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「iPhoneに盗聴されている気がする」会話内容が広告表示されるのは“錯覚”か。デジタル広告の正体とは

オールアバウト / 2024年6月5日 21時25分

「iPhoneに盗聴されている気がする」会話内容が広告表示されるのは“錯覚”か。デジタル広告の正体とは

iPhoneで通話をした後、会話の内容にマッチしたデジタル広告が表示された経験はないだろうか。ちまたでは、盗聴説もささやかれているが、現実としてそれはあり得るのか。デジタル広告の仕組みと実態を探る。

3月、SNSで投稿されたこんなポストが1800万インプレッションを超える注目を浴びた(6月4日時点)。

「iPhoneに盗聴されてる気がするんだけど気のせい?わたしの会話全部聞いてなかったら出ないだろみたいな広告が明らかにそのタイミングで出てきてる気がする」

要するに、電話で話をした内容が広告に表示されることがあり、電話の会話がiPhoneに聞かれて広告に利用されているのではないかというのである。実は、オンラインでの議論や、筆者の個人的な知人などとの話からも、この盗聴疑惑を抱いている人は少なくない。

iPhoneの盗聴説は「陰謀論」だが……

ただ先に答えを言うと、通常の電話の会話では内容が盗聴されているとは考えにくい。Apple社は勝手にユーザーの会話を盗聴して広告を表示するために使っておらず、iPhoneが盗聴しているというのは「陰謀論」の類だと言えるだろう。もちろん盗聴をすることは技術的には可能だが、勝手に会話を盗み聞きするというのは、日本のような国によっては違法行為にもなるのでできない。

一方で、冒頭の投稿のように、実際に会話した内容にぴったりの広告が表示されることはあるだろう。ただそれは会話を聞かれたのではなく、また、偶然でもなく、その前後にオンラインで関連情報を検索しているなど、別の場所で情報が拾われて広告に使われていると考えたほうがいい。

デジタル広告の仕組みで鍵となるのは「関係性とひも付け」

「自分は検索などしていないのに出てくる!」という人もいるかもしれない。それでいて広告として現れる場合、こんなことも考えられる。通話の相手が、会話に出てくる内容についてかなり情報収集している場合だ。そうなると、その相手から情報やメッセージなどが自分に送られてきた場合も関係性が一致して広告として表示される可能性もある。鍵となるのは、関係性とひも付け、である。

例えば、別の人間が同じIPアドレス(ネットアクセスする際の通信の住所)を一定期間使っていたり、SNSから拾われた位置情報などが収集されていたりすると、そこから関係性が割り出され、検索される情報などがひも付けられていく可能性がある。メタデータと呼ばれる通信やオンライン上のデータ記録なども私たちが想像している以上に知らぬうちに集められ、それぞれがひも付けされている。そしてデータは広告目的で売買され、分析されて、広告プラットフォームに使われていく。それが私たちの目の前に広告として現れる。非常に複雑で、想像以上に広範囲にデータは収集され、ひも付けされているのだ。

私たちはこれらの情報を意図せずともどんどんスマートフォンやアプリに提供しており、その対価として、無料で便利なアプリを使うことができている。

これが、今私たちが暮らすデジタル世界の実態である。

便利と引き換えに、個人情報が奪われるリスクは常にある

「iPhoneに盗聴されていて広告が出る!」からスマートフォンを使いたくない人は、スマートフォンを手放すか、できる限りさまざまなアプリでデータの提供をしないという設定にするしかない。位置情報は常にオフにし、SNSは削除する。ブラウザもデータを拾わないアプリにするしかない。ただスマートフォンとパソコンがひも付けられていれば、ある程度のユーザーデータはいろいろなアプリなどに収集されてしまうだろう。

もちろん、デジタル世界から抜け出すと、便利さが失われるだけでなく、今のデジタル依存した世界では生活に支障が出るかもしれない。そう、便利さの裏に、個人情報やデータが奪われるリスクが常にあるというのも、私たちが暮らすデジタル世界の実態であることを忘れてはいけないのだ。

「新宿までタクシーで何分かかる?」知人ではなくSiriが反応

今回の話で、もう1つ注意すべきなのは、SiriやGoogle Assistantなど音声操作ができるガイダンスのアプリだ。

先日、Apple Watchを着けている知人とタクシーに乗っているときに、こんなことがあった。移動中の車内の会話で、行き先までどれくらい時間がかかるかな、と筆者が言うと、知人ではなくSiriが反応し、「ご用件は何でしょうか」と反応したのである。そこで「新宿までタクシーで何分かかる?」と質問すると、すぐに答えを教えてくれた。

何が言いたいかというと、こうしたアプリは私たちの会話を聞いていて、反応するための「トリガー」を聞き逃すまいとしているのだ。そしてユーザーの要求に応じて、オンライン上で検索した情報を代わりに調べてくれる。ただこうしたやりとりや検索などの記録は、ほぼApple Watchやスマートフォンに接続されているアカウントの元に記録される。この際に別のアプリに接続などすると、その情報が広告に使われる可能性がある。

これを避けるためには、SiriやGoogle Assistantなど音声ガイダンスのアプリを停止すること。iPhoneやAndroidでは設定からマイクもオフにできるので、オフにしておくことも一案だろう。使うたびにオンとオフを切り替える設定にすることもできる。

LINEは、チャット内容を監視しているのか

さらに筆者がよく聞かれるのは、LINEなど無料通信アプリがチャット内容を見ているのではないかということだ。最近では暗号化が強化されているので基本的にチャットのメッセージや電話の内容がアプリ提供者に見られたり、聞かれたりしている可能性は低い。ただ、通話やチャットが行われた記録や位置情報など、ほかのデータは収集されているし、そこから別のアプリと接続して利用すると、その辺りのデータも収集される。結果、こうしたデータがひも付けられていくと、何らかのユーザーに関連した広告が表示されることになる場合もある。

もはや、これを1つ1つ気にしていたら、デジタル世界には暮らせない。ある程度の覚悟が必要になるということだろう。

スマートフォンは、所有者以上にその人を“把握”している

私たちは、人類史上もっともデジタルデバイスで接続された社会に暮らしている。そしてそのデバイスにアクセスできれば、個人の人間関係から居場所、趣味趣向などさまざまな情報を知ることができる。今やスマートフォンは、所有者である私たち自身よりも、私たちのことを知り、把握していると言ってもいい。デジタル世界には、自分以上に自分のことを知っている“自分”が存在しているということだ。

例えば、20日前のランチのメニューは思い出せなくとも、スマートフォンをまめに使う人ならスマートフォンが教えてくれるだろう。その日に家族や友人とやりとりしたメッセージや、コンビニでデジタル決済を使って買った食品や、位置情報などを振り返り、何を食べたかを自分なりにひも付けすれば、思い出せる可能性が高い。

そして、そうしたデータを知ることができれば、かなり効果的な広告を出すことができる。ユーザーに電話の会話が盗聴されていると錯覚させるほど、“効果的に”である。

この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)

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