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都知事選を想起させる? 映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の「大真面目な面白さ」を解説

オールアバウト / 2024年7月27日 20時25分

都知事選を想起させる? 映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の「大真面目な面白さ」を解説

2024年7月26日より劇場公開される映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』。「トンデモ」な内容に思われるかもしれませんが、実は「大真面目」な魅力があったことを解説しましょう。(サムネイル画像出典:(C)2024「もしも徳川家康が総理大臣になったら」製作委員会)

同名ビジネス小説を原作とした映画『もしも徳川家康が総理大臣になったら』が7月26日より劇場公開されます。

タイトル、ぱっと見のビジュアル、設定と、それぞれが「トンデモ」なコメディー映画であり、ひょっとすると「おふざけ」に始終する内容と思われるかもしれませんが……実際の本編は、はっきり言って「大真面目」!

劇中のパロディギャグや極端なシチュエーションは確かに笑えるのですが、後述する通り主題となるのは現実の日本にある問題であり、そこに真剣に斬り込んでいたりもする、「政治エンターテインメント」の新たな快作だったのです。さらなる魅力を、本編のネタバレに触れすぎない範囲で記していきましょう。

予備知識は「なんとなく知っている」程度でOK

本作は特別な予備知識をほとんど必要としません。登場する歴史上の偉人たちの特徴は学校の授業で学んでいる程度、なんとなくの「こういう人なんでしょ」というイメージだけで十分。むしろそのほうが「実はこうだった」というトリビアや偉業(はたまた謀略)を聞いて面白く見られるかもしれないほど。豪華俳優陣が「なりきる」様を眺めているだけでも楽しいですし、その功績や性格の描き方にはリスペクトも十分に感じられました。

さらに、メインとなる政治劇にも小難しい点はほとんどありません。現実のコロナ禍にあった混乱と、それに対する大胆な政策を扱っており、小学校高学年ごろからなら全く問題なく楽しめるでしょう。

原作小説を読んでみると映画化のための取捨選択もなかなか的確に思えましたし、「上映時間110分」と2時間未満でテンポもよく、展開もバラエティに富んでいて飽きさせないので、「タイパ」を気にする層にもピッタリでしょう。老若男女におすすめできる娯楽作として、申し分のない内容でもあるのです。

さらに、先日行われた東京都知事選挙を本作の物語に重ね合わせる人も多いはずです。その結果に悔しい思いをした人こそ、(後述する問題を前提にした)最終的に打ち出されたメッセージは決して絵空事ではないのだと、希望を感じられるかもしれません。

歴史上の偉人たちがコロナ禍の政治に挑む「IF」の面白さ

本作の触れ込みは「AIで復活した偉人たちによる最強ヒーロー内閣の活躍を描いたコメディ映画」。物語の始まりはコロナ禍の2020年で、首相官邸でクラスターが発生し、総理大臣が急死。かつてない危機に直面した政府は最後の手段として、歴史上の偉人たちをAIホログラムで復活させて最強の内閣を作るのです。

そのメンツは、総理大臣の徳川家康を筆頭に、織田信長、豊臣秀吉、坂本龍馬など、もはや「オールスター」といえる顔ぶれ。日本のみならず世界中が混乱と恐怖に陥ったコロナ禍が記憶にまだ新しい今、もしも歴史上の偉人たちがあの時の政治に介入したらどうなるか? という「IF」を見るという面白さがあります。

その最強ヒーロー内閣の政策は初めこそ「思い切りがいい」「大胆」と言えば聞こえはいいですが、裏を返せば「強引」「いいかげん」ともいえるもの。もちろん初めは国民から大ブーイングで内閣支持率は落ち込みまくるわけですが、その印象をどのように逆転していくかという過程もまた興味をグイグイと惹くのです。

坂本龍馬の夢女子(男子)の“ガチの夢”をかなえる赤楚衛二

豪華キャスト陣それぞれが素晴らしいのですが、中でも特筆すべきは赤楚衛二演じる坂本龍馬でしょう。端的に言って、めちゃくちゃかっこいい! 「ぜよ」を筆頭とする土佐弁のハマりぶり、カリスマ性と心を全て預けたくなる親しみやすさを兼ね備えており、考えうる限り最高のキャスティングおよび演技というほかありません。

これはもはや、坂本龍馬の夢女子(男子)の“ガチの夢”を、実写における最高の形でかなえていると言っても過言ではありません。夢女子とは自分あるいは自分を投影したオリジナルキャラクターが創作物と関わることを夢見る人を指す用語。これまで夢女子ではなかったという人も、後述する主人公の「正直さ」を褒めてくれる上に、若干のツンデレさもいいスパイスになっている坂本龍馬こと赤楚衛二に対して、「あっ、好き。大好き」となり動悸が止まらなくなることでしょう。

さらに、カリスマ性が青天井で「ダークヒーロー」的な印象もある織田信長役のGACKT、とある有名テレビ番組のパロディがハマりすぎている北条政子役の江口のり子なども、これ以上なく魅力的。見た人それぞれの「推し」もきっと見つけられるでしょう。

