【年金繰上げ受給体験談】60歳から年金を繰上げ受給「一生24%減額となりますが、迷いはなかった」
オールアバウト / 2024年7月3日 18時30分
「繰下げ受給」と違い、あまり話題にならない「繰上げ受給」。それを選択した人は、どのような状況、理由だったのでしょうか。繰上げ受給を検討している人のヒントになるよう、実際に選択した人に、根掘り葉掘り聞いてみました。
話題は「繰下げ受給」、人気は「繰上げ受給」!?
公的年金の「繰下げ受給」は、年金の受け取りを、本来の満65歳から繰下げる(先に延ばす)ことで、年金の受給額がアップします。そのため、「老後サバイバル術」といった位置付けで、ネットや雑誌の記事でよく取り上げられています。また、令和4年度から繰下げ受給の上限年齢を70歳から75歳(昭和27年4月2日以降生まれの人)に引き上げられました。国も、この制度を推しているわけです。ところが、実際に繰下げ受給を選択している人は、決して多くありません。令和4年度「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(第1号厚生年金保険の受給権者を含む)の受給権者のうち、繰下げ受給を選択している人は、わずか2.0%。
一方、65歳より受給開始年齢を早める「繰上げ受給」は、繰下げ受給ほど、話題にならず、強く推している人もメディアで見かけませんが、先の調査では10.8%と、5倍以上も多いのです。
では、あまり実態が見えてこない「繰上げ受給」、それを選択した人は、どのような理由、経緯をたどったのでしょうか。
そして、世帯収入がなくなった……
今回は、60歳で年金を繰上げした「香港」さん(ペンネーム)に登場していただきます。基本データ
・香港さん/仮名(60歳・無職)・妻(59歳・無職)
●収入
・公的年金(本人):6万円
・企業年金(本人):2万円
・公的年金(妻):6万円(※予定)
●支出
・毎月の基本生活費:月14万円
・生活費以外の支出:年間20万円
●金融資産
・貯蓄:1600万円
香港さんが、60歳になったら公的年金を繰上げ受給しようと決めたのは、56歳のとき。原因不明の体調不良となり、それ以降、働くことが難しくなったためです。
それ以降、生活費は奥様のパート収入と貯蓄の取り崩しにより捻出していましたが、しばらくして奥様も腰痛を悪化させ、仕事を辞めざるを得なくなることに。結果、貯蓄から毎月14万円(税金、社会保険料、車検費用等含む)を生活費として取り崩すことになります。
世帯の支出は基本生活費に加えて、予備費も計上して年間200万円程度に抑えています。それでも、公的年金が支給となる65歳はまだ先の話。せっかく用意した老後資金も、底を尽くか、大半が目減りするリスクが出てきました。「香港」さんにとって、繰上げ受給の選択は必然だったと言えます。
もちろん、繰上げ受給は、従来の受給額から繰り上げた月数に応じて減額されます。減額率は1カ月あたり0.4%。2022年3月までは減額率0.5%でしたから、そこは多少「追い風」でしたが、「香港」さんは最大幅の5年間の繰上げですから、0.4%×60カ月=24%の減額となります。
「一生24%減額となりますが、迷いはなかったです。妻も私と同様に、繰上げ受給により60歳から年金を受け取るよう申請しました。ともに長生きしても、不足分は貯蓄でカバーできると、試算しましたので」
年金の繰上返済による受給額は74万5389円、月割りにすると6万2115円。事前に年金事務所で試算をしてもらいました。その内訳は、以下のとおりです。
●国民年金
加入期間=8カ月、半額免除28カ月、全額免除81カ月
基本年金額=71万531円
減算額=17万527円
繰上げ受給による国民年金額=54万4円
●厚生年金保険
加入期間=385カ月
基本年金額=27万244円
減算額=6万4859円
繰上げ受給による厚生年金額=20万5385円
「年金額は、やはり実際に目にすると、少ないと感じました。ただ、年金事務所に行って、自分には企業年金があると知らされて。すぐに受給の申請をしました」
企業年金の年金額は月2万円ほど。奥様の公的年金の繰上げ受給額は月6万円とのことなので、合わせて世帯収入は月14万円。毎月の生活費は、ほぼ年金だけでカバーできる見通しが立ったことになります。
繰上げ受給の判断は損益分岐点だけでは計れない!?
繰上げ受給のメリットは、もちろん、受給開始となる年齢を60歳から65歳になるまでの間に早めることできる点です。一方で、最大のデメリットは、早めれば早めるほど、従来の受給額(満65歳から受け取る額)から目減りすることです。そこでよく、判断材料とされるのが「損益分岐点」です。早めにもらうかわりに、金額はその分少ない。そうなると必ず、早めにもらわない人に年金の受給総額で逆転されます。
「香港」さんのように、年金を満60歳から受け取ると、額面ベースでは81歳の手前で、従来の満65歳から受け取っている人に年金の受給総額が抜かれます。
ただし、受給額が増えれば、税金や社会保険料がアップする可能性があります。したがって、手取り額ベースでは、損益分岐点はさらに1~2年延びることになるでしょう。
しかし、60歳の平均余命は男性23.59年、女性28.84年(厚生労働省「令和4年・簡易生命表」)ですから、手取りベースでも、受給総額は夫婦とも、65歳から受け取るより減る可能性が高いことになります。
「それでも、結果的に足りるなら、早めに受給したかったですし、今後ずっと年金制度が維持されるのかという不安もありました。また、2025年に国民年金保険料の納付が65歳まで延長されたら、さらに保険料負担が増えたり、繰上げ受給の年齢が引き上げられるかもしれない。そう考えると、繰上げ受給を選択して良かったと思います」
やはり大事なのは老後資金と家計管理
繰上げ受給した良かったという思いは、初めて年金が振り込まれた日に「何だかうれしくて、夫婦で外食してしまいました」というコメントからも伝わります。同時に、無駄のない家計管理をこれまで以上に実践し、合わせて、2016年に取得したキャリアコンサルタントの資格を活かして、体調が回復したらまた働きたいと考えているとのこと。
繰上げ受給が老後の不安=ストレスの解消につながるなら、それは資金面だけでなく、健康面でもプラスの効果があると言えるかもしれません。
また、今後の目標は、ご夫婦で香港旅行。以前、仕事で赴任して3年間を過ごし、いずれはロングステイと思い続けた地です。そういった思いも、生活のモチベーションになっています。
最後に、年金の繰上げ受給を考えている人に、「香港」さんから以下のアドバイスをいただきました。
「長生きすれば受給総額は必ず減りますので、繰上げ受給をするなら、それでも貯蓄でまかなえるだけの老後資金が必要です。また、事前に、減額となる年金の見込額で生活ができるかどうか、実際に試してみることも大切だと思います」
取材・文/清水京武
(文:あるじゃん 編集部)
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