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ドラマ版『ブラック・ジャック』は困惑の実写化? “女性化”が「許せない」「納得」それぞれの理由

オールアバウト / 2024年7月1日 20時15分

ドラマ版『ブラック・ジャック』は困惑の実写化? “女性化”が「許せない」「納得」それぞれの理由

実写ドラマ版『ブラック・ジャック』(テレビ朝日系)は放送前のニュースはもちろん、本編を見た人からも賛否両論が噴出しました。ドクター・キリコの“女性化”を筆頭とした注目ポイントをまとめて解説しましょう。(サムネイル画像出典:テレビ朝日公式Webサイト)

6月30日に実写ドラマ版『ブラック・ジャック』(テレビ朝日系)が放送されました。同作は放送前、高橋一生がブラック・ジャック役を務める発表には喜びの声が相次いだ一方、ライバルであるドクター・キリコの“女性化”が炎上してしまいました。

褒める意見もある一方、多く見られる感想は「困惑」?

そして、実際にドラマ本編を見た人からの評価は、やはりというべきか賛否両論。SNS上などには、面白かったと素直に褒める人もいれば、良いところと悪いところの両方を挙げる人、はたまた原作ファンからの強い怒りの声も見られる……というのが現状です。

個人的な感想を先に述べると、実写ドラマならではの工夫がたくさんあって面白かったけど、“変”なところも多くて困惑してしまったのが正直なところです。実際にX(旧Twitter)を見ても、ドクター・キリコの改変はもちろん、他のポイントでも「なんでこんなことに?」と疑問を抱いている人が多くいる印象でした。

個人的にはその困惑も含めて楽しく見られた、良いところもたくさんあると思えた漫画の実写化作品でしたが、放送前の発表と本編それぞれで多くの批判が届いた事実は、作り手が受け止めなければならないでしょう。

事実、主演の高橋一生は実写ドラマ化決定のニュースの時点で「厳しく観ていただきたい」などとコメントしていますし、人物デザイン監修・衣装デザインを担当した柘植伊佐夫の公式Xでは放送後に「国民的な名作ですのでさまざまな思いやご意見があると思います。そのすべてが愛情だと感じております」と投稿されています。この言葉通り、受け手の正直な(もちろん常識の範囲内での)批判が届くことも、作り手は覚悟しているのです。 ここでは実写ドラマ版『ブラック・ジャック』の特徴と魅力、そして賛否両論を呼んだポイントについて解説していきましょう。本編のネタバレに多分に触れているので、鑑賞後にお読みください。

※以下からは、実写ドラマ版『ブラック・ジャック』の結末を含むネタバレに触れています。鑑賞後にお読みください。また、原作の51話『ふたりの黒い医者』や46話『ちぢむ!』の結末も記しています。

原作のエピソードのテクニカルな再構成

個人的にまず称賛したいのは、原作の複数のエピソードの再構成がテクニカルで面白いことでした。特に大きく抽出されたのは、以下の5つです。

1話『医者はどこだ!』
31話『獅子面病』
51話『ふたりの黒い医者』
104話『タイムアウト』
140話『落としもの』

感心したのは、それぞれの要素が“呼応”していたり、先が気になるミステリー的な“引っ張り”も備えていたりするなど、長編の映像作品としての起承転結がしっかりと作られていること。

エピソードをただ並べるだけでは散漫になってしまいそうなところを、実業家の「医者はどこだ!」を基点として、「善良な研修医が親友の自殺の知らせに納得できず、そのことに関わっていそうなブラック・ジャックに近づく」という大きな物語の軸を用意して、他の原作のエピソードを絡めていくプロットは巧みでした。

事実、原作者である手塚治虫の公式Webサイトには、脚本家の森下佳子さんが、今回の1本の実写ドラマとしてまとめるにあたって現在読むことができる『ブラック・ジャック』の全240エピソードをリストアップし、丹念に精査したうえで何本かのプロットを作成、そこから最高の形を模索したと記されています。

実は、2005年のアニメ映画『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』も、ドクター・キリコをメインキャラクターに据えて、『ふたりの黒い医者』『タイムアウト』を含む複数のエピソードを再構成するという、今回のドラマと似たコンセプトでしたが、そちらに比べ、今回の方がエピソードの選定や構成がより洗練されている印象を得ました。合わせて見ても面白いでしょう。

ただ、その今回の実写版ドラマ版の構成も「ブラック・ジャックを悪人のようにミスリードしているけど、見る側は良い人だと分かりきっている」「原作のエピソードのツギハギに思えたから、1本のオリジナルストーリーの方が見たかった」という否定的な声も上がっています。これは人それぞれの好みによるところが大きいでしょう。

“女性化”の意味は感じられたけど……?

