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なぜ「名古屋めし」は味が濃い? 味噌カツ、ひつまぶしに共通する“日本人ならでは”の味からひも解く

オールアバウト / 2024年5月31日 21時15分

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「名古屋めし」の特徴としてしばしば称される「味が濃い」。何となくB級グルメのイメージを抱かれやすい表現だが、味が濃いとは何が濃いのか? 検証することで、世界にも通用する名古屋めしの知られざる魅力が見えてきた!

名古屋のご当地グルメ全般を指す「名古屋めし」。

味噌カツ、味噌煮込みうどん、ひつまぶし、手羽先、きしめん、味噌おでん、あんかけスパゲティ、台湾ラーメン、鉄板スパゲティ、小倉トースト、名古屋コーチンなどなど……。

今ではこれらを目的に名古屋に足を運ぶという人も少なくなく、名古屋城と並ぶ観光資源にもなっています。

バラエティー豊かな名古屋めしですが、全般的な特徴としてしばしば称されるのが「味が濃い」。こってり濃厚な味わいが、多くのメニューに共通する傾向だといわれます。

「みんな茶色い」ともいわれ、色合いが濃いことも味が濃いというイメージにつながっているのでしょう。

さて、この「味が濃い」という特徴。いささかふわっとした表現で、具体的にどんな味わいなのか今ひとつピンと来ないという人も多いのではないでしょうか?

甘辛い?しょっぱい?脂っこい?後味がしつこい……? 名古屋めしは一体何が濃いのでしょうか?

「うま味」は日本人が発見した味の基本味

それはズバリ、名古屋めしは「うま味」が濃いのです。これまた抽象的な表現、と思われるかもしれません。

「うま味」は「おいしさ」と同義の言葉だと思われがちですが、実は独立した味の種類を指す言葉です。具体的にはグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などによって生じる味わいのことです。

この「うま味」は、味の基本味である「甘味」「塩味」「苦味」「酸味」に続く第5の基本味として、現在は世界的にも認められています。

あれ、「辛味」は?と思う人も多いかもしれませんが、「辛味」は刺激であって味の種類には入りません。

海外ではちょうど良い表現が見当たらないため、日本語音のまま「UMAMI」と表記されるのですが、化学的に独立した味だと証明されたのはほんの20年ほど前のことです。

しかし、日本人は100年以上も前にすでに「うま味」を発見していました。

明治後期に、東京帝国大学の池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸を抽出し、「うま味」という味の種類を化学的に証明しているのです。

ちなみに池田博士はこの研究を発展させて、調味料「味の素」を開発しています。

味噌が根幹を成す名古屋めしのうま味

日本人が世界に先んじて着目していた「うま味」。名古屋では、伝統的にこのうま味がとびきり濃い調味料が使われています。

そう、味噌です。一般的には「赤味噌」「八丁味噌」と称される名古屋の味噌は、より正しくは「豆味噌」という種類に分類されます。

日本中のほとんどの地域では米味噌が食され、九州など西日本の一部は麦味噌が好まれます。対して豆味噌は、生産も消費も名古屋をはじめほぼ東海3県(愛知・岐阜・三重)に限定されます。

この豆味噌が他の味噌と一番違うのが「うま味」の濃さ。うま味成分であるグルタミン酸が、米味噌、麦味噌のおよそ2倍も含まれているのです。
名古屋めしの肝というべき豆味噌。大豆と塩、水だけを原料とし、長期熟成によってうま味を凝縮させるのが最大の特徴
さらに名古屋では「溜まり醤油」も好んで使われます。溜まり醤油は、もともと豆味噌の醸造過程でにじみ出た液体をしぼり出したものが始まり。そのため豆味噌同様にうま味が濃いのが特徴です。

味噌と醤油は和食の味つけの基本となる調味料。それぞれ、うま味がとびきり濃厚なのですから、必然的に名古屋の料理はうま味が濃くなります。

そして、それを子どもの頃からずっと食べ続けている名古屋人は当然、うま味嗜好となります。すなわち、うま味が濃い食べ物がおいしい、と感じる味覚が知らず知らずのうちに育まれていくわけです。

この名古屋人のうま味嗜好にのっとって作り出され、好まれ、広まった食べ物が名古屋めしです。

豆味噌や溜まり醤油を使わない料理ももちろんありますが、肉や野菜をじっくり火にかけてうま味を凝縮する台湾ラーメンやあんかけスパゲティなどは、やはり総じてうま味が濃いという特徴を持っています。

「うま味」は日本の食の最大の特徴

2015年に開催されたミラノ万博。日本館は屈指の人気パビリオンで、日ごろ“並ばない”といわれるイタリア人が長蛇の列をなした
このうま味の濃さ、名古屋めしだけの特徴かというと決してそんなことはありません。先にも紹介した通り、「うま味」を発見したのおよそ100年前の日本人。日本人は古来うま味を好み、大切にしてきた民族です。

筆者は2015年、万博史上初めて「食」をテーマに開かれたミラノ万博を取材しました。

2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に認定されたこともあって、日本館は屈指の人気パビリオンだったのですが、その展示の中にこんな記述を見つけました。

「『うま味』は世界へ 日本特有の急峻な地形を流れる豊富な水は、ミネラル分のほどよい『軟水』をもたらし、昆布や鰹節から『うま味』を引き出す『出汁(だし)』の文化を育んできました。

『うま味』は日本で発見された『甘味』『酸味』『塩味』『苦味』に次ぐ第5の味。

うま味物質には減塩機能があり料理のおいしさを損なうことなく、健康的でおいしい食生活を楽しむことができます。少ない脂質や糖質でも満足感が得られ、過食も抑えられます」
「うま味=第5の味覚」と紹介するミラノ万博・日本館の展示
ヘルシーだと世界中から注目を集めている和食。その特徴、魅力が「うま味」だと、万博の展示でも世界に向けてアピールしているのです。
ミラノ万博日本館の展示。日本食の特徴をパネルやパフォーマンスで紹介した

和食の特徴を分かりやすく表現した名古屋めし

そんな日本食の魅力であるうま味をとても分かりやすくした料理が名古屋めしです。「味が濃い」という表現からカロリーが高くてジャンク、と思われがちだったりするのですが、それは誤解です。

豆味噌や溜まり醤油は塩分が少なく、うま味がしっかりしている分、調理の際にも塩分を余計に加える必要がありません。名古屋めしは、減塩効果が高くてヘルシー、という和食の利点も併せ持っているのです。

名古屋めしに対する「味が濃い」というイメージを「うま味が濃い」に正しく変換すると、その特徴は日本人にとっては親しみやすく、外国人にとっては日本食らしさを実感しやすいものであることが分かります。

国内ではとかく変わっていると誤解されることが多い名古屋めしですが、実は日本食らしさをより特徴的に表現した食文化。

そんな風に理解した上で、うま味を意識しながら食せば、今まで気付いていなかった名古屋めしの魅力を存分に楽しめるはずです。

大竹 敏之プロフィール

愛知県常滑市出身。大学卒業後、名古屋の出版社に勤務し、その後フリーライターとして独立。雑誌や新聞、Webメディアなどに名古屋の情報を発信する。著書は『間違いだらけの名古屋めし』(ベストセラーズ)『名古屋の喫茶店 完全版』(リベラル社)など多数。
(文:大竹 敏之(名古屋ガイド))

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