どうすれば子がトップアスリートに育つ? 元日本代表・城彰二の答え「正解は1つじゃないけれど…」
オールアバウト / 2024年5月29日 21時5分
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トップアスリートが「どんな親のもとで育ったのか」、そして「わが子をどんな教育方針のもとで育てているのか」について聞く連載【アスリートの育て方】。元サッカー日本代表で1男1女の父である城彰二に、子どもの教育方針について話を聞きました。
鹿児島実業に進学した城彰二は、1年時と3年時の2度、全国高校サッカー選手権に出場。大会屈指のストライカーとして注目を集めた3年時の1993年度大会では、キャプテンとしてチームをベスト4に導いている。
そして卒業後の1994年には、Jリーグのジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に鳴り物入りで入団し、幼い頃に父と交わした「プロサッカー選手になる」という約束を見事に果たすのだ。
プロ1年目はデビュー戦から4試合連続ゴールを決めるなど、センセーショナルなパフォーマンス。ルーキーイヤーの通算12ゴールは、高卒新人としてはいまだ破られていない金字塔である。その後のクラブレベル、そして日本代表における活躍については、ここであらためて語る必要もないだろう。
ならば、華々しかった彼のプロキャリアに、両親の教育はどの程度の影響を与えたのだろうか。スパルタだった父も、さすがにプロ入り後の活躍に目を細めていたかと思いきや──。
現在2人の子どもの父である城自身の子育て論にも触れていく。
中1でほったらかしはないなと思うけど……
厳しかった城の父は、今から12年前の2012年に他界した。まだ60代の若さだった。幼い頃はもちろん、プロとしてどんなに成功を収めても、父は亡くなるまで1度も息子を褒めたことがなかったという。「プロになる夢をかなえた時も、『上には上がいる。どうせ1年か2年でクビになるから覚悟しておけよ』って言われましたからね。唯一、引退試合の時だけです。『お疲れさん、頑張ったな』って声を掛けられたのは」
長男には特に厳しく、という昔ながらの考えもあったのだろう。実際、6つ下の次男と、同じくサッカー選手になった8つ下の三男(和憲/かつてJFLのホンダロックSCに在籍)には、城が嫉妬するほど甘かったという。
それでも、この両親がいなければ、プロとしての成功もなかったと城は言う。
「何事もまずは自分で考えなさい、自分で経験しなければ何もつかめないという教育方針が、僕には合っていたんでしょうね。確かに中1でほったらかしはないなと思うし(笑)、あの頃は精神的にかなりきつかったですが、そうした辛い経験をした時に、どうすれば状況を変えられるか、自分で考えられる人間になれた。子どもではなく、1人の人間として見てくれたからこそ、早い段階でいろんな経験ができたし、それはすごく感謝しています」
栄養士の資格も持っていた母の、陰ながらのサポートにも感謝している。
「野球をやっている頃から、練習後におにぎりやバナナ、果汁100パーセントのオレンジジュースなどの補食をとるようにしてくれていましたからね。父親のいないところでは、いつも僕の活躍を喜んでくれていたし、『お父さんだって本当はうれしいのよ』ってフォローも忘れなかった。自分も親になって分かりますけど、母親は特に、中学生の子どもに1人暮らしをさせるなんて、相当に心配だったと思いますよ」
子どもたちは、やりたいことを自由にやればいい
では、そうして両親から受けてきた教育を、自身の子育てにはどのような形で生かしているのだろうか。スパルタとも言える、ある種の突き放すような教育がなければ、「考える力」は育まれないのだろうか。城は、即座に否定する。「僕が育ったのは、言葉よりも先にモノが飛んでくるような時代でしたからね。自分が経験してきて、それは違うなって思ったし、何より今の時代にそぐわない。もちろん、人に迷惑をかけたりしたら、僕も子どもたちを叱りますけど、特に家庭内で決まりごともつくらないし、彼らがやりたいことを自由にやればいいという考え方ですね」
20歳になった長女は、徒競走でも周りの子を先に行かせるようなおっとりとした性格だという。ただ、幼い頃から人前に出ることが好きで、度胸は満点。ミュージカルやタップダンスをやっていた延長線上で、現在はタレントとしても活動するようになった。
一方、中学3年生の長男は、大の負けず嫌い。現在はFC東京 U-15むさしでプレーしているが、試合に負ければ今でも泣いて悔しがるそうだ。ただ、その長男にも無理強いしてサッカーをやらせたわけではない。実際、小学3年生まではお姉さんの影響でダンスにハマっていたという。
「4年生になって、いきなりサッカーをやりたいって言い出して。まあ、僕としてはやりたければやれば? というスタンスです。まだまだ、全然下手くそですしね(笑)」
城の評価は厳しいが、それでも才能は父親譲りなのだろう。城がスポーツディレクターを務めるインテルアカデミー・ジャパン(イタリアの名門インテルが運営するサッカースクールの日本支部)のスクールでボールを蹴り始めると、早くも5年生の時にFC東京のスカウトの目にとまる。そのプレースタイルは祖父譲りなのか、城いわく「破天荒」だ。
「バーンってボールを蹴って、ガーッて走る(笑)。足が速いのと、あとは左利きという点をFC東京さんに評価していただいたんだと思います」
