よりかろやか、でも確かに「ジェットストリーム」 発売から18年、油性ボールペンの革命児が新たな進化
オールアバウト / 2024年6月3日 21時15分
今や低粘度油性ボールペンのスタンダードになった三菱鉛筆の「ジェットストリーム」。そのジェットストリームに新しいインク「ジェットストリーム ライトタッチインク」が登場。新製品の威力について、開発スタッフに聞きました。
2006年に国内販売が開始された三菱鉛筆の低粘度油性ボールペン「JETSTREAM(以下、ジェットストリーム)」は、当時の油性ボールペンのイメージを一新するなめらかな書き心地の新しいインクによって、低粘度油性インクのブームをけん引。
現在も油性ボールペンのトップを走り、日本を代表すると言っても間違いはないであろう製品です。
現在は、ラインアップも充実し、用途に合わせてさまざまな機能やデザインの製品がそろう「ジェットストリーム」ですが、発売からすでに18年を経て、ここ最近では、初期からのもっともスタンダードなタイプのモデルや「ジェットストリーム スタンダード」165円(税込)も軸色を大きく変更したり、さらには2024年3月、新開発の「Lite touch ink(以下、ライトタッチインク)」を搭載した製品も登場しました。
普段使いの油性ボールペンのイメージを一新したジェットストリームのこういった変化は、一般的に広く使われるボールペンという存在のポジションの新たな変化なのかもしれません。
そこで、三菱鉛筆商品開発部の百田崇人さんに、新しい軸のデザインやインクのお話を中心に、ジェットストリームのこれまでとこれからについてお聞きしました。
ジェットストリームのデザインは古いわけではない
「事務用や一般的に広く使われるボールペンの大きな変化は、ちょうどジェットストリームが発売された2006年前後の時期に起こりました。それは、リーマンショックなどで備品としてボールペンを支給する会社が減り、会社員が自分でボールペンを選んで買うようになったからです。
その流れの中で、新しい書き味を提案したジェットストリームも選んでいただけたということはあったと思います」と、百田さん。
現在では、自分が使うボールペンは自分で買うというのは当たり前ですが、ほんの20年前までは、会社の備品など、ボールペンはそこにあるものを使うというような意識が一般的でした。
それが、自分で使うものは自分で買うという状態になったときに、ちょうど登場した三菱鉛筆の「ジェットストリーム」や、パイロットの「フリクションボール」が、筆記具には機能や書き心地に差があるということを気付かせてくれました。
そうやって、自分が使うボールペンを意識する時代になったわけです。
「今回、軸色を変えた既存品の『ジェットストリーム スタンダード』ですが、これも、発売当時にはちょっと未来志向的なものが強いデザインだったんです。
どちらかというと、いわゆる昔ながらのボールペンのデザインではなくて、新しいインクの技術を使った先進的な商品であるということを意図したデザインにはなっているんですよ」と百田さん。
流行色ではなく、新しい標準となるボールペンの軸色を採用
とはいえ、発売から18年を経て、ボールペンのデザインのスタンダードもかなり変わってきました。
特に、ゲルインクボールペンのような、若い層を中心に使われている商品では、三菱鉛筆の「ユニボール ワン」シリーズに代表される白軸や、「ユニボール ワン F」のヒットも記憶に新しい、ペールトーンでマットな色調の軸が、ここ数年、筆記具業界全体のトレンドになっています。
ただ、油性ボールペンは、事務用から作業用、学生も社会人も幅広く使う、ユーザー層を限定しない使われ方をする汎用品です。
「ジェットストリーム自体は非常にスタンダードなもので、お客様から見ても『これがジェットストリームだよね』というように認知されている部分があります。
そのような変えてはいけない部分もあると考えていますが、やはり発売以来10何年も新しいものを出していなかったので、新しいニーズを拾い切れていないという実感がありました。
カラフルなデザインは、やはり職場で黒インクのペンとしてベースとなる黒色の軸があって、そうではないものを使いたい人をターゲットにしているんです。
例えばピンク色は、当時、女性であればこういう色が喜ばれるのではないかといったことをある程度意識していたと思うんです。そういう形で、黒軸を中心に、それを補完する色を選んでいました。
ただ、現代は、黒をベースにしたとしても、それを補完する色は、よりジェンダーレスやエイジレスなどを意識したところに振っていくという考え方になるはずで、その考え方を基本に、今回、新しく軸色を考えました」と百田さん。
「ジェットストリーム シングル(ライトタッチインク搭載)」における伝統の継承と新しさ
