藤井聡太八冠からタイトル「叡王」を奪えるか!? 王者をカド番に追い込んだ伊藤匠七段との注目対決!
オールアバウト / 2024年5月29日 20時15分
5月31日に行われる将棋のタイトル戦・叡王戦第4局。藤井聡太八冠が負けたらタイトルを失うという状況で、挑戦者の伊藤匠七段が初タイトルを獲得するか、藤井八冠が勝ってフルセットになるのか。叡王戦の見どころを解説します。(写真:日刊スポーツ/アフロ)
2024年5月31日に行われる将棋のタイトル戦、「叡王戦」第4局が大きな注目を集めています。藤井聡太八冠が1勝2敗とリードされ、負けたらタイトルを奪われる「カド番」に追い込まれているからです。
ここのところ、タイトル戦ストレート勝ちが多かった藤井聡太八冠。この第4局で負けたら叡王を失冠するという状況で、「藤井八冠ピンチ」「八冠に黄信号」などと報道されることも。
ちなみにタイトル名の叡王は「えいおう」と読みます。「叡」は賢いなどの意味がある漢字で、「叡王戦」というネーミングは叡王戦発足時にファンの公募から選ばれました。
それまで将棋界のタイトルは7つでしたが、叡王戦ができて8つに。ほかの7つのタイトルの主催は新聞社ですが、叡王戦は洋菓子の不二家というのもほかにない特徴。タイトル戦で注目を集める「おやつ」は、もちろん不二家のケーキが提供されます。
藤井聡太八冠が強すぎて、フルセットにならない
将棋界にある8つのタイトル戦は1年中、時期をずらしてタイトル戦ごとに2~3カ月かけて、七番勝負なら片方が4回勝つまで、五番勝負なら3回勝つまで行われます。4勝0敗、または3勝0敗でタイトルを防衛(挑戦者が勝った場合は奪取)することを「ストレート勝ち」といいます。2023年10月に8つめのタイトル「王座」を奪取し、全冠制覇を達成した藤井聡太八冠。その後も10~11月に竜王戦、2024年1~2月に王将戦、2~3月に棋王戦、4~5月に名人戦を防衛しました。
しかも名人戦で4勝1敗になった以外、藤井八冠の「ストレート勝ち」(棋王戦で1つ「持将棋」と言われる引き分けはあり)。予定されていた対局(七番勝負の5局目以降など)が行われないことが続き、「最近は藤井八冠が強すぎてフルセットにもつれることがなく、盛り上がらない」という声も一部で聞かれるほどでした。
初めての「カド番」となった藤井聡太叡王
しかしこの叡王戦では、第1局で藤井叡王(タイトル戦では、タイトル保持者はそのタイトル名で呼ばれます)が勝利したものの、第2局、第3局では挑戦者の伊藤匠(たくみ)七段が勝利。五番勝負の叡王戦は先に3回勝った側がタイトルを奪取(防衛)しますから、伊藤七段が叡王のタイトルに「あと1勝」と迫ったことになります。藤井叡王から見ると次戦で負けると、タイトルを獲られてしまう「カド番」という状況。
藤井八冠は2020年に17歳で初めてのタイトル「棋聖」を獲得して以来、これまでにタイトル戦を22回戦い終え、すべて奪取または防衛してきました。先にカド番に追い込まれたことはこれまでありませんでした。
藤井叡王を追い込んでいる伊藤七段は、藤井八冠と同じ2002年生まれの21歳。藤井八冠が14歳でプロになったのに対して、伊藤七段は17歳のとき。伊藤七段がプロデビューした頃には、すでに藤井八冠は「棋聖」「王位」の2つのタイトルを保持しており、大きな差がついていました。
ですが、伊藤七段は2023年の竜王戦で初めてのタイトル戦を経験すると、立て続けに棋王戦、今回の叡王戦とタイトル挑戦を決めて、藤井八冠に挑んでいます。
立て続けにタイトル挑戦を決めた、伊藤匠七段
タイトル戦に挑戦するには、170人ほどの現役の全棋士が参加する予選や本戦トーナメントを勝ち上がる必要があり、タイトル保持者以外の棋士すべての代表ともいえます。当然ながら多くの勝利が必要で、立て続けにタイトル挑戦を成しとげるのは強さの証明。タイトル挑戦しない限り機会が少ない藤井八冠との対局を、この半年あまりで伊藤七段は増やしてきました。
藤井-伊藤戦の公式戦の対戦成績は、叡王戦第1局終了までは藤井八冠の11勝0敗(1持将棋)。それが、伊藤七段が叡王戦第2局で対藤井初勝利を挙げると、続けて第3局でも勝利したのです。
これには、伊藤七段が藤井八冠につけられていた「大きな差」をつめてきたのではないかという見方が広がりました。
これまで、将棋界は数々のライバル対決がその歴史を彩ってきました。1996年に七冠(当時はタイトルは全部で7つ)を成し遂げた羽生善治九段にも、同い年の森内俊之九段などライバルと呼べる存在がいて、2人のタイトル戦はゴールデンカードと言われることもありました。
しかし、藤井八冠はあまりの強さにライバルと呼べる存在がいなかったのです。
同学年の2人はライバルになるのか
叡王戦の行方がどうなるのか、藤井八冠が初めてタイトルを失うのかという注目ポイントのほかにも、伊藤七段が藤井八冠のライバルとなり、2人のタイトル戦が「令和のゴールデンカード」として定着していくことへの期待もあります。5月22日以降、5月31日の叡王戦第4局まで伊藤七段には対局の予定がありません(対局日と放送日が違う棋戦など、短い持ち時間の対局が入る可能性はあります)。
一方の藤井八冠は、5月26~27日に北海道紋別市で行われた名人戦第5局で勝利し、結果4勝1敗で「名人」のタイトルを防衛しました。
遠方での2日制のタイトル戦は前夜祭や翌日取材なども含めると、3泊4日の日程です。タイトル戦は1年を通して並行して行われるので、1つのタイトルだけに集中するのは難しいのですが、藤井八冠が名人戦を4勝0敗で防衛していれば開催されなかった対局のため、叡王戦に向けてのスケジュールがきつくなったと心配の声もあがっています。
藤井八冠がその疲れも見せず、叡王戦第4局に勝ち、2勝2敗としてフルセットに持ち込むのか、伊藤七段が勝ち、初めてのタイトル獲得となるのか。そして、藤井一強の時代から、藤井-伊藤時代の幕開けとなるのかにも注目です。
※段位、タイトル数は2024年5月27日時点
この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を15年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。
(文:宮田 聖子)
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