映画『キングダム 大将軍の帰還』は大沢たかおがMVP。それでも、さすがに気になる“テンポの鈍重さ”
オールアバウト / 2024年7月17日 21時5分
![映画『キングダム 大将軍の帰還』は大沢たかおがMVP。それでも、さすがに気になる“テンポの鈍重さ”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/allabout/allabout_109828_0-small.jpg)
公開中の映画『キングダム 大将軍の帰還』は絶賛で迎えられ、大ヒットもしています。ここでは今回の実質上主役と言っていい大沢たかおを褒め称えると共に、さすがに「テンポが鈍重すぎる」問題についても記しましょう。
『キングダム 大将軍の帰還』が7月12日より劇場公開中です。2019年から続く実写映画『キングダム』シリーズの4作目であり、最終章と銘打たれている本作は、公開からわずか4日間で興行収入22億円を突破し、なんと邦画実写歴代No.1のオープニング記録(※金土日3日間興収・興行通信社調べ)を達成。前3作に引き続き興行収入50億円超え、いや100億超えの成績も期待されています。
アクションの迫力やスケールの大きさも含め、現代の日本映画および漫画の実写映画化作品の代表的な存在であり、興行的にも批評的にも成功作であることに異論はありません。今回は特に絶賛の声が多く、記事執筆時点で映画.comおよびFilmarksでは4.3点と、シリーズ最高のスコアを記録しています。
全体的に「テンポが鈍重」で、間延び感がある?
しかし、筆者個人としては不満も大きい4作目でした。端的にいえば「さすがにテンポが鈍重すぎる」という問題があり、単純に間延びしているというだけでなく、物語上にもよくない影響を与えていて、シリーズ最後の作品としてもかなり歪(いびつ)なバランスになってしまったと思うのです。とはいえ、スタッフとキャストが一丸となり、最上級のエンターテインメントを届けようとしたことも間違いありません。ここでは、まずネタバレなしで称賛ポイントをあげ、2ページからは不満に感じたポイントを記していきます。
大沢たかおの説得力と、吉川晃司との圧巻の一騎打ち
実写映画『キングダム』シリーズで特に称賛されているのは俳優陣の演技力、特に4作全てに登場している大沢たかおの力が大きかったと思います。王騎(おうき)は原作からして巨大な体躯(たいく)と冷静沈着な性格を併せ持ち、「ンフ」という独特の笑い方もする、まさに“漫画的”とさえいえる特異なキャラクターです。下手に演じてしまうと悪い意味でギャグにもなってしまいそうなところを、大沢たかおその人らしさも生かした穏やかだけど威圧感もある話し方、3作目『キングダム 運命の炎』からは90キロ超にまでパンプアップした体で説得力を持たせた、俳優としての挑戦と努力は、どれだけ称賛しても褒めたりません。
しかも、今回は因縁の相手である、吉川晃司演じるほう煖(ほうけん)との文字通りの「一騎打ち」が描かれます。劇場パンフレットでは、大沢たかおは「ぶつかり合って、体がボロボロになって、最終的に歩けなくなるほど」と撮影の壮絶さを語っているほか、吉川晃司も(大沢たかおに負けないよう)体重を増やして「山にこもって大きな武器を自由自在に操れるようにずっと練習した」ことも語られており、この2人の最大限の努力があってこそ、圧巻のアクションが撮られたことがうかがえます。
これまでの『キングダム』シリーズでは、戦争における軍と軍、つまりは集団同士の戦いが描かれることも多かったのですが、今回ではタイトルさながらの「大将軍」による「個」の戦いに重点が置かれています。これまでとの差別化が図られているだけでなく、リアルタイムで5年間も追い続けていた(大沢たかお自身は8年間も向かい続けた)印象深いキャラクターの「背負っているもの」が極に達するため、なるほど今回で「最終章」と銘打ってクライマックスを迎えることも納得できたのです。
