「体育会系」組織は弱い?男子バレーの好調と「上下関係」にこだわらないチームワークの強さ
オールアバウト / 2024年6月15日 22時5分
日本のチームスポーツには中学校時代の「部活動」から続く上下関係がつきまとうものだが、パリ五輪に向け好調な日本男子バレーにはそれがない。日本の組織に根強く残る「上下関係」には、それでもメリットがあるのだろうか。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
今夏のパリ五輪に向けて、日本の男子バレーボールが好調だ。この代表チームを見ていると、今までになかった明るい雰囲気がある。
男子バレーの好調と「チームワーク」の関係
そもそも日本のチームスポーツには、どうしても中学生時代からはびこる「先輩・後輩の上下関係」が、たとえプロになってもつきまとう。アメリカのNBA(プロバスケットボールリーグ)では、選手がヘッドコーチのファーストネームを呼ぶことがごく普通で、マイケル・ジョーダンも「フィル!」とコーチを呼んでいたものだった。
役職を超えて、人と人が信頼関係を結ぼうとする習慣があるように思える。○○先輩、○○部長、と学生時代から社会人に至るまで「役職」で呼ぶ日本では、どうしても上下関係が横行してしまうのだろう。
そんな中、今の男子バレー代表は、キャプテンが後輩たちに「いじられ」ている。後輩たちは、キャプテン石川祐希選手の髪型がヘンだの、卵かけごはんの食べ方がヘンだのと言いたい放題だ。もちろん、罪のない範囲の冗談だし、何より彼らはわかっている。
そうやってキャプテンが「いじられ役」を務めてくれていることを。だからことのほか、過去に類を見ないほどのチームワークのよさが報じられている。
上下関係。日本のすべての組織が、もう一度見つめ直したほうがいいポイントかもしれない。
日本企業が体育会系の人材を好む理由
子どもの頃から「上の人には逆らってはいけない」という倫理観が横行する日本。言いたいことが言えない状況が作られていき、爆発する人、こもる人など、人は逃げ道を探して右往左往する。「私も中学時代から本格的にチームスポーツをやっていて、先輩には絶対服従でした。日本の企業は、そういう学生ほど雇いたがりますよね。会社や上司の言いなりに動いてくれる“いい駒”ですから。私自身も、そうやって使われる人間になるんだと少し諦めみたいな気持ちがあったんです」
そう言うのはリナさん(36歳)だ。彼女が配属された部署は、今までの上下関係の経験が生きる場所だった。先輩にかわいがられ、上司の意図より半歩先をいく。そうやってリナさんは自分の居場所を作った。だが、5年ほど経つうちに心がくすぶっていった。
本当はもっと仕事を任せてもらいたい、自分のアイデアを生かしたいと思っていても、それを言えない。
強固な上下関係に疲れて退職を決意した矢先
上司に言ったこともあるが右から左に聞き流された。「会社を辞めようかなと思っていたとき、別の部署の部長から声をかけられたんです。私のことを見ていてくれたみたいで……。『あなたはいつも悔しそうな顔をしているよね』と言われました。その部長は、部下の声を聞いてくれると評判だったので、どうせ辞めるなら、この人に何もかもぶちまけようと」
今の部署の不満、希望、自分のやりたいことなどをしゃべり続けて、気づいたら2時間が経っていた。
「うちの部署においで、と一言。異例の早さで翌週から異動になりました。初日に部長は、部員を全員集めて『おもしろい人材だから、この人のおもしろさを生かしてやりたい』と言ってくれたんです。
すると同僚が『部長がおもしろいっていうことは、彼女はかなり変わってるってことですか』って言って、みんな笑っていて。なんだかここは雰囲気が違うと思いました」
言いたいことを言える雰囲気はあるか?
「何でもオープンに、言いたいことを言い合いましょう」と題目を唱えられても言えるわけではない。言えと強制されても困るだけだ。つまりは「言える雰囲気」を上が作らなければ、みんなにとって居心地はよくならない。「部長はとにかく調子がいい。明るくてさっぱりしていて、でも個人的な秘密は厳守してくれる。私たちの知らないところで他部署と調整したり、役員に話を通したり。それを部下には言わないし、仕事がうまくいくと『みんなの突破力はすごいな』とねぎらってくれる。決して自分が何をした、とは言わない」
異動したばかりのころ、取引先に一緒に行ったことがあるが、部長は世間話ばかりしていた。あとから、それはリナさんが今後の仕事をしやすいように下地を固めてくれたのだということがわかり、彼女はいたく感激したという。
「人格者に見えない人格者というのかな、全然立派な感じじゃないのに、想像できないくらい度量が大きくて懐が深い。ふだんは冗談ばかり言っていて、若手の女性社員から『部長、うるさいっす』と注意されるくらい。
でもみんな部長が大好きなんですよ。だから先輩後輩の上下関係もほとんどなくて、後輩が先輩に言いたいことを言える。部長自身が『長く生きてりゃいいってもんじゃないんだよ、人間は。道端を歩いているアリからだって学ぶことはある』と酔って言ったことがあって、この人は本気でそう思ってるんだなと思いました」
人に恵まれれば、人間は変わる。変わるわけではなく、本来の良さが引き出されるのだろう。上下関係がきちんと機能することがよしとされてきたあらゆる組織だが、今となっては、そのデメリットのほうが大きいのではないだろうか。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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