Mrs. GREEN APPLE『コロンブス』炎上騒動の背景にも…? トガッたクリエイター暴走リスクとは
オールアバウト / 2024年6月22日 21時15分
![Mrs. GREEN APPLE『コロンブス』炎上騒動の背景にも…? トガッたクリエイター暴走リスクとは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/allabout/allabout_108435_0-small.jpg)
なぜ、多くの人が携わっているにもかかわらず、Mrs. GREEN APPLEの新曲『コロンブス』のミュージックビデオは世に出てしまったのか。報道対策アドバイザーである筆者の経験に基づいて考えてみたい。(サムネイル画像出典:Mrs. GREEN APPLE公式Webサイト)
人気ロックバンド、Mrs. GREEN APPLEの新曲『コロンブス』のミュージックビデオが炎上した。
「植民地支配のきっかけをつくった人物」や「先住民族を大量虐殺した」という評価が定まりつつあるコロンブスのコスプレをするだけでもビミョーなところ、類人猿を登場させて人力車を引かせたり、乗馬や楽器の演奏方法を教えたりする描写があったことで、「無知すぎる」と批判が殺到したのである。
周りに止める人はいなかったのか
ご存じの人も多いだろうが、かつて我々が欧米人から「イエローモンキー」と蔑視されたように、「猿」「類人猿」は、白人社会では自分たちよりも劣った「有色人種」を見下す際に使われるアイコンだ。黒人差別でも「猿」という言葉は頻繁に使われる。この件に関しては、Mrs. GREEN APPLEが所属するユニバーサル・ミュージックや、この曲をキャンペーンソングとしてタイアップしていた日本コカ・コーラという大企業が、事前にこのような設定や描写は問題だと指摘できなかったのか、ということが議論されている。要するに、「Mrs. GREEN APPLEやスタッフが無知だったとしても、周りに誰か止める人はいなかったのか」と首をかしげる人が多いのだ。
ただ、筆者のような企業危機管理を長くやってきている者からすると、このような作品がノーチェックで世に出てしまうのはそれほど不思議なことではない。むしろクリエイティブな現場では「あるある」ともいうべきベタなリスクだ。
それはひと言で言えば、「トガッたクリエイター暴走リスク」である。
一体どういうことか、報道対策アドバイザーとしてこの手の炎上リスクにも関わってきた筆者の経験に基づいてご説明しよう。
「トガッたクリエイター暴走リスク」はこうして起こる
ある時、某有名企業で、ちょっとトガった広告キャンペーンを予定しているので内容をチェックしてくれと頼まれて、担当者らと一緒に広告を制作したクリエイターや代理店から説明を受けた。ちょっと聞いて、「アウト」だと思った。あまり具体的なことを明かせないが、今回のMrs. GREEN APPLEのミュージックビデオ同様、歴史認識がかなりズレていて炎上必至という内容だった。そこで問題のあるポイントを細かく指摘させていただくと、急に室内が重苦しいムードになった。
筆者の話を聞いているクリエイターが「チッ」と舌打ちをしたり、わざとらしくため息をつくなど明らかに不機嫌な感じになったのだ。そして、自分としてはこのような「演出」には、こういう狙いがあって、筆者が指摘するような「ひねくれた見方」をする人はいないと反論をした。
そのような感じで筆者とクリエイターと2人でケンケンガクガクの議論をするうち、それを見かねた担当者が、最終的にはちょっと慎重になろうということで今の方向性を再検討することになった。クリエイターはややキレ気味で、「この段階で広告のことを分かっていないセンスのない人に口を出されてもねえ……」とボヤきながら退席していった。
すると、意外なことが起きる。重苦しかった部屋の空気がパッと晴れて、担当者や代理店の営業まで筆者のところにやってきて、「ありがとうございます、言っていただいて助かりました」と礼を述べ始めたのだ。
「裸の王様」が生まれるまで
聞けば、先ほどのクリエイターは有名な賞を数多く取っているような気鋭のクリエイターで、仕事をしてもらうだけでも話題になるような、その世界の「大物」なのだという。そんな人物のアイデアや企画にダメ出しをすると「あいつはセンスがない」と業界に悪評が立ってしまう。そのため、代理店はもちろん、クライアントの担当者でさえ萎縮して、意見を言うことができなかったようなのだ。「私たちもちょっと今回の広告はリスクが高いかなという気はしていたんですが、なかなかうまく伝えられずで……いやあ、お願いして正解でした」
つまり、その時の筆者は「周囲が忖度(そんたく)する大物クリエイターにダメ出しをするセンスのない人」という役割を求められていたのである。
実はこれは広告だけではなく、テレビ、映画、音楽などあらゆるクリエイティブな現場で見られる現象だ。
基本的にこれらの世界の人たちは「世にウケるセンス」が大事だ。それは裏を返せば、「センスがない人」という悪評が立つと干されてしまうということでもある。そうならないために、「センスのある人」である時代の寵児(ちょうじ)のようなトガッたクリエイターに迎合する。その結果、そのクリエイターに誰ももの申すことができず、「裸の王様」が誕生することになる。
周囲は「静観」するしかない
ここまで言えばお分かりだろう。こうしたことが今回のミュージックビデオを誰も止められなかった背景にあるのではないかと筆者は考えている。実はこの作品のディレクターは、Mrs. GREEN APPLEのボーカルとギターの大森元貴さん自身が務めている。
言うまでもなく、大森さんは数々のヒット曲をつくった「時代の寵児(ちょうじ)」であり、絵本なども手掛ける「センスの塊」だ。そんな今をときめくクリエイターが、コロンブスの扮装をして、類人猿に音楽を教えるようなコンセプトを「面白い」と判断して熱心に進めようとしている時、果たしてそれにダメ出しをできる人が、大森さんの周りにどれほどいただろうか。
いるわけがない。ユニバーサル・ミュージックでMrs. GREEN APPLEの担当をしている人や、日本コカ・コーラのキャンペーン担当者は、「センス」でメシを食っている人たちだ。もしそんなダメ出しをして、業界の人たちから「あの人はセンスがないね」と思われてしまったら、その後のキャリアに大きく傷がつく。
では、どうするかというと「静観」である。「なんかアブなそうだな」「ちょっとマズくないか?」と心の中で思いながらも、大森さんたちが進めていることをただ見守るのだ。だから、あのように誰が見てもアウトなミュージックビデオが世に出てしまったのではないだろうか。
「そんなバカバカしい理由で?」と驚く人もいるだろうが、実際に炎上企業の現場を見てみると、自己保身やメンツを守るなど、あきれるほどくだらない理由で「危機」というものは起きていることがほとんどなのだ。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。(文:窪田 順生)
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