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「難関校だから」で選ぶと後悔…中学受験でやみくもに高偏差値校を目指すことの弊害

オールアバウト / 2024年8月8日 21時45分

「難関校だから」で選ぶと後悔…中学受験でやみくもに高偏差値校を目指すことの弊害

中学受験が過熱しています。しかし、少しでも偏差値の高い学校を目指した結果、親子関係が悪化したり、入学後にやる気を失うなどの弊害も生まれています。後悔しない中学受験にするために大切なことを、この道20年の教育ジャーナリストが解説します。

過熱する中学受験、その理由は?

中学受験が過熱している。そういう報道をよく耳にします。

確かに、過去9年間、首都圏の中学受験者数は過去最高を更新し続け、直近2023年の受験者数は少し減ったものの、受験率は逆に上昇しました。公立中高一貫校を入れると、首都圏の小学生のおよそ4.7人に1人が中学受験をしています。

首都圏に次いで中学受験が盛んな関西圏でも、少子化の影響で小学校卒業児童数は減少していますが、中学受験者実数は20年ぶりに2年連続の増加、中学受験率も過去3番目の高さになりました。

首都圏、関西圏共に、今後受験者数が大幅に増えていくことは考えにくいですが、関係者の間では、受験率は今後も高止まりするのではないかといわれています。

その理由は、公立中高一貫校もできたことから、子どもの進路選択の1つとして、中学受験が特殊なことではなくなってきた結果ともいえるでしょう。

加えて、今は夫婦ともに働いていて経済力があり、仕事をする中で、社会で求められる力の変化を実感している人も多くいます。そのため、コストはかかっても、子どもによりよい教育を与えたいと考える家庭が増えているのです。

「よい教育」の定義はさまざまですが、子どもの教育に関心が高い親たちにとって、中学受験は強力な選択肢であることに間違いありません。

ただ、「周りもするからうちもした方がいいのかな」と考えて、とりあえず塾に行き出す人は多いですが、そういう考えでこの道に参戦すると、後悔することも。なぜなら、知らない間に偏差値信仰に取り込まれ、受験塾のプログラムに翻弄されることになりかねないからです。

少しでも偏差値上位校を目指した末に起きた残念な結果

筆者はこれまで20年間にわたってこの世界を見てきました。そして、200校以上の学校を取材、2万人以上の受験生の親に会ってきました。

その中で、実際に、せっかく高偏差値の学校に入学できたのに、子どもが「いい学校」に入れたのだからもう勉強しなくてもいいでしょと、入学後学ぶ意欲をなくしてしまったケース、入学後も成績を上げるようとする親にコントロールされ続け、思春期になって親子関係が悪化したケース、膨大な量の宿題・課題に付いていけず不登校になってしまったケースなどを見てきました。

合格するまではなんとか頑張ろうと、志望校合格だけを目標に頑張った子ほど、受験勉強から解放されたときの反動は大きくなることがあります。

「中高一貫校に入りさえすれば、学校がケアしてくれて上に上がれるはず」と考えている人もいますが、学校の求める学力に達しないために、高校に上がれない子もいるのが現実です。何より、入学後に子どもが生き生きと学校生活を送れなければ、受験を頑張ってもなんの意味もありませんよね。

また、受験にチャレンジする中で、偏差値的価値観に染まると、子どもが本来持たなくてもいい劣等感を抱いて「自己肯定感」を下げてしまったり、反対に「おかしな優越感」を持ってしまったりすることがあります。

成績別クラス分けは、本来それぞれの子どもの力に合わせた指導をするために設けられているはずですが、上位クラスにいることがステータスになってしまい、下位クラスに落ちると自分は勉強ができないと思い込み、やる気を失うことも。

やる気をなくすくらいならまだいいですが、ストレスから弱いものいじめに走ったり、問題行動を起こす子もいます。

せっかく、子どもによい環境を与えようとトライした受験で、こんな結果になったら残念ですよね。そうなってしまう元凶の1つが偏差値信仰だと、筆者は考えています。

偏差値は学校を評価する指標ではない

本来、偏差値はある集団の分布を見る指標に過ぎませんが、受験においては、あたかも「学校の価値を決める指標」のように使われています。

そうなってしまう原因の1つが、偏差値表です。上から下に並べられているあの表を見たら、「この学校はあの学校より上」「この学校は最下位クラス」という序列に見えてしまいます。

塾は少しでも上の偏差値の学校に合格させようとしますし、学校も、偏差値が下がると受験生が集まらないので、必死になって偏差値を上げようとします。

しかし、当然のことながら、偏差値は教育の中身を表す指標ではありません。

筆者も、取材をする中で、「こんな素晴らしい取り組みをしているのに、なぜこの偏差値?」と思う学校がいくつもありました。

反対に、広報が上手で、まだ成果も出ていないのに偏差値だけが上がっている学校も見受けられます。学校を選ぶ際も、目に見える数値だけで判断するのではなく、中身を見極める目が必要なのです。

一方で、中学入試も多様化しています。小学校で英語が教科化されたこともあり、ここ数年で急速に増えているのが、英語入試です。こちらも実施校は2014年の15校から10年で142校へと拡大。英検などのスコアによる優遇制度を設けている学校も増えています。

さらに、首都圏では、自分が頑張ってきたことを紹介するプレゼン型の入試や、課題にどう向き合うかをみるPBL(問題解決)型入試、プログラミング入試など、さまざまなスタイルの入試が出現しています。

これらの「新タイプ入試」は、生徒募集に苦しむ私学の生徒集めの手段と揶揄(やゆ)する声もありますが、多面的な能力を測ろうという考え方は、世界的な潮流でもあり、大学入試の変化にも対応しています。まだまだ全体の人数の中では、小規模ですが、塾主導の受験に風穴をあける取り組みです。

「受験軸」が最高の合格を勝ち取る鍵

そんな中、受験児童を持つ親の意識も変わってきているようです。

従来通り、4年生からしっかり進学塾に通って4科目受験で難関校を目指す層以外に、塾には通っているが、偏差値重視ではなくわが子に合った学校を選ぼうと考える層。習い事などを並行して続けながら、公立中高一貫校との併願や2科目受験と新タイプ入試を活用して中学受験をする、あるいは志望校に行けなかったら公立でいいと割り切っている「ライトな受験」をする層も増えています。昨今の中学受験者数を押し上げているのが、こうした家庭なのです。

そんな動向を反映するように、中堅校といわれる学校の人気が高まっています。

高偏差値の学校に入れたら安心という時代でもありません。むしろ今後必要なのは、どれだけ学びを深め自分のものにすることができるかということと、学び続ける意欲です。受験はゴールではなくスタートなのです。

やって良かったと思える受験にするためには、短期的な目標や周りが決めた指標に従うのではなく、親子で「何のための受験なのかを見失わない冷静さ」を持てるかどうか。そして、親の見栄ではなく、本当に子どものことを考えた学校選びをすることが重要です。

それを筆者は、「受験軸を持つ」と表現しています。

やみくもに偏差値を上げることを目指すのではなく、「何のために受験をするのか」「どんな受験にするのか」を考え、わが家の軸を決めることが最高の合格を勝ち取るためには欠かせないのです。

8月22日に筆者の新刊『中学受験 親子で勝ち取る最高の合格』(青春出版社)が発売されます。この本では、やって良かったと思える受験にするための受験軸の作り方や、軸を持つ上で知っておきたい、塾選び・学校選び・親子の信頼関係の築き方まで解説しています。

この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。
(文:中曽根 陽子)

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