永瀬廉主演の『よめぼく』も話題。もう“お涙ちょうだい”なんて言わせない「余命宣告」映画の誠実さ
オールアバウト / 2024年6月29日 20時35分
![永瀬廉主演の『よめぼく』も話題。もう“お涙ちょうだい”なんて言わせない「余命宣告」映画の誠実さ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/allabout/allabout_108756_0-small.jpg)
Netflixで配信中の『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』と、劇場公開中の『ディア・ファミリー』、どちらも「余命宣告もの」映画ですが、決して「泣かせる」ことが主題ではない、優秀な映画である理由を解説しましょう。(サムネイル画像出典:Netflix)
「余命宣告もの」の映画と聞いて、斜に構えたり、苦笑したり、冷めてしまう大人は少なくはないと思います。
「若者に人気のジャンルなのは分かっているけど、現実に苦しんでいる人もいる病気を、“泣ける手段”として安易に扱っているのではないか」と疑う人もいるでしょうし、実際の本編を見るとまさにその不誠実さを感じてしまう作品が、過去にあったことも事実です。
しかし、余命宣告ものの映画には、もちろん優れた作品もたくさんあります。事実、筆者は見る前の印象で「どうせ“お涙ちょうだい”なんでしょう?」とたかをくくってしまったものの、作り手のコメントを見ると「これはそういう映画じゃないぞ」と思い直し、さらに本編を見ると「本当にいい作品でした!疑ってごめんなさい!」と謝りたくなった映画があるのです。
ここでは、その直近の2本、Netflixで6月27日より配信中の『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』と、6月14日より劇場公開中の『ディア・ファミリー』を中心に紹介しましょう。どちらも「泣ける」ことよりも、「誠実な」「面白い」作品になっていることを推したいのです。
『よめぼく』は「献身的な愛情」を示す「明るい」内容に
同名小説を映画化した『余命一年の僕が、余命半年の君と出会った話。』、通称『よめぼく』のタイトルを見て、筆者は短絡的に「余命をダブルで設定して2倍泣かせようとする安易な算段だな」と思ってしまいました(本当にごめんなさい)。しかしながら、三木孝浩監督と、春名慶プロデューサーが寄せたコメントを見ると、「少なくとも“死んじゃってかわいそう”な安易な内容ではないな」と、襟を正すことができたのです。
「三木孝浩監督 コメント
この作品は命の短さ、儚さを悲しむのではなく、たとえ一瞬でも誰かを心から想えたことそのものが愛おしく、恋の痛み苦しみさえも生きた証として人生の輝きになることを感じられるような物語として描きました。素敵なキャストの皆さんが全身全霊で想いを注いだこの作品を観て、少しでも多くの方が胸焦がしていただけたら嬉しいです。」
「プロデュース 春名慶 コメント
ふたつの命が喪われる物語ですが、悲しい結末は用意していません。残された時間を惜しげもなく、相手のために費やす秋人と春奈。最後の命を燃やし、溶け合っていく姿は誰よりも輝いています。この映画を通じて、当たり前だけどかけがえのない日常の尊さがどうか世界に伝わりますように。」
これらの言葉通り、本作は余命が宣告されたことの「悲しさ」ばかりをクローズアップしておらず、2人の主人公の「献身的な愛情」が主題といっていい内容でした。劇中にはクスッと笑えるシーンもあり、死の悲しさで泣かせようとするウェットな演出や作劇も抑えめで、実は「明るい」内容でもあったのです。
『よめぼく』の先が気になる面白さ
興味を引くのは、「余命1年の主人公が、余命半年のヒロインに自身の病気のことは内緒にしている」「主人公は苦しんで死ぬより前に“楽に死にたい”とさえ思うが、ヒロインはむしろ天国に行くことを“楽しみ”とさえ言う」とことです。始まりから言葉だけに頼らず、その対比構造を病院の屋上の画(え)で見せているのも秀逸でした。さらに、「いつ主人公が自分も余命わずかだと打ち明けるのか」「なぜヒロインは死ぬことを楽しみだと言うのか」が物語のフックとなり先が気になります。その謎が少しずつ明かされる過程、花言葉の意味、そして終盤のサプライズなど、エンタメ性を高める工夫の数々に感心しますし、隠された切ない思いにも胸を打たれるのです。
『よめぼく』の「同志」である2人の希望の物語
劇中で主人公はヒロインのことを「同志」と呼んでいます。(余命わずかでも)死に対する認識は正反対なのに、そう思える理由の1つは、2人ともが「絵」に対するひたむきな思いを持っているから。それでいて、病床に伏せって外出がほとんどできないヒロインのために、主人公が奔走する様もとても感情移入しやすく応援できるものでした。しかも、主たるメッセージは前述した作り手のコメントにもある通り、「恋の痛み苦しみさえも生きた証として人生の輝きになる」や「当たり前だけどかけがえのない日常の尊さ」です。同じ目的や趣味を持つ人を「同志」と思い、その人に献身的に尽くそうとすることもそうですが、これらもまた余命を宣告された人に限っていない学びであり、希望でもあるしょう。
