【実録】免許は返納したけれど…高齢の父親に“運転をやめさせた”50歳女性が語る「リアルな本音」
オールアバウト / 2024年6月29日 21時50分
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高齢者ドライバーの免許返納については、さまざまな議論が続いている中で、当事者の声を通して見えてくるシビアな現実があります。実際に父親が免許を返納することになった50歳の女性は、安心感と罪悪感の狭間で揺れていました。
高齢者ドライバーの運転免許返納についてはさまざまな議論がある中で、当事者の声を通して見えてくるシビアな現実があります。
「何か事故を起こす前に早く免許を返納してほしい」と思う一方で、複雑な心境を抱える50歳の女性がいます。免許返納をめぐる思いに耳を傾けました。
最善策は本当に免許返納なのか
「さとみ、元気? 今日お父さんが免許返納することになったのよ。今まで心配かけてごめんね」近所に住む母親から送られてきたLINEを複雑な気持ちで眺めるのはさとみさん(50歳)。彼女はここ数年、父親(77歳)の免許返納に対して思い迷っていました。
「私の父、2年前に肺の病気にかかって大きな手術をしたんです。その後、日常生活に支障はないほどまでに回復したけれど、毎日薬は服用しているし、たまに息苦しそうにしているときもあって。
いつまた重症化してもおかしくない。だから、家族会議で運転をやめさせたほうがいいねってなったんです。姉と母は1日でも早く免許返納させるためにはどうしたらいいかと躍起でした」
さとみさんの父親は体調が急変するリスクがあるため、もしも運転中に万が一のことがあったら、交通事故を起こしかねない。父親は免許返納に断固反対しているけれど、何かあってからでは遅い。
だから不安材料はなるべく早めに取り除いておきたいというのが、家族としての決断でした。
「でも、私は完全には納得できなくて……。実家は最寄りの駅から大人の足で20分~30分ほどのところにあって、スーパーまでもけっこうな距離があります。コンビニもあるけれど往復で30分はかかるかな。
そんな場所で生活の足であるマイカーを失ったら、父と母はどうやって暮らしていくのか心配で。もちろん私も最大限サポートはしますけど、仕事もあるのでずっと一緒にはいられない。
車がない生活を本当に送っていけるのか、かえって生活しづらくなるんじゃないかと不安でした」
そして何よりも、さとみさんの一番の気がかりは父親本人の気持ちだったといいます。
「病気して以降、ずっと家にこもりがちだった父親の唯一の楽しみが『車の運転』だったんです。周りに何もない田舎ですから、ストレスのはけ口がないんですよ。
車がないと娯楽にもありつけません。鍵のしまる小さな空間で1人になれる時間は大切だったんだと思います」
もちろん、さとみさんも免許返納の必要性は十分に理解している。交通事故を未然に防ぐためには、今のところ免許を返納するしかない。
ただ、自分の取った行動が父親の“生きがい”を奪うことにもなりかねないと思うと心が揺れる。親の子どもだからこそ、親の気持ちが手に取るように分かってしまうからつらい。
「免許を返納して、最近父は自宅近くで畑を借り、トウモロコシやナスを育て始めたみたいです。買い物は母が自転車に乗って行っています。
なんとか生活は続いているようですが、“免許返納”が人の生活を大きく変えてしまうということは、実際に経験して初めて知りました」
さとみさんは、消化しきれないモヤモヤを抱えつつ、現実としっかり向き合いながらお話ししてくれました。
高齢者は必ず免許返納するべきなのか?
免許返納については、親本人の思いや生活環境、子どもの不安、地域社会に与える影響など、さまざまな要因が絡んできて、悩ましい問題です。筆者は、「老若男女にかかわらず、身体的、認知機能的に安全運転が難しい人は、免許を返納すべき」だと考えています。
必ずしも「高齢者の運転=危険」とは限りませんが、警察庁のデータを詳しく見ていくと、若い人と比べて高齢者は「短い距離を短時間運転するだけで、死亡事故を起こすリスクが高い」ことが明らかです。
コストや体制などの問題から、全ドライバーに対して免許更新時のテストを厳格化するのが難しいのであれば、危険度が高い高齢ドライバーに対してはしっかりとテストを行い、一定基準に満たない人に対して返納を促すのは当然ではないでしょうか。
逆に言えば、安全運転がしっかりできているのであれば、高齢であっても免許を返納する必要はないと思います。
親が免許返納をイヤがる主な3つの理由と対策
高齢の親が免許返納をイヤがる主な理由3つについて、返納を促すための対策をまとめてみました。親のタイプを見極めて、早い段階から少しずつ布石を打っておくと、いざというときの反応が変わってくるはずです。
返納をイヤがる理由1:運転することが、家族の中での自分の役割だと考えている。
本人に運転以外の役割を与え、少し大げさに感謝する習慣をつけましょう。新聞の取り込みや庭の手入れ、ペットの散歩など、ごく簡単なことでもOKです。運転以外の価値を家族から認めてもらうことで承認欲求が満たされ、日常的にも心のゆとりが生まれるようになります。
返納をイヤがる理由2:買い物や通院など、運転しないと生活が不便になってしまう。
まだ体が元気な状態であれば、電動サポート付き自転車をプレゼントするのがオススメ。健康作りを兼ねて買い物や通院ができるようになります。また、シルバー人材センターに依頼すれば、1時間あたり1000円~1500円で買い物を代行してもらうことが可能。ネット通販の活用や、子どもが買い物を肩代わりするといった方法も有効ですね。
自治体にもよりますが公共交通機関の優待や、タクシーの割引を利用できるケースもあります。
返納をイヤがる理由3:ドライブだけが唯一の趣味。
地域の老人会への参加、デイサービスの活用、サブスクでの映画鑑賞など、子どもから親を誘導して、別の趣味を見つけてあげるのが一番だと思います。楽しみを取り上げるだけでなく、何かを引き換えに提供することも考えましょう。親子で同じ趣味を楽しむことができれば、会話の幅も広がり、コミュニケーションも取りやすくなるはずです。
横井 孝治プロフィール
両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。(文:横井 孝治(介護アドバイザー))
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