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Q. 「遺伝子検査で子どもの才能がわかる」って本当ですか?【脳科学者が解説】

オールアバウト / 2024年6月2日 20時45分

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遺伝子検査で、子どもの才能や能力は実際にわかるのでしょうか? 遺伝子検査にはどの程度、科学的な信ぴょう性があるのか、わかることと注意点について解説します。

Q. 「遺伝子検査で子どもの才能がわかる」って本当ですか?

Q. 「遺伝子検査を受ければ、子どもの才能や能力がわかると聞きました。最近は安価な遺伝子検査キットなどもあるようですし、あらかじめ子どもに向いていることが分かれば、習い事や進路を考える時にも役立ちそうで、気になっています。実際に、どれくらい確実性があるものなのでしょうか?」

A. 性格や能力は遺伝子だけでは決まりません。目の前のお子さんを見てあげてください

まさに最近、東京のある保育園が子どもの遺伝子検査を推奨・仲介し、保護者の3割近くがこれに応じたというニュースが報道されました。

結論から申し上げると、脳を専門とする筆者は、この対応は間違っていると思います。一言で「遺伝子検査」といっても、有用なものとそうでないものがあるからです。それを区別できない一般の方が気軽に利用すると、誤情報に振り回されてしまうことがあります。

そもそも「遺伝子」とは何でしょうか。簡単に言うと、親から子へと伝えられる形質(たとえば毛髪の色)を決定するものです。

少し専門的になりますが、遺伝子の本体は細胞核中にある「DNA(デオキシリボ核酸)」という物質です。

DNAは、デオキシリボースという糖がリン酸を介してつながった鎖の脇に、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の核酸塩基のいずれかがくっついて構成されています。この核酸塩基がどう並んでいるか、たとえば、「ATCCGTATGC…」といった配列が、ずばり遺伝情報になるのです。

私たちの体は、無数の細胞が集合してできていますが、元をたどると、母親の卵子と父親の精子が合体してできた、たった1個の「受精卵」からスタートしています。受精卵が細胞分裂を繰り返してどんどん増殖していき、未熟な細胞がそれぞれ異なった機能を備えた細胞へと分化し、最終的に私たちになったのです。

「受精卵」には母親と父親に由来した遺伝子(DNA)が含まれており、その後細胞が分裂して増えるときには、元のDNAがコピーされていくので、完成した私たちの体じゅうすべての細胞中には、まったく同じ遺伝子が含まれていることになります。

母親と父親からもらった設計図に基づいて、子どもの体は作られているというわけです。親子で顔や体型などがどことなく似ているのは、このためです。

医学的には、遺伝子検査が有益な場合も知られています。

たとえば、認知症の原因となるアルツハイマー病という病気は、特定の遺伝子異常によって起こるケースが知られ、父親と母親の両方がその遺伝子異常を持っていて発症した場合、その子どもは100%同じように発症することが知られています。

このような場合は、早いうちに遺伝子検査をして発症前に異常が判明すれば、将来に備えて早期に予防や治療に取り組むことができ、検査は有益です。

しかし、注意しなければならないのは、単に「リスクが高い」というケースです。「何らかの遺伝子の特徴がある場合、病気にかかる確率が高くなる」というデータがあったとしても、必ずしも発症するとは言えません。不確かな結果にも関わらず、遺伝子検査の結果に振り回されてしまうと、必要のない医学的介入や差別が生じる可能性もあります。

さらに、脳の機能に関わる遺伝子検査は、ほとんど無意味だと筆者は考えます。子どもの性格や能力は、遺伝子だけでは決まらず、生まれた後にどのように育ったか、つまり環境による影響の方が大きいからです。

たとえば、親が語学に苦手意識があって、まったく英語を話せなかったとしても、英語圏で育ったお子さんは、何不自由なく英語を話せるようになります。脳というのは、環境によって育つのです。ときには設計図通りにはいかないこともあります。

まだ信頼性の低い「遺伝子検査」の情報に振り回されて、お子さんの未来を決めつけてしまうのは、決して好ましいこととは言えません。

お子さんの性格や能力を良い方向に伸ばしたいなら、日々の暮らしの中で親子のコミュニケーションを大切にしたり、豊かな環境でお子さんが多くの体験を重ねられるように考えてあげることの方が、よほど意味のあることではないでしょうか。検査の数値ではなく、ぜひ目の前のお子さんの姿を見てあげてください。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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