そんなふうに「『キングダム』シリーズのMVPは間違いなく大沢たかお」「吉川晃司との大迫力の一騎打ちにも感動した」ことを前提として……ここからはネガティブ寄りの批評となることをご容赦ください。また、映画本編のネタバレにも大いに触れるため、鑑賞後にお読みください。
※以下からは『キングダム 大将軍の帰還』の結末も含むネタバレに触れています。鑑賞後にお読みください。
序盤のシーンで50分もかかる冗長さ
本作の上映時間は2時間25分と、『キングダム』シリーズで最長です。映画冒頭での、山崎賢人(崎はたつさき)演じる信と、清野菜名演じる羌かいがほう煖に立ち向かう戦いは見応えがありましたが、鈍重に感じてしまったのは、その後の主人公たち飛信隊(ひしんたい)が逃げ惑う一連のシーン。なんとここだけで(前シリーズのおさらい映像も含めて)50分近くもかかっているのです。中でも問題なのは、三浦貴大演じる尾到(びとう)が亡くなる一連のシーンです。寝転んで信へ「(大)将軍になれる」と激励する様は確かに感動的なのですが、会話のテンポがかなりゆっくりな上に、死んだかと思いきや「なんつってな」とだましたりもするのです。これらは原作にもあったシーンなのですが、自分のテンポで読める数ページの原作とは違い、映画ではかなり間延びした印象を受けました。
他にも、その尾到を思う故郷の婚約者の描写を挟み、その後も信に担がれた尾到の死を仲間が弔う場面もあります。また、王騎に「飛信隊が一夜にして半分以下に減ってしまった」ことを指摘されると、信が「今は深く考えないようにしてる。そうしねえと、この場にうずくまって、足が前に出せねえ気がするんだ。だけど、死んだ奴らはそんなこと望んでねえ、絶対に」と答えたりもしています。
確かに尾到の最期の会話は重要でしょう。しかし、他にも死んだ者がたくさんいるはずなのに、1人の死にかける描写が長すぎることに、バランスの悪さを感じます。また、原作ではほう煖に惨殺された仲間の死体も多く映っていたのですが、仕方ないとはいえ「人が吹っ飛ぶ」といった全年齢指定で収まる描写となった映画では、その残酷さも見えづらくなってしまいますし、多くの仲間の死を見据えてこその信の言葉も、かなり説得力に欠けているように思えたのです。
さらに、ほう煖の攻撃を受け血を吐くほどにダメージを受けたはずの信が、その後に普通に戦いに向かう様にも、実写映画では違和感を覚えました。荒唐無稽さもある戦いが繰り広げられる作品だからこそ、もう少し納得できる材料が欲しかったのです。
『THE FIRST SLAM DUNK』に近い回想の挟み方の問題
さらに、「終盤の回想が長い」ことも問題です。前作『キングダム 運命の炎』でも終盤での回想が長く感じてしまったのですが、今回は白眉となる王騎とほう煖の一騎打ちの最中で少しずつ語られるので、よりもどかしさを覚えた人は多かったのではないでしょうか。それでも、これはアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』に近い、回想を少しずつ挟んで「ここぞ」という現代での行動につなげる、爆発的な感情を届ける演出のため……と思っていると、そこでも疑問があります。
なぜなら、原作にはあったはずの、新木優子が演じる摎(きょう)が殺される瞬間が(戦場の様子はかろうじてあるものの)、直接的に描かれないからです。そのため、ここまで長く展開した回想が中途半端に終わったような、王騎と龐煖の因縁が途中でぶった斬られたような感覚があり、王騎が持つ憎しみにも素直に同調しにくかったのです。
また、その摎が昭王の娘だったという出自は、今回の映画単体では、必要な描写だったとは思えません。そちらはごく軽く示すにとどめて、王騎と摎の幼い頃からの「約束」を主体とした絆のほうに注力し、タイトにまとめたほうが良かったのではないでしょうか。
また、新木優子が腕が細すぎて将軍には見えない、衣装にもコスプレ感が出てしまっているという指摘もあり、それにも同意できるところもあります。個人的には、22年前から王騎の見た目がほとんど変わらず、新木優子が自身を「16歳」と自称するのも違和感がありました。
ただ、新木優子が数カ月間にわたって乗馬や殺陣を練習していたおかげもあってか、その凛としたたたずまいや目力には十分な説得力もあったと思います。