劇中で「悪運引き当てる天才」「陰キャ」などとなじられながらも、優しさでいっぱいなことが伝わる永瀬廉、明るい振る舞いから決して小さくはない内面の悲しさを伺わせる出口夏希、そんな2人の親友(悪友?)でツンデレ気質な横田真悠など、若手キャストの輝きもまたまぶしく尊いものがあります。
悲しい涙を流すのではなく、見た後は少し元気になれる、はたまた大切にしていた人のことを思い出したりもできる。そんな素朴ともいえる、確かな感動のある作品に、『よめぼく』は仕上がっていたのです。
『ディア・ファミリー』でとことんこだわったリアリティー
『ディア・ファミリー』はノンフィクション作品を原作とした、世界中で17万人もの命を救った「IABP(大動脈内バルーンパンピング)」の誕生秘話を描く映画です。週末興行成績は2週連続で1位とヒットしており、記事執筆時点で映画.comでは4.3点、Filmarksでは4.2点という高評価の口コミも動員につながっているのは間違いないでしょう。こちらも作り手のコメントから、決して安易な内容ではないことが伝わります。月川翔監督は6月11日掲載の「ひとシネマ」のインタビュー記事で、「命が尽きて悲しい物語ではなく、家族が目標を達成して、今も救われる人がいることに感動させる映画にしたかった」と、こちらも『よめぼく』と同様に「悲しい内容ではない」ことを推しているのです。
さらに、月川翔監督は「作り物と思われたら観客の気持ちが離れてしまう」と覚悟し、実際に人工心臓を作った父親や別の技術者に「あきれられるほど根掘り葉掘り聞いた」などと、リアリティーにこだわったことを語っています。しかも、劇中では40年以上前の町並みや風俗が忠実に再現されており、美術や小道具などの作り込みで「現実にあったこと」の説得力もこれ以上なく高めているのです。
NHKの『プロジェクトX』的でもある面白さ
何より推したいのは、“仕事映画”として面白いことです。人工心臓を作るためのノウハウ、かかる費用と時間、保守的な医学界との衝突など、『プロジェクトX〜挑戦者たち』(NHK総合)的でもある「不可能を可能にする」ための奮闘に惹きつけられます。さらに、晩年の主人公から過去を振り返る「回想形式」であることが効いています。ある意味では「余命10年の娘のために人工心臓を作ろうとしたものの、実際に作られたのはIABPである」という結末を、はじめから意図的にネタバラシする構造ともいえます。それを持って「人生をかけた目標や夢が潰える」という、余命宣告とはまた別種の絶望を容赦なく描く物語といっていいでしょう。
『ディア・ファミリー』は、絶望からの「再起」の物語
その絶望からの「再起」の物語の面白さと尊さを土台とし、ちょっとしたセリフや行動が後と呼応する脚本の工夫、主演の大泉洋を筆頭とする役者それぞれの説得力、ウェットな表現を抑えて2時間以内でテンポよくまとめた作劇と演出など、やはり「面白い」と思えるポイントばかり。予備知識がなくても楽しめるエンタメとして、ここまで万人におすすめできる映画はなかなかないと思えるほどです。余談ですが、筆者は正直に言って、予告編を見た時点では本作を見る気が全く起こりませんでした。その理由は編集や切り出したセリフや演出から、本編も「泣け〜泣け〜」と言わんばかりの雰囲気の映画なんだろうなと、思ってしまったからです。
もちろん、それも「泣ける」映画を求める多くの観客へ訴求するための予告編の作りとしては正解なのでしょうが、月川翔監督のコメントにもある通り、本編はやはり作り手の誠実さが前面に押し出された、「死で泣かせるような物語ではない」ことも知ってほしいのです。
余命宣告ものではない、現在公開中のアニメ映画との共通点も
この『よめぼく』と『ディア・ファミリー』を見て、「余命宣告ものというジャンルで呼ぶと、作品の主題を矮小(わいしょう)化させてしまうのかもしれない」と反省したところもあります。何しろ、どちらもが「他の価値観を知る」物語でもあり、さらには「夢に向かって努力した先」も描いているからです。それもまた余命宣告をされた人に限っていない、多くの人が経験する事柄でしょう。しかも、実際に余命宣告ものではない、現在公開中のアニメ映画『数分間のエールを』『トラペジウム』『ルックバック』でも、それらは一致しているのです。
特に、『ディア・ファミリー』と『トラペジウム』は「無謀にも思える目標に周りを巻き込む」話の骨格が似ており、主人公が絶望した後に投げかけられる「質問」が、両者でほぼ一致していたことにも驚きました。(余談ですが、『トラペジウム』は熱狂的な支持を得て多数のリピーターを生んでおり、公開から2カ月近く経った今なお上映中で、7月4日から公開される劇場もあります)
他にも、2024年5月より公開されたロリータファッションの(それに限らない)趣味への優しい視点もある『ハピネス』、2021年公開の『余命10年』も実話をベースにきれい事や安易な解決に頼らず、不治の病への葛藤も誠実に描かれた秀作でした。
やはり、余命宣告ものという単純なジャンル分けだけでは決して収まらない、これらの映画の魅力を実際に見て知ってほしいです。涙を流す、作品として楽しむ目的以外でも、現実で前向きに生きるためのヒントも得られるかもしれませんよ。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
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