ただこの先、自分と同じようにプロになってほしいのかと問えば、それもあっさりと否定する。
「ならなくてもいいし、なって欲しいとも思っていません。娘についてもそうですが、将来こんな大人になってくれたらいいなという願望は一切ないんですよね。ただ、彼ら自身が『こうなりたい』という目標や夢は絶対に持って欲しい。そこに向かってチャレンジして、仮につかめなければ、また違う目標を見つければいい。親としては、例えば金銭的な部分や食事面などで、その手助けをするだけです」
自分で考え、行動に移せる人に
その一方で、夢をつかみ取るには、「自分で考えること」が不可欠だとも力説する。自身がそうやって、考えながら成長してきたように。「僕は、子育てに関してはほぼ妻任せで、息子と一緒にボールを蹴ったことも、たしか小さい頃に公園で3回くらい(笑)。本格的にサッカーを始めてからも技術的な指導をしたことは1度もありません。たまにサッカーに関する悩みを相談されますが、その時もいくつか道を示すだけで、答えは与えない。結局、自分で判断し、自分で行動しなければ、何事も自分のものにはならないんです。
お金がなければスーパーで安い食料を探すし、朝早く起きて新聞配達もするわけです(笑)。そうやって困ったり、悩んだりした時に、自分で考えて行動に移せる人になること。あとは、他人に思いやりを持てる人間になること。望むのはそれだけですね」
子どもと一緒に夢を追いかけるのはすてきだけど……
ただ、世の中には自分の子どもに必要以上に期待し、多くを望む親も少なくない。サッカースクールの現場でも、最近は熱心な保護者が多いと城は言う。「親が子どもと一緒になって夢を追いかけるのは、すごくすてきなことだと思います。だけど、例えば何時間も一緒にビデオを観て、このプレーはこうだった、ああだったと指摘していたら、子どもは滅入ってサッカーを楽しめなくなってしまう。なんだって楽しいからこそ継続できるんですよね。僕も鹿実の練習は本当にきつかったけど、それでも辞めなかったのは、根っこの部分でサッカーを楽しんでいたからなんです」
「ずば抜けたもの」を見つけて、伸ばしてあげればいい
では今の時代、どのような子育てをすれば、プロの世界で成功するようなトップアスリートは育つのか。「正解は1つじゃないと思います。周りの環境やタイミング、もちろん子どもの性格も関係してくるでしょう。ただ、親の思い込みで勝手に子どもの能力を評価してしまうのは、特に過大評価をして過度なプレッシャーを与えてしまうのは、ちょっと違うんじゃないかと。トップアスリートになれるかどうかは、結局のところ子どもの能力次第であって、親の能力ではないんですから。
でも、いろんなアスリートの方と話をしていると、やはり何か特化した武器を持っている人が多いなって気付きますね。それは運動能力や技術に限らず、発想の豊かさでも強い精神力でもいんです。何か1つずば抜けたものがある人は、きっとどんな世界でも成功できるんじゃないかと思うんです。
だから、できないことをできるようにすることも大事ですけど、それ以上にその子の得意な分野、突出した武器を見つけてあげて、それを楽しみながら伸ばしていけるような環境を与えてあげること。そんなサポートが、僕は1番いいのかなって思いますね」
子どもには子どもの人生、時代がある
当然ながら、昭和の子育てと令和の子育ては、考え方の根本からして違う。それぞれに良い点もあれば、悪い点もあるだろう。無論、時代におもねる必要はない。しかし大切なのは、そうした時代の変化を理解し、受け入れて、今を生きる子どもたちと向き合えるかどうかではないか。城も、子育ての難しさをこう語っている。「以前、娘に『それはパパの時代の考え方でしょ』って言われて、ハッとしたことがあったんです。僕たち親は、無意識のうちに自分がこれまで歩んできた人生の枠組みで物事を考えて、そこに子どもたちをはめ込もうとしてしまう。でも、彼らには彼らの人生があって、彼らが生きている今の時代があるんです。それにそぐわないような指導や教育って、もう要らないんですよ。まあそう言いながら、僕も自問自答していますけどね(笑)」
城彰二(じょう・しょうじ) プロフィール1975年6月17日生まれ。北海道室蘭市出身。鹿児島実業高時代から名をはせ、卒業後の1994年、ジェフユナイテッド市原(現・ジェフユナイテッド千葉)に入団。1997年に移籍した横浜マリノス(現横浜F・マリノス)でも中心選手として活躍し、2000年1月、スペイン1部レアル・バリャドリードへ。翌年に横浜へ復帰し、その後ヴィッセル神戸、J2の横浜FCに在籍。1996年にはアトランタ・オリンピックに出場し、「マイアミの奇跡」と呼ばれるブラジル戦の勝利に貢献。A代表のエースとして1998年フランスW杯にも出場した。2006年12月の引退後は、サッカー解説者をメインに、2013年秋に開校したインテルアカデミー・ジャパンのスポーツディレクターや、故郷・北海道の社会人チーム「北海道十勝スカイアース」の統括ゼネラルマネージャーなど、幅広い分野で活躍する。また、YouTube『JOチャンネル』のパーソナリティーとしても人気を博す。
この記事の執筆者:吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。(文:吉田 治良)
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