いい意味で「冷めさせてくれる」浜辺美波演じる主人公

物語上では最強ヒーロー内閣はなんだかんだで国民に大いに受け入れられ、政治を「政(まつりごと)」と呼ぶことにならうかのように「お祭り」騒ぎにもなるのですが、浜辺美波演じる新人テレビ局員の主人公が「冷静な視点」を持ち続けていることも重要でした。

例えば、彼女はまるで「パリピ」のように登場する竹中直人演じる豊臣秀吉に対して「ああいうノリ生理的に無理なんです」と正直に言ったりもします。つまりは「陰キャ」寄りのキャラクターでありつつも、とある失敗を経て、今までほとんど知らなかった坂本龍馬に対して一夜漬けで勉強をしたりするなど、根は真面目な努力家でもある、とても好感の持てる人物なのです。

それだけでなく、主人公は初めこそ国民から批判が殺到していたのに、政策が成功して打って変わって称賛されお祭り騒ぎになるという、絵に描いたような「手のひら返し」の危うさもはっきりと口にします。やはり、彼女は観客の目線に極めて近い、いい意味で「冷めさせてくれる」役割でもあり、それが最終的に強く打ち出された、とあるメッセージにも綿密に絡んでいることもクレバーでした。

なお、同じく武内英樹監督と徳永友一の脚本というコンビで送り出した『翔んで埼玉』も、荒唐無稽な話をラジオで聞く「現実的な視点」を挟む構造がありました。そちらが原作にない映画オリジナル要素だったのに対し、今回は原作からある主人公像ではあったのですが、その作家コンビのアプローチが引き継がれていることも興味深い点です。

カリスマ性にただ溺れる、はたまた盲目的になることの危うさ

そもそも、歴史上の偉人にしても、織田信長による比叡山延暦寺焼き討ち、徳川綱吉が制定した生類憐れみの令など、彼らを英雄と単純に崇めたりするのははばかられる事実もあります。

劇中の政策も、その思い切りの良さと確かな意志があってこそ成功したといえる一方で、「たまたまうまく行った」という印象も残り続けます。それを経て、現代によみがえった歴史上の偉人たちそれぞれのカリスマ性に国民がただ「溺れる」ような危うさを示すのも、誠実な作劇であると感じました。

さらには、劇中で「TikTokのダンスがバズる」ことも、いい意味でとても居心地の悪いものとして描かれいたりもします。そうした本質的な政策の内容などとは違う「キャッチーさ」ばかりがもてはやされてしまう問題に、現実でも危機感を覚えた大人は多いことでしょう。それでいてSNSの全てを短絡的に否定することなく、若い人にも強烈に響く形で「盲目的になることへの危うさ」「主体的に考えることの大切さ」を示すことも、とても重要でした。

ツッコミどころもあるけど、1本の筋が通っている

ここまで本作を称賛しましたが、決して完璧な映画というわけでなく、ややノイズになってしまうツッコミどころも散見される、というのが正直なところです。

特に気になったのは、コロナ禍の最中であるのに、一般市民や記者がそうとは思えない姿や場面を見せていること。歴史上の偉人たちはホログラムで表現したAIなのでずっとノーマスクで問題ないですし、他の主要キャラクターがマスクをしないのも演技を見せるためには仕方がないと思うのですが、それにしたって見た目にも分かりやすいお祭り騒ぎに早めに転換してしまうため、「いくらなんでも訴えられたばかりの“3密”を国民が守らなすぎでは?」とツッコミも入れたくなったのです。

ネタバレになるので詳細は省きますが、終盤のスリリングな展開は確かに面白いものの、冷静に考えると「こういう状況でこういうことする必要はないよね?」と登場人物の言動の必然性に乏しいところもありました。中盤で提示される「暗号」も原作ではしっかりした説明があったのですが、映画ではやや強引さを感じてしまいました。​​​

さらに好みが分かれそうなのは、正直に言って「説教くささ」も出てしまっていること。確かに「メッセージをはっきりと言葉で言う」ことが重要な内容ともいえるのですが、「主体的に考えることの大切さ」とはややマッチしていない印象もあり、これまでの軽快なテンポもやや停滞している印象がありました。

ただ、そのメッセージが「長くなる」ことを劇中でも明言していたりもしますし、「作り手も自覚している欠点ではあるけれど、それでもあえてこの手法を選んだ」という意志も大いに伝わりました。

さらに、そこかしこにツッコミどころがある一方で、主たる物語には「本当に正しい政治や民主主義は何かと問い続ける」と言う1本の筋がしっかり通っていますし、表面上ではめちゃくちゃに思える政策にもちゃんとしたロジックが根底にあります。

ただふざけているだけではどうでもよくなってしまいそうなところを、「真面目なところは真面目に突き通す」という作り手のアプローチのおかげで、十分な説得力が備わっていたりもするのです。

そんなわけで、大真面目に現代の政治の問題に向き合い、1本の娯楽映画としてもしっかりとしている『もしも徳川家康が総理大臣になったら』は、やはり政治エンターテインメントの新たな快作でした。原作では、映画では省かれた偉人たちの活躍もあるので、あわせて読んでみるとさらに楽しめるでしょう。

同じく武内英樹監督と徳永友一の脚本コンビの最新作、12月13日公開予定の『はたらく細胞』にも大期待しています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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