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宮内庁が購入している「インフリキシマブ」は高すぎる? どんな薬なのか【薬学部教授が解説】

オールアバウト / 2024年6月20日 20時45分

宮内庁が購入している「インフリキシマブ」は高すぎる? どんな薬なのか【薬学部教授が解説】

「インフリキシマブ」とはどのような薬でしょうか。最近の報道で、薬価が高すぎるのではないかと話題になったようです。医薬の専門家として、この薬の効果と、薬の値段の「安い」「高い」はどう考えられるべきかを解説します。

最近一部の週刊誌報道などで、宮内庁が「インフリキシマブ」という高額な薬を大量に購入していることが伝えられ、いったいどんな薬なのか、本当に必要なのかという疑問をもたれた方がいらっしゃるようです。インフリキシマブとはどのような薬なのか、わかりやすく解説します。

インフリキシマブとは……効果・対象となる病気

少し専門的になりますが、インフリキシマブの語尾の「マブ(mab)」は、「モノクローナル抗体(Monoclonal AntiBody)」であることを意味します。抗体タンパク質を医薬品化したものです。

一般に抗体タンパク質は、病気の原因などになる特定の分子に特異的に結合することができるので、ずばりその分子が原因で病気が生じている場合に、非常に高い治療効果を発揮します。

インフリキシマブの具体的なターゲットは、体の異常に伴う炎症反応に関係している「TNFα(ティー・エヌ・エフ・アルファ)」という分子です。薬がこの分子に結合してその働きを阻害すると、病気の進行が食い止められるだろうと期待されます。

インフリキシマブは、抗体薬の中では古いもので、すでに22年前(2002年)から製造販売されています。当初は関節リウマチの治療薬として用いられていましたが、現在では潰瘍性大腸炎など他の病気に対して用いてもよいと認められています。

いわゆる「適応拡大」です。今回宮内庁が購入したのは、潰瘍性大腸炎を患った方の治療のためではないかと伝えられています。

インフリキシマブの薬価、「高すぎる薬」というのは本当か

インフリキシマブは、薬の値段が高額すぎるのではないかという意見も見られます。インフリキシマブの先発品である「レミケード点滴静注用」は、1瓶(100mg)が5万4950円(2024年6月時点)です。

これはもともとアメリカの製薬大手のジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社であるセントコア社が開発したものを、日本国内では田辺三菱製薬が販売しています。

しかし、すでに特許期間が過ぎている古い薬なので、後発品が5社から製造販売されています。それぞれの値段を確認すると、いずれも1瓶(100mg)が2万727円(2024年6月時点)です。先発品でなければならない特段の理由がないのであれば、後発品を利用することで薬代は抑えられます。

いずれにしても、バイオテクノロジーを駆使した薬なので、研究開発にも相当の経費がかかっていることは事実です。この薬を製造するには、遺伝子導入した細胞を培養し、細胞が産生する抗体を回収して適正な処理などした上で出荷しなければなりませんから、販売価格が高くなってしまうのは仕方ありません。

「薬の値段が高いか、安いか」を考えるときに大切なこと

このように、インフリキシマブはかぜ薬などの一般に広く使われる薬に比べると高額に思われるかもしれませんが、見かけの数字だけで評価するのは正しくありません。

たとえば、白血病などの治療に用いられる「キムリア」(一般名:チサゲンレクルユーセル)という薬は、およそ3260万円(2024年6月時点)です。非常に高いですね。しかも保険適用が認められているので、患者さんは一部負担で、残額は国民全員で支払うことになります。

この情報だけを知ると、高すぎる薬の使用は医療費を圧迫するのではと、気になるかもしれません。ただし、この薬はちょっと特殊で、患者さん自身の血液から免疫細胞の一種であるT細胞を取り出し、がん細胞を攻撃できるように遺伝子操作してから、点滴投与により患者さんの体内に戻すというものです。

1回限りで治療は終わり、高い確率で病気が完治します。

それと対照的に、痛み止めの湿布薬などは高齢者を中心にかなりの量が処方され続けています。なかにはほとんど使われることがないまま使用期限が過ぎ、大量に廃棄されているという現状があります。単価は安くても「ちりも積もれば山となる」ですから、こちらの方が医療費の無駄遣いではないかという考え方もあるでしょう。

高くても効果が高く有益な薬もあれば、安くても有効性は低くずっと使い続けなければならない薬があるのです。

今回話題になっているインフリキシマブについては、点滴静注するために何度か通院しながらある程度長い期間様子を見ていく薬になりますので、患者さんに対してどの程度必要性があるのか、どれくらいの治療効果が期待されるのかによって評価は分かれると思います。

薬価の適正は「費用対効果」で判断するのが正しいと、医薬の専門家である筆者は思います。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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