さらに感心したのは、ドクター・キリコの“女性化”に、物語上の意味合いが十分に感じられたことでした。“獅子面病”を患い、キレイゴトをいくら並べ立ても絶望から逃れられない女性の苦しみを聞き、「ごめんなさい。辛い事を言わせて」とドクター・キリコが抱き寄せる様は、なるほど患者と同じ女性だからこそ、大きな説得力が生まれていると思えたからです。

朝日新聞に掲載された、飯田サヤカプロデューサーへのインタビューでは、今回のドクター・キリコについて「海外で安楽死をサポートする団体には、なぜか女性の姿が多い印象があった」「脚本の森下佳子さんと相談しているうち、『優しい女神』のような存在が、苦しむ人のそばにいて死へと導くのかもしれない、と想像するようになった」と、改変の理由が語られており、その言葉通りの方向性を目指したキャラクターだと理解できます。

ただし、その改変が原作ファンからの批判を大いに浴びています。例えば、ドクター・キリコは原作の181話『小うるさい自殺者』で「自殺の手伝いなどできるかっ」などと“自殺ほう助”を否定していますし、他エピソードでも「元軍医で死ねないケガ人をウンザリするほど見た」「安楽死を選択肢には入れているが、一方で『命が助かるに越したことはない』とも考えている」キャラクターであるので、やはり今回のように「容姿への絶望(と夫との関係)による自殺願望を理由に安楽死をさせようとする」のは「解釈違い」だと怒る人も多いのです。

さらに批判を浴びているのは、「せっかく助けた妻と、彼女に対して身体も捧げると言った夫が共に事故で死んでしまう」という後味の悪い結末に対して、ドクター・キリコが「バカみたい私たち、あんなにジタバタして、なんだったの?」と「グチをこぼす」こと。原作の『ふたりの黒い医者』のラストで、ドクター・キリコは「生きものは死ぬ時には自然に死ぬもんだ、それを人間だけが無理に生きさせようとする」と語った直後に、そのイデオロギーの証明のように「高笑い」をしていたはずなのに、それとは全く違う反応にガッカリしてしまう人がいるのも当然でしょう。

ただ、筆者個人としては、劇中でドクター・キリコが「やめておきましょう、それはご夫婦でちゃんと話せば解決できることです」などと「患者の意思を聞いた上で安楽死をやめる」選択をしようとしたのは、なかなか考えられたバランスだったと思います。原作のドクター・キリコも「大切な人をもう苦しませたくない」患者の意思を聞いていますし、「患者の気持ちに寄り添う」「絶対に安楽死を勧めるわけではない」「しかしもっと尊重するのは患者の意思である」というのは、現代的な(もちろん日本ではまだ違法である)安楽死へ議論にも近いものだと思えたのです。

また、今回のドクター・キリコも「放っておけば死にゆく運命の個体を、力ずくで生き返らせるのは人間だけよね」と言うなど、原作にあった信念そのものは、十分に描かれていました。その見た目の髪のボリュームが過剰なことも気になりましたが、石橋静河は求められるだけの演技を見せていたとも思います。

琵琶丸はなぜミュージシャンに?

そんな風にドクター・キリコの改変で存分に賛否が分かれる実写ドラマ版『ブラックジャック』ですが、それ以上に“変”と思ってしまったのが、琵琶丸というキャラクター。原作では盲目の鍼師でしたが、今回はなぜか「ミュージシャン」という設定で、大胆すぎる改変がされているのです。彼が友人のために作った歌が、今回の実質的な主人公とその友人の心のよりどころになっているという方向性は分かりますし、演じた竹原ピストルの歌と存在感は魅力的でしたが、それにしたって妙な雰囲気に満ちていすぎていて困惑してしまったのです。

他にも、ブラック・ジャックが「(助けられなかった人の骨の前で)とどのつまり、私は神になりたい」と言うことも批判を浴びました。彼は原作の46話『ちぢむ!』で「神様とやら! あなたは残酷だぞ!」と、むしろ神が用意した運命(理不尽)に対して憤慨する立場だったのに、(たとえ冗談めかした言い方だとしても)その神になりたいと口にするのもまた、解釈違いだと怒る人がいるのももっともです。

他にも、荒唐無稽な設定や出来事に対して「まるで漫画だな」などといったメタフィクション的な言及も好き嫌いが分かれるかもしれません。個人的には「SNS全盛のご時世に闇医者なんて存在できないでしょ」的なツッコミや、原作者の手塚治虫が医者を志していた(医師免許を持っていた)事実への言及も面白いとは思ったのですが……。

やっぱり高橋一生のブラック・ジャックは良かった

そういった不満の一方で、高橋一生のブラック・ジャックの存在感や、ピノコ役の永尾柚乃の「ちゃんと見た目と口調が子ども(だからこそ実は18歳だというギャップが際立つ)」であるたたずまいなど、キャスト陣が称賛されているのも事実。個人的には、妻に対してクレイジーなまでの愛情を持つ宇野祥平が、同じく城定秀夫監督作『放課後アングラーライフ』に似たかわいらしさがあって大好きでした。

高橋一生のブラック・ジャックにしても、評判を呼んだ『岸辺露伴は動かない』(NHK)に似過ぎているという意見もありますが、「お前さん」という呼び方が板についていて、時おりアニメ版で声優を務めた大塚明夫の声質に近い印象さえ持ちました。また、ピノコに「先生だって見た目のことで嫌な思いしたことあるでしょ」と問われて、「いやぁ、良い思い出しかないなあ」とにこやかに笑って返す様などは大好きでした(原作の92話『友よいずこ』を読めばその良い思い出が何かが分かります)。「あの死神の薬が特効薬だったかもしれませんね」などと「すっとぼけた」言動も(理屈はむちゃくちゃですが)原作のブラック・ジャックらしくて良かったと思えるのです。

そんなわけで、やはり良いところも悪いところ……というより、やっぱり困惑するポイントが多くあった実写ドラマ版『ブラック・ジャック』でしたが、文句を含めて語ることもまた楽しいですし、その批判があってこそ、これからの漫画の実写映画化作品がよりよくなるきっかけになるとも思えます。今回は単発ドラマでしたが、第2弾や、今後の他の手塚治虫作品の実写化作品にも期待しています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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