で」の呪縛…二重の壁を乗り越え、東大進学した地方女子の挑戦
オールアバウト / 2024年5月16日 18時35分
女の子は偏差値の高い大学を目指すより、地元で進学するのが幸せ――。女子の4年制大学進学率が50%を超えた現在でも、特に地方では、そんな意識がいまだに根強く残っている。親と子、それぞれの葛藤を乗り越え、地方から東大に進学した女子学生の話を聞いた。
地方女子が首都圏の難関大学へ進学することを阻む2つの壁
地方から東京へ、転入する若い女性が増えている。やりがいのある仕事や、より高い賃金を求め、就職を機に上京する人が多いようだ(※1)。一方、教育についてはどうだろう。地方に住む女子学生が首都圏の大学へ進学することには、いまだに「地域」「ジェンダー」という二重の壁が存在するのではないか。
教育分野のジェンダーギャップ解消に取り組む東京大学の学生団体「#YourChoiceProject」の調査によると、地方在住の女子学生は、偏差値の高い大学へ進学することを「有利だ」と感じにくい傾向があるという。首都圏の男女、地方男子との回答に顕著な差が見られ、性別による理由で難関大学へ行くことにメリットを感じていないことが考えられる。
地方に住む女子学生やその親たちは進学に際して何を思い、どんな選択をしているのだろうか。
偏差値よりも「家から通えるかどうか」で大学を選ぶ地方女子
関西出身の美咲さん(仮名)が最初に「東大進学」を意識したのは、中高一貫校に通っていた中学3年生のとき。難関大学への受験指導で知られる学習塾の「東大模試」を受けたことがきっかけだった。「思っていたよりも高い判定結果が出て、『もしかしたら、私でも東大に行けるかも』と思ったんです」と振り返る。美咲さんが通っていたのは、関西にある毎年1〜2人が東大に合格する進学校。担任の先生に模試の結果を見せたところ、「このままがんばったら東大に行けるよ」と背中を押され、もともと負けず嫌いの性格で、一番を目指したいという思いもあり受験を決めたという。
一方、美咲さんの周りでは、学校の成績にかかわらず、最初から関西の大学を目指す女子学生が多かった。「例えば、偏差値上ではどちらも狙えるとしても、東大ではなく京大を目指す、東京外語大ではなく阪大の外国語学部を目指すとか。理由を聞いてみると、『家から通いたい』という子が多かったですね」(美咲さん)
ちなみに#YourChoiceProjectの調査では、地方の女子学生は、首都圏の女子学生と同等の学力を持っていても、「努力すれば東大に合格できる」と感じる人の割合が低く自信がないことが分かっている。
「女の子は、学力をつけても幸せになれるとは限らない」というバイアス
東大受験を志した美咲さんは、自身の思いを両親に伝えた。母親は、「東大なんて、本当に行けるの?」と驚いたという。後に、美咲さんの母親は「女の子は、学力をつけても幸せになれるとは限らない(から反対した)」と当時の思いを語ったそうだ。美咲さんがまだ小さいころから、教職や看護師など資格が生かせる職業をすすめていたこともあるという。父親も、美咲さんが上京することに難色を示した。「東京は危ないからだめだ。関西には京大も阪大もあるのに、なんでわざわざ東京に行くんや」という父親の言葉に、美咲さんは、「東大は東京にしかないやろ」と反論。東大を目指して勉強を始める。
母親は、心配を募らせて学校に電話をかけた。「うちの子に東大受験をすすめるのはやめてください」と担任の教師に抗議するためだ。「万が一、浪人することになったら困る。確実に現役で合格できる大学を受験させたい」という母親を、担任は、「美咲さんの成績なら、東大に合格する可能性は十分にあります」と繰り返し説得してくれた。
「地元の友達に、東大志望の男の子がいたんですが、向こうは誰からも反対されていない。うらやましいなあと思いました」と美咲さんは振り返る。
前述の調査でも、地方では女子学生よりも男子学生のほうが、「保護者から偏差値の高い大学に行くことを期待されている」と感じる学生の割合が多いことが分かっている。「女の子は地元で進学したほうがいい」という親世代の価値観が子どもにも影響を与え、親だけでなく本人も、偏差値の高い大学への進学に対して消極的になる傾向があるのではないだろうか。
周囲に相談し、味方を見つけることから道がひらける
一浪を経て、東大に合格した美咲さん。初めは反対していた両親も、美咲さんの意志の強さに少しずつ態度を軟化させ、最後は応援してくれたそうだ。「合格したときにはほっとして、家族で喜び合いました」(美咲さん)「上京を反対されていた頃は、『こんな家、出ていってやる』みたいな気持ちもあったんですが、いざ一人暮らしを始めると、やっぱり実家って楽なんですよね。夏休みには、3週間くらい帰省しています」という美咲さん。入学後、家族との関係も変化しているようだ。
この春、美咲さんは3年生に進級し、そろそろ就職活動も視野に入る時期だ。
「両親は関西に戻ってほしいみたいですが、私は東京で就職したいと考えています。父親に『やっぱり帰ってこないのか』と聞かれて、『東京で就職するんじゃない』と答えたら、『ああ、そうか』って。もう、私が言うことを聞かないって分かっているんですね」と美咲さんは笑う。
「地方の女子学生で、これから東京の大学に行きたいという子がいたら、『いろんな人に相談してみて』とアドバイスしたいです。私自身もそうでしたが、周りの子が当たり前のように地元の大学を志望する中、自分だけ『東大に行きたい』と言うのは、無謀な感じがして恥ずかしいんですよね。反対する人がいるかもしれませんが、きっと味方になってくれる人もいます。勇気を出して、希望を口に出してほしいです」(美咲さん)
2023年、地方から東京都に転入した15~19歳の若者はおよそ3万5千人。そのうち約1万7千人が女性だった(※2)。
【出典】
なぜ、地方の女子学生は東京大学を目指さないのか【2023年度調査結果】(#YourChoiceProject)
この記事の執筆者:髙橋 三保子
言編み人/インタビューライター/エディター 北海道生まれ。通信社記者を経て2012年からフリーランスに。 人と組織のストーリーを引き出すインタビューを得意とする。 執筆ジャンルは人事・HR領域、サステナビリティ、暮らし、日本文化など。
(文:髙橋 三保子)
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