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「プールの水出しっぱなし」は先生が弁償するべき? ヒューマンエラーによる賠償責任のあり方を考える

オールアバウト / 2024年7月29日 21時50分

「プールの水出しっぱなし」は先生が弁償するべき? ヒューマンエラーによる賠償責任のあり方を考える

学校のプールの水を止め忘れて損害を発生させたとして、教諭らが賠償を申し出るケース。個人的に弁償させるのが妥当か否か、毎度議論になってもいます。この手の問題のあるべき対処について考えます。

先日、東京都江戸川区の小学校で、教員が誤ってプールの水を出しっぱなしにしてしまい、水道代金約50万円を責任者である学校長が賠償を申し出たことが話題になりました。

昨年にも、川崎市立の小学校でプールの水を5日間出しっぱなしにした教諭らに市教育委員会が約95万円を賠償請求し支払われた例もあり、この手の問題は損害を個人負担させることが妥当であるのか否か、毎度議論になってもいます。

公共と民間の立場の違いも踏まえつつ、この手の問題のあるべき対処について考えてみます。

問題は“公立学校”での事故という点

一般に不祥事における賠償責任は、まず真っ先にその発生が「意図的であったか否か」が問われます。「意図的であった」場合には、ほぼ無条件でその当事者に賠償責任が生じると考えていいでしょう。

問題は「意図的でなかった」場合、重過失であるか否かということが、賠償責任が生じるかどうかのひとつの判断基準になると考えられます。

例えば、幼稚園児の送迎バス置き去り事故などのケースでは、事故関係者の職務遂行上で絶対にあってはならない過失であるという観点から、賠償責任は当然に生じるわけです。

では、学校のプールの水を出しっぱなしにしたということが教師の職務遂行上の重過失になり得るか否かですが、教師のあるべき職務という観点からは重過失とは言い切れないのではないかと思われます。

しかしこれを「お咎めなし」として済ますには、江戸川区も川崎市の事例も、“公立学校”での事故であるという点が問題になるのです。

すなわち、それぞれの損害金である約50万円、約95万円は、最終的に公金での負担となってしまう。市民の税金で賄われてしまうと、納税者に対して説明がつかない、という問題です。

一方で、公立高校の教師の給与・報酬は、市民の税金で支払われているという側面があります。

ならば、教師個人の給与・報酬による所得からその事故の損失負担をさせるのであれば、結果的に損失埋め合わせに関して税金の支出はなくて済むということになるのです。

恐らく、学校サイドの判断は上記のような考え方を基本として、当該の教師と学校の責任者である校長が、その公的給与で損失負担をするという結論に至ったのではないでしょうか。

ただやはり、教師の職責上からは重過失とは言い切れない過失事故の損害負担を個人に負わせることには変わりなく、本当にその決着方法が適切であるか否か、判断は悩ましいところではないでしょうか。

では、同様の事故が“民間企業”で起きた場合、その対処は一般的にどうあるのかについて、考えてみます。

原則的には組織が賠償責任を負う

まず民間企業の場合には、業務遂行上で発生した事故損失については、それが「意図的であった」と判断されない限りにおいては原則、当事者本人や部門管理者が損害に関して個人的な穴埋め負担を求められることはないでしょう。

基本は組織会計における損金処理という形で、組織がその負担を負うという形になります。

なお、“原則”と申し上げたのは、中小企業などのオーナー系企業で経営者=大株主であるケースでは、経営者の意向によって「事故損失は当事者個人に負わせるべき」という判断が下されることがあるからです。

この場合、業務上の単純過失による損害を社員個人が負担させられることには納得がいかない、と思うかもしれません。

しかしオーナー企業のトップにおいて、経営者としてではなく企業の所有者である株主の立場から、損失は当事者が補填(ほてん)すべしと判断したとなれば、それには抗弁しにくいということになるのです。

民間企業においては、仮に事故の損害補填が当事者や管理者に求められなかったとしても、その過失の度合いに応じてなんらかの罰則は課されるのが一般的です。

もっともオーソドックスなやり方としては賞与の評価に組み入れて、賞与金額の減額などで反省を促すというものです。

上場企業などにおいて大きな過失事故が起きた場合など、経営者や担当役員の賞与カットや返上という対応が発表されることがありますが、まさしくこのような考え方に基づいた対応であるといえます。

賞与評価の対応が“一般的”と申し上げたのは、その事故が特定の期間、損益に影響を与えた一過性の過失事故であり、そのマイナス査定自体も一過性のものとして扱われるべきとの考え方に立つからです。

ただし、仮に過失そのものが軽度のもので損失もわずかなものであったとしても、犯した当事者が同じ類の過失をこれまでにも犯している場合には、別途人事考課のマイナス査定材料となって降格、減給等の対応もあり得るでしょう。

より納得しやすい解決方法は

このようにプールの水道の閉め忘れのようなヒューマンエラーによる個人賠償のあり方は、公的機関と民間企業によって基本的な考え方が異なっていると思われます。

これは最終的に誰の責任に負わせるかの判断の違いではなく、損害を誰の負担にすれば納得性が高いか検討する必要があるかないかの違いであるように思います。

公立小学校のような公共団体の場合には、原資が税金であるという点がネックとなって、税金の無駄遣いとならない解決法を求めざるを得ず、当事者の個人負担は免れ得ないということになってしまうのでしょう。

しかしひとつの解決法として、水道料金というものが公共料金であることから、事故発生の公共団体との協議の上で議会等の承認を経て、当該公共料金負担については免除扱いにするというやり方もあるのではないかと思います。

これ以外にも、公立学校単独ではなく市や県といった地方公共団体全体の問題として捉えるならば、より納得性の高い解決方法の検討余地があるかもしれないと思うのです。

小学校のプールの件で賛否両論が語られスッキリしないのは、そういった検討がなされた形跡がないことにあるのかもしれません。

大関 暁夫プロフィール

経営コンサルタント。横浜銀行入行後、支店長として数多くの企業の組織活動のアドバイザリーを務めるとともに、本部勤務時代には経営企画部門、マーケティング部門を歴任し自社の組織運営にも腕をふるった。独立後は、企業コンサルタントや企業アナリストとして、多くのメディアで執筆中。
(文:大関 暁夫(組織マネジメントガイド))

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