Q.「気力や生きがいで余命が伸びることはありますか?」【脳科学者が解説】
オールアバウト / 2024年7月14日 20時45分
「数年前に余命半年と言われたが、今も元気に過ごせている」といった体験談を聞くことは珍しくありません。気力や生きがいが余命に影響することはあるのか、科学的な報告を挙げながら考えてみましょう。
Q. 「気力や生きがい」で余命が伸びることはありますか?
Q.「数年前に余命半年と宣告されたのに、今も元気に過ごしている知人がいます。一時はとても体調が悪かったそうなのですが、人生も残りわずかだからとやりたかった趣味に没頭して、毎日を楽しんで過ごすと決めてから、がんの進行が止まり、実際に腫瘍が小さくなったというのです。科学的に、腫瘍が小さくなることはあるのでしょうか? やる気や生きがいだけで余命が伸びることがあるのか、気になります」
A. 免疫機能はストレスに左右されるため、科学的にもありえることです
気の持ちようだけで、必ずしも病気を予防したり治したりすることができるとは言えません。しかし心の状態によって、病気の症状や進行が大きく左右されることは実際にあり、それを裏付ける科学的証拠もあります。病気と闘うときはストレスが高まるものですが、なるべくストレスを軽くする心の状態であることも、大切なのです。近年の研究では、私たちの日常生活で生じるストレスが、免疫を担う白血球のはたらきを低下させることが明らかにされています(Nature 607: 578–584, 2022)。逆に考えれば、ストレスを軽減することで、免疫力を高く保つことができるということです。
がんの新しい治療法として注目されている「免疫療法」は、もともと私たちの体が持ち合わせている免疫力を高めることでがんの進行を食い止めるものです。たとえ、がん細胞ができたとしても、白血球がそれを見つけて攻撃することができれば、がんの転移や進行を防ぐことが期待できます。
2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑博士は、免疫細胞の表面に「PD-1」という新奇の分子を発見しました。その後の研究で、このPD-1は、免疫が働くのを抑える「ブレーキ」の役割を担っており、がん細胞が免疫による攻撃を逃れるためにも利用されていることがわかりました。
さらには、このPD-1に対する抗体薬(※2014年に小野薬品工業から発売された「オプジーボ」)を使って、PD-1によるブレーキをなくすと、がん細胞が免疫細胞による攻撃を受けやすくなり、がん細胞が「消える」こともわかりました。
ストレスを軽減する方法は人によってさまざまですが、患者さんご本人が明るく前向きになれるものを持つことや、そういられる環境は大切です。医師から伝えられた余命よりもはるかに長い人生を送られる方も少なくありません。
もちろん、病気が非常に難しい状態にあり、ご本人が十分な気力を持たれ、周りが懸命にサポートをされていたとしても、残念ながら抗えないこともあるでしょう。
しかし「腫瘍が小さくなった」「病気が治った」といった結果が得られなかったとしても、毎日をただ悲観に暮れて過ごすのではなく、前向きに生きがいを持って過ごされた方が、ご本人も周りも満たされた時間になるのではないでしょうか。それも同じく大事なことではないかと、筆者は思います。
阿部 和穂プロフィール
薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))
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