今回、ジェットストリームの新しいインクである「ライトタッチインク」を搭載したペンを発売するにあたっても、軸色やデザインに関しては、同じような考え方で開発が行われている。
最初の「ジェットストリーム」の形は、古くなったのではなく、それは18年間愛されたベーシックな形として大事にしながら、次の未来に向けたベーシックは何だろうというところから生まれたのが「ジェットストリーム シングル(ライトタッチインク搭載)」(以下、「ジェットストリーム シングル」)ということなのです。
「例えば、ジェットストリームのアイコンにもなっているノックボタンの下、クリップ部分の斜めのラインは、実は、一部のカラー軸では取り入れていなかったのですが、これはブランドのDNAとして重要だと考えたので、改めてカラー軸の全てに入れ直しています。
そして、今回の『ジェットストリーム シングル』でも、一見、流行りに準じたデザインのように見えますが、思想的にはかなり、“少し先のベーシック”という考え方を強く意識しています。
クリップ部分の斜めのラインも、今回は逆向きに入れているんです。見た感じは変わりますがDNAとしてはつながっているんです」と百田さん。
この斜めのラインが、後ろからクリップ方向に斜め下に切られていたスタンダードのデザインではなく、クリップ部分から後ろに向けて斜め下に向かうラインになっているのには機能的な理由もあります。
このラインの方が、胸ポケットや手帳などに挟んだときに、飛び出し部分が短くて収まりが良くなるのです。これは、ネックストラップなどにペンを付ける人が増えているという現状に対応したものでもあります。
「今、このときに一番良いものを普通に作ろうと思ったらこうなった」というのが、このプロダクトの理念と特徴なのだと百田さんは言います。
普通に見えるけれど使うと分かる細かい機能
実際、この「ジェットストリーム シングル」は、シンプルに見えますが、細かい部分でさまざまに使い勝手の良さを実現するアイデアが盛り込まれています。
例えば、ノックボタンを押して芯を出したとき、ノックボタンが後ろでカチャカチャと鳴ることがありません。ノックして押し下げられた部分で静止するように作られているのです。
また、グリップ部分のゴムがペン先のギリギリの部分までオーバーラップしていて、持つ位置によって指が引っ掛かるということがありません。そして、軸全体の一体感が感じられます。
この価格帯のペンは一般的にペン先部分は別パーツになっていて、そこを回してリフィルを取り替えるのですが、このペンではそこではなく、グリップの後端、ペンの中央部くらいにネジが切られています。
「このグリップ部分のゴムがペン先までカバーしている構造は、三菱鉛筆の商品で国内で販売しているものに関しては今回が初めてです。
ペンの持ち方は、お客様によってさまざまなのですが、この構造だと、指当たりがどこにきても同じフィーリングで持てるんです。シームレスなデザインになっているという意味でもポイントだと思っています」と百田さん。
そのようなさまざまなアイデアと技術が盛り込まれた軸には、新開発の「ライトタッチインク」のリフィルが搭載されています。そのインクがあるからこそ、さらに、このデザインや機構が生きることになります。
ジェットストリームらしい「軽さ」の追求
「今回のインクは、何よりまず『ジェットストリームらしい書き心地を失わずに、どれだけかろやかにできるか』という点を大事にして開発しました。
極端な話をすると、ただ粘度が低いものを作るというのは、実はそんなに難しくないんです。それは最初のジェットストリームのインク開発時からの考え方で、最初の『クセになる、なめらかな書き味』というキャッチフレーズに表れている思想なんです。
ただシャバシャバした粘度が低いだけのインクを作ろうと思ったら、それはそれでできたと思います。しかし、やはり独自の筆記感を感じられるものにしたいという考えはあり、その書き味に向けて試作も重ねてきました。
同じように、今回のライトタッチインクを考えるにあたっても、ジェットストリームらしいかろやかさとは何か、というのを追求しました」と百田さん。
とにかく、社内でも筆記具マニアと言えるスタッフにたくさん書いてもらい、また、ユーザーにもテストに参加してもらいながら、『ジェットストリームだけれど軽い』という書き心地を目指したといいます。
面白いのは、試し書きを行っているスタッフと百田さんがコミュニケーションを取っていく中で、「これであればジェットストリームの選択肢としてお客様に提示して勝負ができる」と感じるポイントが不思議と一致したことです。
人間なので感覚を共有することはできません。言葉で共通認識を作っていても、それは感覚にまでは届きません。それでいて、「ここ」というポイントは一致するというのが、とても面白いと思いました。
