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「PFAS」の人体への影響・健康リスク……水道水から基準値超えの検出報告も

オールアバウト / 2024年8月8日 20時45分

「PFAS」の人体への影響・健康リスク……水道水から基準値超えの検出報告も

【大学教授が解説】日本国内の水道水やペットボトル入りのミネラルウォーターから「PFAS」が検出されたと報道されています。PFASとは何か、人体への影響・健康リスク、どう対応すればよいのか、わかりやすく解説します。

全国各地の河川や井戸水、さらには一部の水道水やペットボトル入りのミネラルウォーターなどに、発がん性が指摘されている「PFAS(ピーファス)」と呼ばれる化学物質が含まれていることが報道され、不安に思われている方も多いことでしょう。

そもそもPFASとは何なのか、知らずに飲んでしまったときの人体への影響、今後どのように対処すればよいのかなどについて、わかりやすく解説します。

PFASとは……生活用品、化粧品、医薬品など、広く使われている化合物

実は「PFAS(ピーファス)」とは、特定の化合物を指す言葉ではありません。化学構造中に炭素とフッ素原子を含んだ化合物のすべてを指す総称です。

「PerFluoroAlkyl Substances(ペルフルオロアルキル物質)」及び「PolyFluoroAlkyl Substances(ポリフルオロアルキル物質)」の略称で、焦げ付きにくいフライパンなどの調理器具のコーティングに使われているPTFEも、PFASの一種です。

その他の身近な生活用品にも、PFASは広く利用されており、衣類、カーペット、家具、調理器具、食品包装、塗料やインク、工業用クリーナーや潤滑油などが挙げられます。

汗や皮脂による化粧崩れを防ぐ効果も期待されるため、化粧品にもよく含まれています。ウォータープルーフのマスカラやアイライナー、ファンデーションにはたいてい入っています。

医薬品にもフッ素原子を含んだものが数多くあります。1991~2017年の27年間に発売された世界の医薬品のうち、およそ16%がフッ素を含んでいると報告されています。

なお、フッ素と聞くと「虫歯予防に使われるもの」と考える人もいるかもしれませんが、虫歯予防に用いられているのは「フッ化物イオン(F-)」であり、炭素原子を含んだ化合物ではありません。

そのため、PFASには該当しません(※フッ化物イオンの記号に付される「-」は、正確には上付き表記)。

PFASはなぜ生活に活用されたのか

ではPFASは、なぜ私たちの生活にここまで入り込んできたのでしょうか? その理由を理解するためには、「フッ素原子(F)」がもつ特徴を知っておく必要があります。

やや専門的になりますが、フッ素原子は、原子番号が9ですが、原子番号2~8の原子(He, Li, Be, B, C, N, O)よりもサイズが小さく、水素と同じくらいです。

その一方で、フッ素は、すべての元素の中で電気陰性度が最も強く、電子を強力に引き寄せる性質があります。そのため、フッ素を含む有機化合物中の炭素–フッ素結合は結合力が強く、簡単には分解されないのです。

そのため、有機化合物の一部の水素をフッ素に置き換えれば、分子サイズや構造そのものはあまり変わりなく、安定性の高い物質へと変えることができます。

また、炭素-フッ素結合が強力で安定していることが、水や油をはじきやすい(撥水性・撥油性)という性質にも反映されています。

「PFOS」「PFOA」、現在問題になっている2種のPFASの特徴

今回話題になっている化合物の具体的な名称は「PFOS」「PFOA」ですが、どちらも「PFAS」の代表的な化合物です。それぞれ、PerFluoroOctaneSulfonic acid(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PerFluoroOctanoic Acid(ペルフルオロオクタン酸)の略称です。

参考までに、それぞれの化学構造式を下図に記します。
PFOSとPFOAの化学構造
PFOSもPFOAも、優れた撥水性や耐熱性などが注目され、私たちの暮らしを便利にする素材として利用されてきました。

しかし、動物実験においてホルモン異常やがんを発症するリスクを高めるなどの報告が相次ぎ、人間においても健康被害が懸念されるようになったため、国際的な規制が進んできたという経緯があります。

日本におけるPFAS規制の現状・私たちはどう対応していくべきか

日本においては、PFASの規制が海外よりも遅れたと指摘されていますが、現在ではPFOSとPFOAに関しては、特定の用途を除き、製造・輸入・使用等が禁止されています。

このところ日本の各所で、河川や井戸水、水道水などのPFAS濃度が基準値を超えているとの報道が相次いでおり、その地域に住んでいる方にとっては健康被害の不安が募っておられることでしょう。

しかし、現時点では過剰な心配はしないほうがいいと考えられます。「発がん性リスクがある」と聞くと、その水を飲んでいたせいでがんを発症する可能性が高いのではと考えがちですが、発がんのリスク因子は、ごまんと報告されています。

もちろん少ないことに越したことはありませんが、PFASがその一つだったとしても、それだけで命にかかわるほどの影響を持つ可能性は、現実的には低いからです。

ただ、このまま放置しておくわけにはいきません。私たちの子孫に、大きな「負の遺産」を残しかねないからです。上述したように、PFASは化学的に非常に安定しているため、水源などに排出されてしまうと、なかなか分解されず、いつまでも残留します。

一定の規制がされた後でも、環境中のPFAS濃度が増え続けていることを考えると、今のままでは、近い将来、無視できない被害が生じる可能性が十分にあります。

筆者としては、人間が犯してきた過去の公害や薬害などの事例を教訓に、PFASに関しても規制をさらに強化すべきだと思います。将来、「後悔先に立たず」とならないことを祈るばかりです。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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