※以下からは、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』のネタバレにも触れています。ご注意ください。
原作に忠実だからこその「丁寧すぎる」印象
漫画の実写映画化作品に対して「原作に忠実かどうか」は1つの評価軸になり得ますが、『キングダム』シリーズはやはり「丁寧すぎる」印象を持ちました。これまでのシリーズでも「原作をなるべく省略せず、名場面をファンの期待に応える形で実写化する」意図を感じていて、それが評価の高さにも間違いなくつながってはいたのですが、今回はそれらが「さすがに冗長すぎる」印象へと変わってしまったのです。
また、今回が(まだ続きが作られるのかもしれませんが)「最終章」とされていることにもモヤモヤを感じます。
劇場パンフレットでは原作者の原泰久が「1作目を作った時に、王騎の最期までやりましょう」と夢のようにプロデューサーに語っていたことも記されていて、その通りにスタッフとキャストでやり遂げたこと、実際に1つの区切りがつけられたことは称賛したいですし、王騎の死をもっての「大将軍の帰還」というタイトルの回収も理にかなっています。
しかし、劇中では信の夢はまだ道半ばで、今回は吉沢亮演じるえい政は戦う場面はなく会話だけで、玉木宏演じる昌平君に至ってはほぼ顔見せ程度だったなど、中途半端なまま終わってしまった要素も数多くあるのも事実です。
印象としてかなり近いのは、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』です。こちらも「重要キャラクターの死で終わる」という、単体の映画としてみれば良くも悪くも「無念さ」という負の感情が残ってしまうものでしたが、「この先」を映像で見られるという期待はありますし、実際に『劇場版 鬼滅の刃 無限城編』の3部作の劇場公開が決まっています。
しかし、この『キングダム』シリーズはほう煖という物語上の悪役が勝ったまま、「これで終わり」という未消化感があるのも事実です。
それでも、原作の内容を無理やり映画の4部作に納めるなどして、ダイジェスト的になってしまうよりも、原作の序盤を(具体的には16巻までを)丁寧にやり遂げるという本シリーズの試みは、やはり「正解」だとも思えます。同じく山崎賢人主演の『ゴールデンカムイ』も、それでこその高評価を得た(ただしその後のWOWOWでのドラマシリーズの展開は賛否両論)といえるでしょう。
また、ゆったりめなテンポで映画の序盤を描くこと自体が、悪いというわけでももちろんありません。それこそ、同じく佐藤信介監督の漫画の実写映画化作品『アイアムアヒーロー』では、序盤の日常描写を長めに描いており(それでも20分程度ですが)、それでこそ見知った世界が崩壊する絶望が示されていたりもするのですから。
そのあたりを考慮してもなお、やはり今回の『キングダム 大将軍の帰還』の「さすがにテンポが鈍重すぎる」印象は覆りませんし、それは他の大ヒットしている日本の実写映画作品、具体的には『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や『変な家』でも感じていた問題でした。
もちろん俳優の演技の「間」や、ゆったりしたテンポこそが魅力になる映画もありますが、若者が「タイパ」を重視したり「倍速視聴」もしている現代だからこそ、こうした万人に向けられた実写映画では、やはりもう少しだけでもテンポの良い作劇や演出も重要視してほしいとも思うのです。
それでもなお、『キングダム』シリーズが達成したエンターテインメントとしての「力」はとても強く、原作の個性的なキャラクターを見事に体現した俳優陣の奮闘が歴史に残るのも事実です。今後の漫画の実写映画化作品にも期待しています。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)
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