「ここがジェットストリームらしさのポイントだなというところが一致したんです。錯覚かもしれませんが、『これがジェットストリームだ』という部分については、不思議と一致するんです」と百田さん。
長く、ジェットストリームというブランドに関わっているからこそ感じられる「ジェットストリームらしさ」についての共通認識があるというのは、もしかしたら、無意識に私たちユーザーにもあるのかも知れません。
だからこそ、今回、筆者が「ライトタッチインク」を搭載した「ジェットストリーム シングル」を初めて使ったとき、確かにかろやかになっているけれど、これはこれで正しく「ジェットストリーム」だと思ったのでしょう。
このあたりは錯覚や気のせいを含めて、言葉にはできない、指先の感覚や記憶の領域での話なのかもしれません。
水性ともゲルとも違う、低粘度油性ならではの書き味とは
筆者が書いてみた感じでは、従来のジェットストリームと比べて、なめらかさは変わらずに、弱い筆圧でもキレイにインクが紙に乗るという印象です。それは書き味が「かろやか」とも表現できると思いました。
水性ボールペンのような、サラサラした書き味ではなく、ゲルインクボールペンに近いと言えば近いのですが、もう少しヌルリとした感触が微(かす)かに指に伝わります。
もしかすると、この感じが「ジェットストリームらしさ」なのかもしれません。油性ボールペンであるという主張をしながら、スイスイと書き続けられる感触とでも言いましょうか。
このあたりの感覚は、言葉にするとかえって分かりにくくなるような気がします。確かなのは、水性ボールペンやゲルインクボールペンとは違う形で、なめらかで軽いということです。
また、筆圧を強めにすると、感触はかなり従来のジェットストリームの書き味に近づきます。個人的には、「ライトタッチインク」の軽さが、とても指先に心地いいのですが、より「筆記感」を求める人には、従来のタイプが良さそうです。
三菱鉛筆としても、あくまでスタンダードは従来のジェットストリームで、そのもう1つの選択肢としての「ライトタッチインク」という位置づけのようです。
「日常で使えるボールペンという意味では、既存品のスタンダードも新しく発売したシングルも同じです。
ただ、アップグレードではないと言っても、ベーシックな製品がある上での新しい製品というところでの価格付けもありますし、実際、筆記具としてはいろいろと変えて、新しくしています。
思想的に言えば、すごく普通に使っていただきたいペンなんです。何も特別なことはないような顔をしていて、誰もが見たことのあるペンだなと思って違和感なく使っていただけるように作っています。
使っていくうちに、これしかないと思ってもらえるような、それくらいのこだわりやアイデアを込めるというのが、このシングルタイプに関してはコンセプトになっています」と百田さん。
インクと機能とデザインが融合して生まれる未来のスタンダード
そのこだわりやアイデアが前述したノックボタンがカチカチ言わない機能や指が痛くなりにくいデザイン、グリップから先端にかけてのシームレスな構造といった、細かいけれどストレスなく筆記できて、持ち歩けて、当たり前のように使えるための工夫なのです。
そのデザインや機能と、新しいライトタッチインクが合わさって、少し先のスタンダードになり得るボールペンになっているのでしょう。
さらに、今回のライトタッチインク搭載のジェットストリームは、シングルの他に、ジェットストリームシリーズの人気商品でもある4色ボールペン+シャープペンシルが1本になった「ジェットストリーム 多機能ペン 4&1(ライトタッチインク搭載)」(以下、多機能ペン)もラインアップされています。
こちらも、グリップをなくしたり、ウエイトバランスを調整したり、ノック部分の表記の位置を変えたりと、細部にわたって工夫が施されています。
また、シングルタイプと同じ軸色のようで微妙に変えてあるなど、広い範囲のユーザーに使われることを想定したシングルとは少し違った、文具好きのユーザー寄りのアレンジが施されています。
シングルも多機能ペンも、元のベーシックな製品があるからできる思い切ったデザイン上の冒険がされていて、それが新しいジェットストリームのインクと合わせて、今よりも少しだけ先にあるスタンダードの提案なのでしょう。
とにかく、一度使ってみてください。特に、従来のジェットストリームを愛用している人には、その違いと同時に、同じ部分を感じ取ってもらえると、筆記具選びに幅が生まれるような気がします。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))
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